「使うAI」から「任せるAI」へ ──「人とAIが共存する社会」へ、AIの社会実装を加速する

「使うAIから、任せるAIへ」。法人向けに生成AIの活用と組織変革を支援するシンシアリー株式会社で取締役CCOを務める小澤健祐氏は、AI活用の本質は技術ではなく組織変革にあると語る。AI専門メディア編集長を経て、複数企業の役員、自治体のアドバイザー、社団法人理事等を兼ねながら、「人間とAIが共存する社会をつくる」をビジョンに掲げ、AIの社会実装に取り組んでいる。

 

シンシアリー株式会社CCO小澤健祐氏

「使う」から「任せる」へ──AIエージェント時代の経営判断

 「2024年までと、2025年からでは次元が違う」。シンシアリーCCOの小澤氏は、現在のAI活用について、そう言い表す。

2022年末のChatGPT登場以降、多くの企業はプロンプトを書きこなすことに腐心してきた。「要約だけに使う、アイデア出しだけに使う、文章構成だけに使う。これでは表面的な活用に終始してしまいます」と、小澤氏は指摘する。だが現在、その潮目が大きく変わり始めている。

 「『使う』から『任せる』へ。言葉が変わっただけのようでいて、次元がまったく異なります。AIエージェントが業務を担う時代に入れば、企業が向き合うべき問いはもはや技術選定にとどまりません」、と小澤氏は語る。「どこまで任せていいのか、その権限をどう設計するのか。組織がどう変わるのかを考えなければいけない」。

 この本質を捉え得る企業は限られていると、小澤氏は見る。「AIがすごいと言うだけではなく、組織の観点、技術の観点を複合的に捉えて現場の変革を見られる会社は、今、それほど多くありません」。AI専門メディアの編集長として業界の最前線を俯瞰してきた小澤氏は、いまシンシアリー株式会社で企業の組織変革を支援する中枢を担う。その活動を貫いているのは、「人間とAIが共存する社会をつくる」というビジョンの実現に向け、AIの社会実装を加速させたいという意識である。

 その役割を引き受けた背景には、メディア時代に抱いた限界感がある。「メディアは報じるだけで、社会の実装を進めていく感覚があまりなかった」と小澤氏は振り返る。AIの社会実装を加速させるには、報じるだけでは届かない。現場に踏み込み、業務と組織そのものを動かす推進主体が要る。その問題意識こそが、小澤氏の現在の活動の原点を形成している。

AI導入の本質は、業務と組織を作り変えること

 シンシアリーが築く競争優位の源泉は、AI導入を「ツール導入」ではなく「組織変革」として再設計する視座にある。「組織のOSがすべて塗り替わる、という感覚を持つことが大事だ」と小澤氏は強調する。つまり、業務の進め方、意思決定、人の役割までが書き換えの対象となる。

 象徴的な事例が、ある大手建設会社との取り組みである。「現場では今、何千ものエージェントが作られている」と小澤氏は明かす。汎用的なチャットボットの導入ではない。日々の業務に紐づいた個別のエージェントが、現場の手で次々と組成されているのだ。同様に、小澤氏が顧問を務めるライトブルーでは、全社で約3,000のエージェントが稼働する状態にまで至った。「現場が、プロンプトをわざわざ書かずに、業務にエージェントを使える状態になっている」と、小澤氏は手応えを語る。

 こうしたアプローチを支えているのが、独自の方法論である。「AIエージェントに任せるということは、社内の独自属人性をゼロにしていくということ」。属人化した業務、暗黙知に依拠してきた判断を、徹底して分解し標準化する。これが「任せるAI」時代の生産性の前提条件だという。

 また、小澤氏は一般社団法人AICXの代表理事として、共創エコシステムの構築を牽引する。大手コンサルティングファームや、大手電子部品メーカー、大手印刷会社など多様な業界が名を連ねる同団体では、企業の垣根を越えて事例を蓄積し、知見を体系化する取り組みが進む。中立的な立場でAIの社会実装を進めるためには、一社単独ではなく業界横断の場が要る。その判断のもとに、自ら旗振り役を引き受けた。

 その象徴が、AICXによる認定資格制度である。「これまで、AIの知識だけを問う資格は多かったが、今回は業務分解の仕方や、組織がどう変わっていくのかまで扱います」と小澤氏は語る。受験申込は2,000名を超えるウェイティングリストに達しており、製造業を中心に、現場のリーダー層からの関心が集中する。資格の設計思想にも、技術と組織を一体として捉える小澤氏の哲学が貫かれている。

異色の経歴が拓く経営の視座

 小澤氏の経営哲学は、その経歴と不可分である。新卒で身を置いた企業では、AI専門メディアの編集長を担いながら、社員総会の企画から人事、広報、経営企画にまで自ら手を伸ばした。一つの専門領域を深掘りすることが評価される組織のなかで、職務の境界を越えて動き続けたのである。「好奇心旺盛で、なんでも自分でやってみたかった」と、小澤氏は当時を振り返る。

 「ちょっと変わり者であり続けることを、結構意識してきました」と、小澤氏は語る。業界の評価や肩書きよりも、現場が実際に動くことに価値を置く。一見すれば、脈絡を欠いた経歴に映る。しかし小澤氏は、これを「Connecting the dots」と表現する。「バラバラに見えていた経験が、後から振り返ると結局つながっている。今、会社経営や講演ができているのは、まさにそういった多様な経験のつながりがあるからだと思う」と小澤氏は明かす。

 その哲学は、現在の活動領域の広がりにそのまま投影されている。シンシアリーのCCO、複数企業の取締役・役員、経済産業省や千葉県船橋市など自治体のアドバイザー、AICX代表理事、日本大学文理学部・次世代社会研究センターのプロボノ。企業、行政、業界団体、アカデミア。別々の専門家が担うレイヤーを、小澤氏は一人の活動として束ねている。多様な所属にあっても、「AIの社会実装」という一本の線で貫かれている。

 これからのAI時代において、「ミドル世代の可能性も高まっている」と小澤氏は断言する。実務経験を欠く若手には、AIに業務を「任せる」設計はできない。営業メールを起案したことのない人材が、それをAIに委ねきることは難しい、というのが小澤氏の見方である。「経験を持つ世代が、自らの暗黙知を体系化してAIに渡せるかどうか。それが、これからの企業のAI活用を左右する」。

 「批判的な思考は、新しいことを始めるときの推進力になる」。既存の慣行への違和感を起点に、多面的な視点から組織変革を解きほぐしていく。この流儀こそが、小澤氏が動員する最大の経営資源かもしれない。そしてそれは、AI時代の経営者一般にも当てはまる。自社のなかに違和感を持つ視座を確保できるかが、競争力を左右する。

経営者に問われる、現場を変える覚悟

技術の導入は、もはや難しくはない。難しいのは、AIに業務を委ねる前提として、自社の業務と組織のあり方そのものを作り変える覚悟を持てるかどうかである。「現場を変える勇気がなければ、何も始まらない」と小澤氏は繰り返す。そして、「AIによって、現場がどう変わっていくのかだけでなく、社会がどう変わっていくのか。多岐にわたって考えていくことも重要だ」という。

使うAIから任せるAIへの転換期に、社会動向を捉え、組織を見据え、覚悟をもって舵を切れる経営者こそが、次の時代を切り拓いていく。点と点を一本の線に結んできた小澤氏は、いま、その線を「人とAIが共存する社会」へと伸ばしはじめている。