2019年3月号

MPD発の新規事業

健康経営を支援するスムージー、事業構想大での学びを糧に実現

上野 健史(キリンビバレッジ)

0
​ ​ ​

社員の健康づくりや働き方改革が唱えられながら、具体的な方策は未だ模索中である現代日本。飲料とサービスを一体的に組み合わせて提供し、健康経営という企業オフィスのニーズに応える。従来の慣習に囚われず新しい市場を切り拓き、新規事業を推進する上野氏はいかに考え行動したのか。

上野 健史(キリンビバレッジ)

飲料業界は、長く多くの消費者に飲み継がれるロングセラーを生む一方で、新商品開発の難しい領域でもある。消費者が飲料に求めるニーズも多様化し、ハイエンドな需要に応える機能性飲料なども増えてきた。

一貫して飲料メーカーでのマーケティング戦略に携わってきた上野氏。2017年9月に展開を始めた「KIRIN naturals」はオフィスで働く若者層をターゲットに、社員の健康づくりをサポートするスムージーである。その開発と普及に到るまで、事業構想の考え方ならびに大学院での学びはどう活用されていたのか。

「『KIRIN naturals』はオフィスの健康課題を解決する目的で、現代生活で不足しがちな野菜や果実を手軽に摂取できるスムージーです。構想を描いた当初は複数のターゲット・シーンの健康課題の解決を検討していましたが、複数の案件をオペレートするのは物理的に厳しく、また当時『健康経営』が社会のバズワードとして注目されてきていました。そこで対象をオフィスに絞り、宅配を通じて社員の食習慣を改善し、健康づくりに役立ててもらうプランを練っていきました」

事業構想大学院在学中の2015年、大学院演習にて現在の構想の萌芽となる「健康習慣の共創事業」を報告。「同期生とのつながりで物流ネットワークを本業に活用したりと、実社会で働きながら学ぶ社会人大学院ならではの人脈を最大限に活用させていただきました」。教員や同じ受講者からの厳しいコメントを経て構想を錬磨し、2016年4月には「新たな健康」を掲げたチームが社内に発足。新商品開発へ向けた舵が切られた。

市場の声で次々と覆される仮説

新事業へ臨むに際して、事業構想のステップへ忠実に、実践へと移した上野氏。社会動向の俯瞰から踏み込んで市場の声を聞き、商品へのフィードバックを繰り返すなかで、正に「仮説は次々と崩される」を実感したという。「何がオフィスの健康課題なのかを探るため、フィールドリサーチ、つまり企業を訪問してヒアリングを行っていきました。そこで分かったのは、大企業よりも中小企業のほうが社員の健康づくり、つまり健康経営に大きな課題を抱えていること、特に若手から働き盛りまでの社員層に関心を向けていることが明らかになりました」

全社的には自動販売機や小売店への納入を中心としていた流通ルートを見直し、宅配というオフィスへダイレクトにお届けする新しいサプライチェーンでの展開を試みたという。

「首都圏のオフィスワーカーは高層ビルで絶えず時間に追われるため、しっかりした食事や栄養補助食品を買いに出かける僅かな時間も惜しく、負担に感じているものです。導入企業には据え置き型の冷蔵庫ごとレンタルし、定期的なデリバリーを行っています。初めはこまめな配送で商品をオフィス内に並べるところまで対応しましたが、配布か販売かという方針、設置の仕方などはお客様により様々であり、また頻繁な荷物受取対応も細かな負担であると分かり、月1回のまとめ配送へと切り替えました。小ロットな新商品の宅配であるため、取引先の流通業者にも多大な協力を頂きました」

フィールドリサーチを続けるなかで、大企業よりも中小企業のほうが健康経営に抱える課題感が大きいことも分かった。「中小企業は大企業と比べて相対的に福利厚生が充分に確立しておらず、経営陣や健康経営担当がそもそも何を社員に提供したらよいか悩むことが多いと聞いていました。また、人員の限られる中小企業では若い社員は次世代を担う特に貴重な人材であるため、栄養バランスの悪さや欠食は生産性や勤続モチベーションにつながる重要な課題だと受け止められていました。近年は特に『働き方改革』の影響もあり自販機の導入窓口である総務部よりも人事部のほうが取組の必要性を感じていました。初めは大企業を中心にしていたアプローチも、中小企業を中心に切り替えました」

消費時間帯も調査したところ、朝の消費が5割、昼が3割、夕方以降の「小腹満たし」が2割を占めることが分かった。時差出勤奨励キャンペーンの配布用にも活用されるなど、残業の短縮や働き方の変化を促す動機付けになったという。

カラフルで野菜や果物を柄にあしらった外箱は、オフィスでも目に留まり、社員の興味を促す

サービスとの一体化で
健康づくりも

構想の当初から、商品とサービスを一体的に捉えた事業展開を考えたという上野氏。「それまでの業務経験から、モノが溢れる現代、単品の商材のみで消費者に訴求することは難しいと思っていました。大学院で医療やITなど異業種から進学した院生と交流を深め、ヘルスケアとの連動や従来と異なる流通ルートに新ビジネスの可能性があると考えました」

自然の色が美しい健康飲料パック。素材の色・味・食感を体感でき、腹6分目ほどに抑えた分量など、様々な配慮が満載

KIRIN naturalsの導入プランには年2回(ssプランの場合)のセミナーが含まれている。自社の旗艦商品でもあるビールの適正な嗜み方を学ぶ「飲酒セミナー」ほか、食育サービス導入企業やスポーツジムと連携し、健康増進を図りたい職員を対象にした「食育マルシェ」やオフィスの休憩時間で簡単にできる「オフィスdeエクササイズ」などが選べる。

産直野菜付き食育セミナー「食育マルシェ」(実施企業:ソネット・メディア・ネットワークス株式会社、運営元:株式会社ヴァカボ)

「商材を活用したセミナーではありますが、あくまでお客様が普段の食生活に役立てていただけるよう、開催時間帯や開催趣旨を工夫しました」

実践知を体系化し全国展開へ

これまでは設置先の状況を頻繁に見に行くことが出来、不測の対応にも直ぐ駆けつけられる首都圏に限定して導入したが、1月24日から全国展開を開始した。「勤務形態や健康課題が首都圏と似ている地方都市を中心に展開していきます。実践を通じて得た知見は可能な限り形式知化し共有していきますが、新ビジネスの目指す先を短期間で深く共有するため、チームは引き続き最小限の人員に絞るつもりです」

 

上野 健史(うえの・たけし)
キリンビバレッジ マーケティング部
0
​ ​ ​

バックナンバー

メルマガで記事を受け取る

メルマガ会員限定で、
ピックアップしたオンライン記事を
毎日お届けします。

以下でメルマガの登録ができます。

購読申し込みで全記事が読める

2018年4月号「SDGs×イノベーション」完売!

会員になって購読すれば、バックナンバー全記事が読めます。PC・スマートフォン・タブレットで読める電子ブックもご用意しています。

バックナンバー検索

注目のバックナンバーはこちら

最新情報をチェック。

会員になると 最新「事業構想」が読み放題。さらに

会員の特典をもっとみる