東大首席を超えたAI、その先で人間に求められるもの LifePrompt代表・遠藤氏が語る、「志」の価値

AIに大学入試を解かせると、東大理科三類の首席や京都大学医学部のトップ層をしのぎ、数学では満点も出た―株式会社LifePromptが2026年に公表した検証結果である。資料をまとめ、データを分析し、大学入試問題まで解いてみせる。AIが人間の仕事を次々と引き受けはじめた時代に、それでも「AIには生み出せない」と言い切れるものがあるとすれば、それは何か。AIを組織の一員として企業に迎え入れることを掲げる、LifePrompt代表の遠藤聡志氏が挙げたのは、「志」の力だった。

(株式会社LifePrompt 代表取締役 遠藤聡志氏)

無機物が「知能を持った」日に、世界の変わり目を見た

 株式会社LifePromptは、コンサルティングや受託開発、自社プラットフォーム「AxMates」を通じて企業のAI活用を支援するスタートアップである。東大や京大の入試問題をAIに解かせるという実証実験を行ったことでも話題になった。【大学受験×生成AI企画】最新AIが東大・京大の合格者最高点を突破、満点科目もあり | 株式会社LifePromptのプレスリリース

 代表取締役の遠藤聡志氏は、東京大学理科一類から工学部に進んだエンジニアだ。大学では、アイスホッケー部に所属する一方、起業を学ぶ授業でUberやAirbnbといった、ITで新しい市場を切り開いたシリコンバレーの起業家たちの物語に触れ、ものづくりへの関心を深めていった。大学院では経済産業省所管のIPA(情報処理推進機構)が手がける「未踏アドバンスト事業」に採択されている。

 転機は、2023年の生成AIの登場だった。多くの人がChat‐GPTの目新しさに沸くなか、遠藤氏の受け止め方は違った。「これはやるべきだと、直感的にも理論的にも思いました」。背景にあるのは、言語が知能の核心をなすという考えである。言語が思考を形づくるという「サピア・ウォーフ仮説」(注)を引きながら、遠藤氏は語る。「生成AIが言語を自在に操れるようになったということは、産業革命で無機物がエネルギーを手にしたのと同じだけの意味を持つと思います。この仮説に従えば、今度は無機物が知能を持ったのだ、とすら言えます」。

 機械語と自然言語は、まったく別物だと遠藤氏は言う。「機械語を使うというのは、人間が作った命令を実行するにすぎません。今の機械は、0と1をただ右から左に流しているだけの存在です」。だが0と1を使って、人間のように言葉を組み立て、計画し、振り返れるようになったとき、世界は変わる。「人と魚を分けるのが言語であるように、言葉を使えること自体が、新しいものを生み出す力になります」。そこに世界の変わり目を見て、遠藤氏はLifePromptを立ち上げた。

(注)サピア・ウォーフ仮説…言語相対仮説ともいう。人間の認識や思考は、言語によって決定されたり影響されたりするという考え方。

会社に一人、AI社員を。本当の「AX」実現への取り組み

 遠藤氏が掲げるのは、DX(デジタルトランスフォーメーション)の次に来る「AX(AIトランスフォーメーション)」という考え方だ。両者の目指す方向は同じでも、決定的に異なる一点がある。仕事を実行する主体が、人間からAIへ移ることだ。デジタルツールで人の作業を楽にするのがDXなら、AXでは仕事そのものがAIの手に渡る。

「ドラえもんのようなAIが会社に来たとして、そのAIに仕事を依頼し、責任を持って実行してもらう。人にお願いするのと同じ感覚に変わっていくはずです」と遠藤氏。AXはDXと切り離せない。データがデジタル化され、AIが読める形に整っていてはじめて、AIは仕事に取りかかれる。DXの蓄積が、そのままAXの土台になる。

 その思想を形にしたのが「AxMates」だ。最大のこだわりは、AIを組織の一員として扱う点にある。個人がインストールして使うアプリではなく、サーバー上に、一つのアカウントとして立ち上がり、社員は同僚に話しかけるように仕事を依頼する。記憶も実行履歴もノウハウも、社内システムへの接続もひとつにまとまった、いわば「会社に一人いるAI社員」である。

 そして遠藤氏が資産と呼ぶのが、AIに溜まっていく経験だ。「AIがタスクを実行するたびに、ノウハウも、失敗も、うまくいった工夫も、すべて言語化されて蓄積されていきます。AIが、ベテラン社員になっていくのです」。特定の業務に絞らず、汎用の基盤にこだわるのも、この蓄積を部門の壁を越えて会社全体で生かすためである。

AIは意志を受け継げても、生み出せない

 AIが仕事の主体になる時代、人間には何が問われるのか。遠藤氏の答えは明快だ。「求められる力そのものは、実は変わりません」。変わるのは、それが問われるタイミングだという。入社から5年、10年とかけて積み重ねてきた下積みが、できなくなる。「入社した次の日から、AIを使い、部下を持って成果を出さなければならない時代になります」。人を束ね、適所に配する力が、これまでよりずっと早く求められる。

 入試問題をAIが解けるなら勉強の意味は失われる、という見方にも遠藤氏は与しない。問題を解くこと自体が勉強なのではなく、解けるまで学ぶ過程で身につく素養が大事なのだという。長い文章から最も濃いエッセンスを抜き出す国語力、自分の引き出しにある手札を組み合わせて未知の問いを解きほぐす数学力など、AIが代替できるからといって人間が手放してよいものではない。

 そのうえで遠藤氏が、人間に残された核心と見るのが意志の力である。「AIがどれだけ優れていても、志だけは持てないと思います。人間の意志を受け継ぐことはできても、その発生源にはなれないのです」。不快感、悲しみ、怒り、好奇心といった感情を持つ人間だけが、社会に対する問題意識を持ち、それを変えようと前に進む。その最初のエネルギーは、人間からしか湧かない。

 その遠藤氏が、AIで成し遂げたいと考えていることの一つに、地方への支援がある。実家は兵庫県の老舗企業で、「よいものを作る」というものづくりのノウハウはあっても、デジタルでの発信にまでは手が回らない。一方、東京のデジタル人材は慢性的に不足し、地方の予算では支援が間に合わない。だからこそAIだ、と遠藤氏は考える。「デジタル社会では、昔よりも求められる分野が増えすぎています。東京のデジタルに強い会社がAIを使えば、予算の限られた地方企業も支援できる。パソコンと同じくらいの汎用性を持ったAI基盤があれば、全国どこの会社でも使えるはずです」。

 20年前、誰もがスマートフォンを手にし、家でコンテンツを見る暮らしを、私たちは想像できなかった。同じように10年後、15年後には、AIが人間と同じように社員の一員として働く日が当たり前になる──遠藤氏はそう確信している。感情を持ち、意志を持つ人間が、AIという仲間を得て、なすべきことに向かう。同社が掲げる「志を、自由にする。」という言葉は、その風景の先に置かれている。