ジョブズへの憧れが生んだ挑戦 ― エクスプラザ CEO 高橋一生氏が目指す「挑戦する人が増える社会」
企業の業務プロセスそのものをAIで作り変える―「業務AX(AI-DX)」を掲げる株式会社エクスプラザ。生成AIの活用支援とプロダクト開発を両輪に、コンサルティングから開発・運用までを一気通貫で手がける。同社を率いるのは、代表取締役CEOの高橋一生氏だ。ものづくりの町に育ち、メルカリで決済サービス「メルペイ」の開発に携わった高橋氏は、なぜ生成AIに事業を賭けたのか。その構想の起点と到達点を聞いた。

深夜2時のKeynote
高橋氏のテクノロジーへの関心は、新潟で芽生えた。中高生の頃、ちょうどiPhoneが登場し、情報革命を目の当たりにした世代だという。なかでも夢中になったのが、スティーブ・ジョブズのKeynoteだった。
「日本時間の深夜2時に始まるのですが、よく徹夜で見ていました。新潟の田舎にいても、テクノロジーの可能性を感じながら参加していたという中高時代でした」。
憧れは行動力の源泉となる。高校の英語スピーチコンテストでジョブズを意識したスピーチを披露し、入賞。賞品はシリコンバレー周辺での1週間のホームステイだった。現地でApple好きだと話したところ、ホストファミリーがジョブズの自宅まで連れて行ってくれたという。
「ジョブズに憧れて行動したら、ジョブズの家を見ることができた。そんな体験もあって、中高の頃から、ITやテクノロジー、海外といった目線が続くようになりました」。
テクノロジーと海外への視座は、このとき定まった。大学時代には学生起業やシリコンバレー、ベルリン、ホーチミンでのインターンシップを経験している。
テクノロジーで、格差を埋める
2018年、高橋氏は当時ユニコーン企業だったメルカリに入社し、メルペイの立ち上げに参画する。各社がしのぎを削ってスマホ決済サービスを乱立させる、キャッシュレス競争の最前線だった。プロフェッショナルなものづくりの可能性を実感する一方で、別の課題も見えてきた。情報リテラシーの格差である。
「どれだけ便利なサービスを作っても、使わない人は使わない。しかし、情報リテラシーの格差によって、社会格差や金融格差が起きてしまう。せっかくのテクノロジーがもったいない、という気持ちを抱いていました」。
その「もったいない」という感覚が、次の起業の動機になった。2020年、高橋氏は格差の是正をテーマに会社を立ち上げる。当時取り組んだのは、「人の思いを、テクノロジーが実現してくれる社会」を目指した、コンシェルジュサービスやチャットボットサービスだった。「明日釣りをしたい」と言えば用具の予約まで済ませてくれる——現在のChatGPTが行っているようなことを、人力やルールベースで実現しようとしていた。
転機は2023年に訪れる。
「2022年末から2023年にかけて、OpenAIからGPT-3.5や4.0が出てきたタイミングで、これはもともとやりたかったことが実現できそうなテクノロジーだと直感しました。そこから事業を全て生成AIに転換し、今に至っています」。
手段は人力から生成AIへと変わった。だが、誰もが思いを実現できる社会をつくるという思いは、創業当初から一貫して変わっていない。
使われなければ意味がない―アウトカムへのこだわり
従来のコンサルティングやシステム開発では、「言われた要求・要件どおりに作る・支援する」ことがゴールになってしまうことも少なくない。だが、現場への理解が浅いまま納品されたものは、結局使われずに終わってしまう。
高橋氏が目指すのは、「つくること」ではなく、「現場で実際に使われ、成果につながること」だ。
その姿勢は、メルカリ時代に培われた。数千万人が使うプロダクトのトップ画面を任され、ユーザーの声に徹底的に耳を傾けながら、UI/UXやユーザーストーリーまで作り込んできた。
「若い方からお年寄りまで、どれだけ分かりやすい画面にするか、どういったシナリオを想定して体験を設計するか。一つひとつ検討しながら、“本当に使われるもの”をつくる。その経験が、今の仕事の土台になっています」。
この経験は、現在の業務AX支援においてもそのまま生きている。言われたものを形にして終わりではなく、現場を理解し、使われ、成果が出るところまでやり切る。
「いろいろなシステムを作ったり導入したりしたけれど、結局、現場では使われていない。そういう話は本当によく聞きます。使われなければ意味がない。だからこそ、アウトカムにこだわってやり切ることを大事にしています」。
5月末にパブリックベータを公開したAIワークフローツール「Palma」にも、同じエッセンスが流れている。大企業の多様な職種がチームで日常的に使う前提で、「誰もが使いやすく、使いたくなるか」を社内で何度も議論しながら設計してきた。コンサルティングや開発支援においても、その思想は一貫している。
現場の知見を、再現可能な基盤へ

エクスプラザの事業は、コンサルティング・システム開発中心の「Explaza 生成AI Partner」と、プロダクトである「Palma」の二本立てだ。高橋氏は、この二つを同じ思想のもとにある「支援の形の違い」だと説明する。
「パートナー事業では、個別最適で企業のAI活用ステージに合わせ、研修・コンサルティング・システム開発を中心に業務AXを行っています。その中で生まれたユースケースや基盤を汎用化し、再現していくのが『Palma』です。現場でやってきた中で生まれたものをもとに、汎用化していくサイクルをつくっています」
高橋氏が強みとして挙げるのは、コンサルティングから開発までを一社で、かつ分断なく担える体制だ。たとえば、ある大手企業の支援では、人手に依存しがちな業務や、複数部門にまたがる手作業中心の連携を出発点に、業務構造の整理から候補業務の評価、モックアップによる体験検証、さらに事故対応や引継ぎといった業務のAI Agent化の設計・開発までを一気通貫で支援した。業務分析からPoC、AI Agent開発までを切れ目なくつなぐことで、現場に組み込めるAI活用テーマを明確化し、運用品質や対応スピードの向上に寄与している。
多くの開発が複数の事業者に分かれて進む中で、業務整理から現場の実装までを一気通貫で引き受けられる組織は多くない。こうした体制は、人手不足という日本の構造的課題とも噛み合う。
「日本は人手不足という制約をAIで補い、生産性と創造性を挙げることができる国だと思っています。アトムやドラえもんなど、AIに親しみを持つ文化的な土壌もあり、活用の議論や探索には面白みがあると思います」。
その先に高橋氏が描くのは、知識の民主化が当たり前になる社会だ。地方の町工場で働く人が自分たちで工場のシステムを組み、頭の中にあったアイデアを形にできる。
「AIによって作るコストが下がることで、挑戦のコストも下がります。やりたかったけれど諦めていたことが、できるようになる。挑戦する人が増える社会が、私の理想です」。
そのために必要なのが、思いついたものを継続的に運用し、改善し続けられる基盤だと高橋氏は言う。エクスプラザが構想するのは、業務そのものをAIとともに創造していくための、いわば「AI時代のOS」である。
会社の規模を広げ、手がけられる範囲を拡大しながら、日本の生産性と創造性を高めていく。かつてジョブズに憧れた少年は今、誰もが思いを形にできる社会の実現に挑んでいる。