意思決定を、データで変える―三橋CEOが描く、予測の先

日本企業はデータという武器を、まだ十分に手にできていない。世界水準のものづくりや金融、流通を抱えながら、データから本当の意味で差別化を生み出せている企業は少ない。その点に問題意識を感じた株式会社メロンの三橋勇太CEOは、共同創業者の本田崇人CTOとともに、時系列解析という独自の武器で世界に通用するAI開発に挑む。

(株式会社メロン 代表取締役CEO 三橋 勇太氏)

世界で使われる日本発のAIを ― 共同創業の起点

 株式会社メロンは、時系列データの分析・予測技術を主力とするAI企業である。代表取締役CEOの三橋勇太氏は、一橋大学MBA修了後、戦略コンサルティング会社のシグマクシス、東京大学発のAIベンチャーJDSC、カスタムAI開発企業のLaboro.AIを経て、2022年6月にメロンを共同創業した。

「世界で本当に使われる日本発のAIを、自分たちで作りたいと思いました」と三橋氏は力を込める。その道のりは、自らの専門性を問い続けた時間でもあった。

 学生時代に挑んだ起業では、社会への手応えを十分に得られないまま終わった。続いて入社したコンサルティング会社では、一言で価値を提示するプロフェッショナルに触れ、自分自身の武器をもっと磨きたいと感じた。

 AIベンチャーで機械学習に一から取り組む中で、日本のAIスタートアップが世界で戦えていない現実も突きつけられた。「日本の会社で、本当の意味でデータやAIを使って利益向上や差別化ができている企業は、まだ少ないと感じました」。幼少期に、母方の実家で身近に経営の現場を見てきた記憶もある。見通しの立てづらい意思決定の難しさを早くから感じていた。そのもどかしさが、今も三橋氏の原点にある。

 JDSC時代に出会ったのが、現CTOの本田崇人氏である。大学院で時系列解析を研究し博士号を取得した本田氏は、大阪大学の特任助教を経てJDSCに参画していた。日本発のAIが世界でほとんど使われていないことへの危機感や、面白いプロダクトを世界に出したいという思い――「この頃はちょっとやんちゃな気持ちもあり、もっと本当にやりたいことをやろう、もっと世界で使われるAIを作ろう、と喫煙所で意気投合しました」。好きで得意な領域で、世界で使われる技術を作りたいという思いが一致した二人は、2022年6月に、メロンを共同創業する。

(共同創業者・取締役CTO 本田 崇人氏)

勝てる場所を選ぶ― 時系列解析という領域

 時系列解析を専門領域とした背景には、冷静な見立てがあった。グローバルで戦うなら、生成AIの本流で米国勢と正面から競っても勝てない。ならば、生成AIに侵食されにくく、世界でもまだプレイヤーが少なく、しかも世界水準で戦える領域はどこか。

「自信を持って世界で戦える領域を持ちたい、ということでまずは本田の得意な時系列解析に特化することにしました。生成AIの波には必ず乗ります。ただ、乗り方は考えます」。

 時系列解析は、扱いの難易度が高く、得意とする企業は世界的にも限られている。三橋氏が描くのは、時系列解析と生成AIの掛け算だ。時系列解析は深層学習系のAIに比べ、予測の根拠を示しやすい。その根拠を生成AIに正確に語らせれば、人は納得し、意思決定に踏み込める。両者は対立軸ではなく、補完関係にある。

 メロンが自社開発した時系列予測アルゴリズム『FLAIR』は、世界的なベンチマーク「GIFT-Eval」において、統計モデルおよび計算速度対精度で世界一位を記録している(2026年5月時点)。GIFT-Evalにおいて、世界的なテクノロジー企業が提供する主要モデルを上回る結果だ。

 ただし、技術が優れているだけでは現場で使われない。「使われてこそ技術ですから、技術をどう社会や現場の課題に落とし込むかが、最も大変かつ重要な部分です」と三橋氏。データ活用に不慣れな企業に高機能なAIだけを置いても、価値にはつながらない。だからメロンは、課題発掘からデータ基盤の整備、AI設計・実装、運用までを一気通貫で担う伴走型のスタイルをとる。

 そしてメロンが本当に届けたいのは、予測そのものではない。多くの企業で起きているのは、予測は出せても行動を変えられないという状態である。「データから何を読み、何を判断し、どう動くかという、経営者の意思決定そのものを最適化することを目指しています」。

 (世界一位を記録した時系列予測アルゴリズム『FLAIR』)

日本の現場から、世界へ届ける

 メロンが主に支えるのは、日本のGDPを支える製造業、それに連なる金融や流通の現場である。ものづくりは世界トップレベルでありながら、データ活用ではまだ十分に武器を持てていない。三橋氏も工場をはじめとする現場に足を運び、部門ごとに分散したデータを束ね直すような、地味で本質的な作業から伴走する。

 組織と人のあり方にも、独自の構えがある。生成AIの活用では、三橋氏と本田氏が先陣を切り、全社員に対話型AI「Claude」の最上位プランを行き渡らせている。「どの会社よりも、誰よりも、私たちがAIを使いこなしていく必要があります」と三橋氏は考える。

 データサイエンスの専門家だけでなく、自動車会社で製造現場に立ったのちコンサルタントへ転じたメンバーなど、出自は多様だ。AIで標準化できる部分は徹底的に効率化し、専門家でなくとも働きやすく、成長できる環境作りを目指す。「社員も増えてきたので、新たに加わる方々にとっても、より働きやすい制度設計を進めていきたいと思っています」。

 (会社を支えるメンバー)

 2025年、メロンはEDI(電子データ交換)分野で国内トップシェアを誇る株式会社データ・アプリケーショングループに参画した。同社が扱う取引データは時系列解析との親和性が高い。創業当時のマンションの一室から、上場会社のグループ企業として制度や基盤を整える段階へと、フェーズは着実に進んでいる。

 数年内のIPOを視野に置きながら、三橋氏が見据える先はさらに広い。生成AIがどこまで及んでも残る領域を見極めつつ、複数の領域で世界レベルのAIの実装を目指している。

 「『人と違う好きなこと』をどれだけやれるかが重要だと思います。ただし、本当に価値が出るのかを考え抜かないと、世界で使われるものは作れません」と、三橋氏は語った。「日本にデータという武器を配る」というミッションの先には、本当に使われる技術を、世界へ届けるという大きな構想がある。