鈴豊精鋼 ドローンで目指す「挑戦する社内風土づくり」

100年に一度の変革期にある自動車産業。完成車メーカーだけでなく、部品を供給する企業もこの荒波を乗り越えなければならない。車両製造用の鉄鋼製品を手掛ける鈴豊精鋼は新規事業としてドローンに着目。国交省認可のスクール事業を立ち上げるとともに、社内の意識改革にも取り組んでいる。

変革期のただ中にある自動車産業
200年超の企業を目指して自己改革

愛知県名古屋市に本社を置く鈴豊精鋼は、磨棒鋼や線材などの鉄鋼二次加工を主業とする創業104年の老舗企業だ。自動車産業には欠かせない存在だが、昨今はクルマづくりが根本から変わり、鉄鋼需要は漸減傾向にある。

同社営業職に従事していた茂谷伸也氏に、新たに設置された社長直轄の事業開発室への異動辞令が出たのは2022年9月のことだった。

茂谷 伸也
鈴豊精鋼 事業企画室 課長
(新規事業開発プロジェクト研究(名古屋2期)修了生)

「当社は新規事業をどんどん興してきた会社ではないですし、その時点で決まっていることは何もありませんでした。鈴木社長になぜ直轄部署を作ったのかを尋ねたところ、『当社を100年で終わらせず、200年を超える企業にしたい』という回答で、新しいアイデアが求められていました」

新しいアイデアを出すには多様な意見が必要と考えた茂谷氏は、さまざまな業種の人たちとのブレーンストーミングを重ねる。そのなかには、事業構想大学院大学名古屋校2020年度修了生のIndobox代表取締役CEO丹治大佑氏もいた。「丹治さんの話を聞き、新しい知識を得れば事業開発を加速できると感じた」茂谷氏は社長に同大学院での研究を直談判。「初めは賛成してもらえませんでしたが、『200年続く企業の礎を作って社長の夢を叶えます!』と強く説得した」という。

その熱い思いが伝わり、2022年9月からプロジェクト研究に参画。最初に考えたのは鉄鋼のシェアリングエコノミー事業だった。自動車業界は品質要求水準が高く、規格が厳密に定められているため、仕様変更があると素材、製品ともに在庫は納品先を失う。自動車以外ならば転用可能と知りつつも、新たな売り先を探すのは容易ではなく、使える素材まで捨てられることがある。そこで、茂谷氏は「鉄鋼製造時に発生するCO2は多い。フリーマーケットのように売り手と買い手が小ロットで直接売買できる仕組みがあれば、つくる、すてる、はこぶ無駄がなくなりCO2も削減できるため、環境改善に繋がる循環社会に貢献できる」と考えている。

「このアイデアは事業化に至っていませんが、いずれ実現したいです」

異業種交流で出会ったドローン
人材育成の機会にもなると事業化を提案

茂谷氏は異業種交流を目的とした展示会で、ドローンを扱う企業と話す機会を得る。それまでドローンを自社事業にすることは考えていなかったが、2021年末にドローンの国家資格が誕生したと聞き、産業としての可能性を感じた。

「その企業はドローンの制御技術を持っていたものの、国産機開発にはエンジニアの人手不足と育成環境が足りないと話していました。ドローンは自動車と同じモビリティなので当社事業と親和性が高いし、当社人材をエンジニアとして育成できるかもしれない。この2つの観点で、社長に相談したところ、社長も空飛ぶクルマの話などからドローンに可能性を感じていたため、事業化に向けた話が進みました」

事業としてはドローンの機体製造や輸入販売なども考えられるが、機体製造は先行投資が大きく、輸入販売は製造業である鈴豊精鋼の事業としては魅力に乏しい。そこで茂谷氏は投資規模が抑えられて、人材育成に直結するスクール事業から始めることを提案した。

現状、日本では国土交通省認定資格を取得できるスクールと、民間資格を取得するスクールがあるが、鈴豊精鋼では国家資格に一本化されることを見越して認定スクールを目指すこととし、これに社長も賛同した。

10年後を見据えてチーム編成
5月から認定スクールがスタート

新規事業のアウトラインが固まったところで、茂谷氏は社内説明会を開催し、約170名の社員に対して、インストラクターの募集を呼びかけた。

社内に呼び掛ける自作のポスター

「当社は新しいことに挑戦する機運に乏しく、良くも悪くも既存業務で手一杯。しかし、ゼロからイチを生み出すために最も重要なリソースは人ですから、今回の事業開発を通してチャレンジする人材を増やし、挑戦する企業風土に変えたいと思っていたんです。インストラクター募集に対してどこまで反応があるのか不安でしたが、新規事業の意義を語った社長のスピーチの効果もあって21名の応募があり、10年後の活躍を見越して2名を選抜しました」

そこからはさらに多忙な日々だった。茂谷氏を含む3名は二等無人航空機操縦士の資格を取得し、国交省認可のスクールとなるべく、教育と申請書類等の準備を進めた。本社敷地内には校舎となるテントも新たに建設し、屋内練習場としては名古屋最大級の規模を誇る。さらに「開校と同時に生徒がたくさん集まるわけではない」ことを想定し、テントを活用したイベントや空撮、点検などのサービス化も進めている。

名古屋最大級の屋内練習場を擁するスクール事業

2024年4月、国土交通省登録講習機関「ドローンスクール・フィッツ」が開校。大型テントの効果で近隣住民や来訪者の注目は集めているが、認知度向上はこれからで、金融関連の組合や小学校との連携による体験会などを開催する予定だ。

国土交通省登録講習機関
「ドローンスクール・フィッツ」

「中部地区には技術力のある中小企業が多数ありますが、産業構造の変化に対して何もしないままでは、地域全体がしぼんでしまいます。中小企業が集まる地域だからこそできることがあるはずで、一緒にドローンで盛り上げて行けたらと思っています」