2020年4月号

MPD発の新規事業

知識共有の新構想で創造性向上 専門知のアイデアを前進

井手 武(事業構想大学院大学東京校4期生[2016年度修了]、東京ビジョンアイクリニック 阿佐ヶ谷院長、株式会社NYAUW代表)

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医学部の大学院修了後のアメリカ留学で「異分野融合の強み」を目前で経験。医師とコメディカルの間に生じる「遠慮」をフラット化し、迅速な判断とサービスの向上に寄与する。ゆくゆくは専門知のホットラインを構築し「新しいコト」の創出に意欲を見せる。

井手 武(事業構想大学院大学東京校4期生(2016年度修了)東京ビジョンアイクリニック 阿佐ヶ谷院長 株式会社NYAUW代表)

事業構想の修得を決意

井手氏は個人開業の眼科医として、円錐角膜などの珍しい症例にも対応する。なぜ2度めの大学院、事業構想大学院大学の門戸を叩いたのか。「端的に言うと、アイデアや想いを前進させる方法論を得たいと考えたからです。留学したアメリカで、過去見たことのないスピードで物事が進み、それぞれのもつ知的資源が共有されるのを目の当たりにして驚いた原体験があります。例えば、パテントローヤー(弁理士)を家族に持っていたり、自身が工学部出身、MBA取得者であるフェロー(研修医)らが集まって議論すると、瞬く間に物事を前に進めるさまに圧倒されました。折しも月刊『事業構想』の定期購読を始め、事業課題とその乗り越え方のケースが豊富なことに関心をひかれました。医師があまり学んでいない社会のルールや事業の動かし方に関するフレームワークを一度体系的に2年間一生懸命勉強してみようと思ったのがきっかけです」。帰国後、勤務地が大学院のある南青山に近接していたことも動機の1つだった。

留学中は、ハードウェアの柔軟な共有も目の当たりにする。「アメリカの大学病院や外部の外来手術センターでは、ドクターが毎週決まった割当の曜日に自院から患者さんを外来手術センターに連れ来て手術を行い、経過観察は手術室のない自身のクリニックで行う、ということが全国的に行われていました。これは、ハードの導入・維持コストが高く、手術日以外は遊休資産になる手術施設・設備を効率的に利用する目的です。

日本とアメリカの診療報酬体系の違いを踏まえつつ、ヒアリングや調査を進めるうち色々な制約課題から、米国と同じシステムを実現するのは難しいと知る。しかし、一番の律速は医師のマインドで「最終ゴールに登るためにどの順番で新事業を訴求するか、というマーケティングの基本的思考が必要だと実感しました」

ハードの共有から知識共有へ

井手氏が目を転じるきっかけになったのは、事業構想大学院大学の修士1年目の授業で見た"did you know?"というビデオ映像だ。さらに「2011年にアイオワ大学のPeter Densen氏らが著した論文に拠れば、医療情報が倍増するまでの所要時間は、1950年には50年かかっていたところ、2020年には73日(0.2年)に縮まると予測されていました。一人の医師が『自立して』専門情報に追い付くのは事実上不可能なことを意味します。専門施設勤務に対して、個人開業医は広い疾患のカバーも必要で、勤務医時代よりも広く浅くならざるを得ない現実があります」

知識の共有に関する調査と思考実験を始めた井手氏は、日本の医学教育の課題の一つに注目した。「アメリカでは4年間のリベラルアーツ教育を経て大学院として医学部に進学するので、医学以外の専門でも自ずと混交が生じます。日本の医師は一般的なコースとして、大学入学から就職まで医療従事者だけの環境で専門性を身につけるため、インセンティブの大きいのは医療情報のシェアになります。四象限に分けて考えると(図1)、一般にイメージされるのは患者さんと医師とのコミュニケーションツール(左上の象限)になります。しかし、ここは事業規模が大きくても課題が大きすぎると感じました。事業規模は小さくても最終的に患者さんのためになるのはプロ同士が各々の仕事を気兼ねなく行うことと仮定し他の業務効率化サービスとの差別化を考えるうち、現在のサービス構想(左下の象限)に行き着きました」

図1 事業スキームを構想する際に井手氏が描いた四象眼

 

「医療では法律的立場上『医師の指示の下』に振る舞うコメディカル(COMEDICAL[和製英語]、[英]PARAMEDIC)という職種がいます。しかし、CO-は「協」「共」(PARA-は ギリシア語の para で beside,near)という意味にすぎず、業務フローの中では対等です。サービスとしての医療で、患者さんの受診体験の満足度を高めるには、フロー全体のスムーズな連携が必要になります。このような界面で、医師とコメディカルの間のコミュニケーションの遅延は、患者のみならずコメディカルのストレスを増やします。

その代表例が薬局からの『疑義照会』です。これは薬の専門家である薬剤師が調剤を行う際、処方箋の記載に疑問点や不明点を感じた場合、その作成者である医師に対して内容の確認を行うことですが、薬剤師は医師の機嫌を損ねないように非常に気をつかわなくてはならず、コミュニケーションの律速があるため、患者さんを待たせるストレスが発生します。

医師からすれば、電話の特性上、受付担当にフィルタリングを頼まざるを得ない面もあります。しかし、薬剤師の疑義照会と予め分かるなら対応可能ではないかと仮説を立て、プロトタイプのアプリを開業地近隣の薬局にインストールしてもらい、実証実験を行ったところ、約数十秒~3分以内に返信できることが分かりました。複数の端末に同時に通知が出ますので、診察中の見逃しも周囲から注意喚起を得られますし、対応はスクリーン上に現れる『YES/NO』の二択を押すだけです。更に電話が必要な場合も従来よりは遅れません。なにより薬剤師が受話器を持って待つ必要がないため他の仕事がはかどります」

図2  NYAUWの導入でコミュニケーションはこう変わる(イメージ)

 

専門ホットラインの有効性

井手氏は、修了後・独立開業の繁忙を経て、指導教員との再会を機に、毎週月曜日の診察後に定例会を始めた。「いわば『ONAKAMA(お仲間=同じ釜の飯)』です。私の場合、コミュニケーションの解決それ自体が目標ではなく『一定の共通了解を持ったコミュニティの中で、様々な課題を解決できるマインドを持った人と何かをしたい』と考えています」

「ドクトレプレナーという語彙は『珍しい』というニュアンスで捉えられ、注目を集める際にはありがたい言葉ですが、一旦ビジネス市場に参入すれば猛者たちが群雄割拠し、一つのアイデアだけで生き残れるのはごく一部です。限られた人・モノ・金・時間の中でアイデアを『自立』させるには、プロに頼る必要があります。事業構想大学院大学で2年間勉強し、修了式で代表として述べた答辞を今も胸に秘めています――『2年間の修士課程は始まりへのガイドに過ぎず、これから事業構想実現の果てしない実地トレーニングが待っています』と」

 

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