伝統産業をリ・デザイン 産地を救う新しい方法をつくる

伝統産業が抱える課題に向き合い、それを解決するための新しい方法をデザインする。シーラカンス食堂の小林新也氏は、地元の伝統産業を根底からリ・デザインし、世界市場へ向けて発信するとともに、継承者を育成するための仕組みづくりに挑んでいる。

小林 新也(合同会社シーラカンス食堂 代表)

兵庫県・北播磨に位置する小野市は、400年の歴史を持つ播州そろばんと家庭用刃物の生産地だ。その地で伝統産業の復興と海外販路の開拓に挑戦しているのが、合同会社シーラカンス食堂の代表であり、地元出身の小林新也氏だ。

「家業は襖や掛け軸、額装など和紙を扱う表具屋で、幼い頃から大工道具が身近にある環境で育ちました。小学生の頃は父や祖父はめちゃくちゃ忙しそうだったけれど、中学の頃から暇そうな姿が目についた。それは、襖や障子などを張り替える需要が減少したから。日本固有の文化が衰退しているのを感じました」

ものづくりの弱体化に危機感を覚えた小林氏は、大阪芸術大学でデザインを学ぶ。そして、人の5倍は課題を提出するような小林氏の姿勢を見込んだ同大学の教授は、イタリア最大の家具見本市「ミラノサローネサテリテ」への出展をバックアップしてくれた。

「アルミ合金のフレームと繊維素材だけで構成したシンプルな椅子を一番良いスペースに置かせてもらいました。どんな体の人にもフィットするように、コルセットやインナー肌着に使われる東レの新素材を活用したのですが、家具に使われたことがない素材だったので面白いと、日本の大企業やイタリアのメーカー、数社からオファーを頂戴しました」

この時の手応えがその後の彼を突き動かし、起業への原動力となった。小林氏は在学中、島根県石見地方の過疎地域で、集落の長屋をリノベーションするプロジェクトに参画。さらには、大阪芸術大学が「瀬戸内国際芸術祭2010」に出展する際、コンセプトデザインと造形を担当し、香川県・豊島の漁師町で衰退する旧海苔工場を舞台にしたインスターレーション作品の制作に携わった。

多方面で活躍していた小林氏だったが、大学を卒業した1年後の2011年、小野市に戻ってシーラカンス食堂を設立する。

「伝統産業の衰退は急速ですから、時間がありません。起業するなら早いにこしたことはないと考えたんです」

問題の「根っこ」を考える
それが新しいビジネスモデルに

伝統産業の復興のためには、何が必要なのか。答えが存在しない中で、小林氏は自身の方法論を手探りで開拓していった。

「デザインができることは、たかがしれています。問題の根っこは何かと考え、課題の本質を見定める。自分が主体的に動いていかないと絶対にうまくいきません」

小林氏は、最初はそろばんのデザインを刷新することを考えたが、展示会を手伝ううちに地元の産業形態そのものに違和感を抱いた。

「小野のそろばんづくりは、①玉削り、②玉仕上げ、③ヒゴ竹づくり、④組み立て、⑤問屋の5分業。まち全体で分業体制を築き、ピーク時には年間360万丁も生産する一大産地でした。ですが現在は、珠の職人(①②)は日本でも数件。小野のそろばんの生産量は年間14万丁に減少しています」

小林氏は分業を前提とせずに、そろばん以外で各工程の生産量を維持するための方法を考えた。

そろばんの珠を活かした時計『そろクロ』

「職人の方々は、伝統工芸品としてのそろばんを誇りにしていますが、塾や学校教育をターゲットとする『知育&教育道具』として、そろばんの価値を訴求してはどうか。そろばんが計算機であった時代は終わり、ポイントは『教育』だと考えました」

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