世の中の「不」をビジネスに コロナ禍の今こそ新規事業を

――起業における「意志」をテーマとした動機は何でしょうか。

コロナで大変な状況ですが、物事は本来もっと立体的・多面的なものだと思います。10年後にコロナを振り返ったとき「あのとき生まれた事業が今の時代を作ったよね」ということもあるはずです。

ビフォーコロナという言葉ができたくらい、あらゆるものが様変わりしていますが多くのサービスは当然コロナ前に最適化されていて、そこに必ず不具合がある。これは全て商売のチャンスです。しかも全世界同時にコロナに見舞われ、まだ誰も商売をやり切れていません。

事態の多面性の中に新規事業のチャンスという局面があること、そこに意志を持って一歩を踏み出そうということを伝えられたらと思いました。

――起業の必修科目として「新道徳・新国語・新算数」を挙げています。

情報化社会の今、「手っ取り早くうまくいく方法」を模索する人が増えています。スマホひとつでどうにかなるという世界ができてしまっていて、安易な考えも多い。でも、事業はそこまで簡単ではありません。他人に勧められたという程度の浅はかな意志では駄目で、苦しみながら突き進んでいく、強靭な意志が必要なのです。「経営者として何を志すのか」が一番大事で、人としてのOSという意味で道徳をはじめに出しています。

新国語はコミュニケーション能力・言語力です。これは実践あるのみで、畳の上で泳ぐ練習をして海に飛び込んでも、多分死んでしまいます。注意事項を暗記してもあまり意味はなく、そういう心構えの下に人に語りかけることが大事なのではないかと思います。

新算数とは、お金や時間という数字に対する感度です。会社にいれば座っているだけでも1秒単位でお金がかかりますが、多くの人は1日で自分が会社にいくら利益をもたらしたのか、計算できないし、しないですよね。昔の八百屋さんやお豆腐屋さんは日々稼いでいくという感覚があったと思います。でも、企業が高度化する中でお金や時間に対する感覚器官が退化してしまった。大規模法人の時代から個人が活躍する時代に少しずつ変わってきている中で、こうした感覚がまた必要です。

――本誌読者へのメッセージをお願いします。

事業構想を、構想のままで終わらせないでほしいと思います。そのために大学院という学びの場を十分活用し、また僕の書籍から刺激を受けていただけたら嬉しいです。

 

守屋 実(もりや・みのる)
新規事業家

 

『起業は意志が10割』

  1. 守屋 実 著
  2. 定価 本体1500円+税
  3. 講談社
  4. 2021年5月刊

 

今月の注目の3冊

いまこそ脱東京!

高速交通網フリーパス化と州構想

  1. 佐々木 信夫 著
  2. 平凡社
  3. 本体840円(+税)

 

以前から叫ばれていた東京一極集中の是正は、新型コロナウイルスの感染拡大によって一層その必要性が意識されることとなっている。著者の佐々木信夫氏はさまざまな領域で制度疲労が露呈している日本社会の限界を指摘し、その打開策として「高速交通網フリーパス化」と「州構想」を提言する。前者は道路・鉄道・航空の三大高速交通網の移動を実質無料に、後者は現状の47都道府県を廃止し、10程度の広域州に再編するという大胆なもの。その目的は人や企業の分散を促し、地方主体の分権化を進めることで、人口減少を食い止め、国土を有効活用し、均衡ある発展を促すことにある。戦後から長い時間をかけて強固に築かれてきた、東京を中心とした国のあり方を根本から問い直す本構想。人口減少社会への処方箋として注目したい。

 

超加速経済アフリカ

LEAPFROGで変わる未来のビジネス地図

  1. 椿 進 著
  2. 東洋経済新報社
  3. 本体1800円(+税)

 

今号の連載「SDGs×イノベーション」でも取り上げたように、アフリカは急速な進化の時代を迎えている。本書では、コンサルティングや投資を通じたアフリカのエキスパートである著者が、最新のファクトとともに成長市場としてのアフリカの「今」を伝える。ビジネスの視点で見たときのアフリカの魅力は、フィールドの広大さ、そして人口の多さと若さだ。また、固定電話を飛び越してスマートフォンが普及するといったダイナミックな社会環境も新事業のチャンス・参入機会になるといえる。一方、これだけチャンスのある中で日本企業の存在感が薄いのは残念な点だ。アフリカでは人々の生活も急激に変化しており、大規模事業だけでなく食やライフスタイル分野での需要も高い。アフリカを視野に入れていない方にこそ読んでほしい1冊だ。

 

予測不能の時代

データが明かす新たな生き方、企業、そして幸せ

  1. 矢野 和男 著
  2. 草思社
  3. 本体1800円(+税)

 

データを元に予測し計画を立案し、物事を判断する、ということは多くのビジネス現場で当然のように行われていることだろう。しかし、ウェアラブルセンサーやデバイス、AIの研究に従事し、そこから得られる人・組織・社会行動に関するビッグデータを分析してきた著者は「未来は予測不能であることを前提とすべき」と指摘する。そして、こうした前提の下で求められる行動は「変化への適応」であるとする。予測が意味をなさない時代に、我々は何を判断のよりどころとして適応を図ればよいか。著者が示すその鍵は“幸せ”だ。本書では、人や組織の幸福に関する長年の研究から、創造性や生産性を支える要素を考察する。人が本来持つ柔軟性は変化への適応に必須であり、その“柔らかさ”を支えるのが人と組織の幸福であると気づかされる。