『コーポレート・アントレプレナーシップ』著者インタビュー

――本書を編著した狙いは。

日本ではコーポレート・ベンチャリング(新事業創造のための仕組み、以下CV)、中でも、社内ベンチャーに関する研究が盛んでしたが、世界的には、CVを内包し、戦略的アントレプレナーシップやイノベーションも含めて構成されるコーポレート・アントレプレナーシップ(以下CE)の研究が活発です。日本はバブル崩壊後「失われた30年」に突入したと言われますが、ソフトバンクをはじめ、新事業を創造しながら成長を続ける企業も存在します。日本ではまだ馴染みの薄いCEの視点から日本企業による新事業創造を包括的に研究すれば、新たな発見があるのではないかと考えました。

――本書ではソフトバンクやパナソニック、ANA、バイエル薬品のCEを分析しています。こうした優れた事例がある一方で、多くの日本企業は新事業創造に苦労していると思います。課題は何ですか。

まず、既存企業の経営トップが、新事業創造や起業を十分に理解できていないという懸念があります。新事業創造の経験が少ない経営トップは、アントレプレナー人材を過大評価もしくは過小評価しがちです。もうひとつは、日本企業の新事業創造に向けた取り組みが、社内ベンチャー制度、CVCファンド、アクセラレーションプログラムといったCVの仕組みに偏りがちであることです。ではこの仕組みによって事業創造を牽引するアントレプレナー人材が増えているかというと疑問であり、そこにフォーカスを当てている企業は少ないようです。

――これらの課題を乗り越えるために必要な取り組みは。

アントレプレナー人材を対象とする人的資源管理の仕組みづくりが求められると思います。アントレプレナー人材の量と質を高めるための、新たな人的資源管理の仕組みを設計していくべきでしょう。

また、アントレプレナー人材を管理するためには、人事部門や新規事業開発部門任せでは限界があります。本書ではこれら人材を「アントレプレナー資源」と呼び、既存業務の管理職などの人的資源と区別しています。例えばソフトバンクの事例では買収したグローバル企業の創業経営者を、新たな買収先のトップに据えるなど、ダイナミックな人的資源管理によりCEを加速させています。こうした社外のアントレプレナー人材まで活用するには、新事業創造への深い洞察と経営トップの全面的な関与が求められるのではないでしょうか。

 

新藤 晴臣(しんどう・はるおみ)
大阪市立大学大学院 都市経営研究科 教授

 

『コーポレート・アントレプレナーシップ
日本企業による新事業創造』

  1. 新藤 晴臣 編著
  2. 本体2700円+税
  3. 日本評論社
  4. 2021年12月

全文をご覧いただくには有料プランへのご登録が必要です。

  • 記事本文残り48%

月刊「事業構想」購読会員登録で
全てご覧いただくことができます。
今すぐ無料トライアルに登録しよう!

初月無料トライアル!

  • 雑誌「月刊事業構想」を送料無料でお届け
  • バックナンバー含む、オリジナル記事9,000本以上が読み放題
  • フォーラム・セミナーなどイベントに優先的にご招待

※無料体験後は自動的に有料購読に移行します。無料期間内に解約しても解約金は発生しません。