「本質的価値と感動を追求」 エアークローゼット天沼代表の視点

ファッションレンタルサービス『エアークローゼット』は、開始からわずか2年で、女性10万人以上の支持を集める規模に急成長した。その理由はどこにあるのか。エアークローゼットの天沼CEOに、同社とのコラボを進める伊藤園の小笠原氏が聞いた。

エアークローゼット 代表取締役 CEO 天沼 聰 氏
ゴールドスミス・カレッジ(ロンドン大学)卒業後、2003年にアビームコンサルティングに入社。2011年楽天に転じてグローバルマネージャーを経験。2014年ノイエジーク(現エアークローゼット)を設立、2015年2月にファッションレンタルサービス「エアークローゼット」を開始。

ぶれない「目的」を持つ

小笠原:エアークローゼットはどのように生まれたのでしょうか。

天沼:私はコンサルティング会社や楽天のグローバルマネージャーを経て起業しましたが、3つの軸で事業を考えました。まず、インターネットを活用したもの。次に、人と人を繋ぐシェアリングエコノミーの概念を取り入れること。そして、ライフスタイルをより良くする衣食住に近接したサービスであること。創業メンバー3人で100以上のビジネスモデルを考えましたが、3つの条件に合致し、一番たくさんの笑顔を生めそうなのが、洋服のレンタルサービスでした。

消費者、とくに女性は年齢を重ねるごとに多忙になり、ゆっくりとファッション誌やテレビを見る時間が減っていきます。どうしても、自分に似合うであろう洋服やコーディネートに狭まっていき、クローゼットの中が同じブランド、似た色やデザインの洋服ばかりになってしまいます。私達は、忙しい人が生活リズムを変えずに、新しい洋服にどんどん出会えて、ファッションの固定概念を溶かしてくれるサービスとして『エアークローゼット』を考案しました。登録された好みのスタイルやお気に入りアイテムの情報から、スタイリストが1点1点アイテムを選定して配送する月額制サービスで、返送料やクリーニング料も不要です。

小笠原:エアークローゼットのボックスを開けると、自然に笑顔になるし、着てみたくなる。ある人は、何も用事がないのに新しい洋服を着て出かけてしまうと話していました。これは、すごいことだと思います。

天沼:私達は洋服を届けたい訳ではないのです。"わくわくする洋服との出会い体験"を届けることが本質的な目的です。レンタルやシェアリングといったビジネスモデルはあくまでも手段であって、目的は別に持つべきです。IT業界のビジネスモデルを異分野にコピーすることが流行りですが、目的がなければ、今あるビジネスモデルはコピーできても、その先にあるビジネスモデルは実現できません。私はウォルト・ディズニーの「人にクリエイティビティがある限りディズニーランドは完成しない」という言葉が大好きなんです。消費者が求めるものは絶えず変化する。ディズニーランドのように、事業者側も意志や目的を持って変化していかねばなりません。

伊藤園マーケティング三部麦茶・紅茶・健康茶ブランドマネージャー、事業構想修士 小笠原 嘉紀 氏

10万人を超える女性が登録する「エアークローゼット」

「満足」の先の「感動」を提供

小笠原:多くの女性が、新しい洋服と出会う機会がないというお話を聞いて、飲料業界も似ているなと感じました。自分の好きなドリンクは決まっていて、なかなか新しい商品に手を伸ばさない。ですから、私がブランドマネージャーをしている『TEAs'TEA』は、TEAの可能性に挑むというコンセプトで、『ほうじ茶ラテ』のように尖った商品を打ち出し、"新しいお茶の楽しみ"やニュースタンダードをつくりたいと考えています。

天沼:消費者に響くのは、『満足』ではなく『感動』なんですよね。私達は、会社の行動規範のひとつに"お客様の感動が第一"と掲げています。『満足』の先にある『感動』は、お客様に聞いても絶対に見つかりません。お客様にとって何が価値なのか、お客様に何を届けたら感動してくれるのか。UX(ユーザーエクスペリエンス)や顧客目線でビジネス・サービスを組み立てるように意識しています。

小笠原:消費者が求めるものは、時代と共に少しずつ変化していますが、本質はあまり変化しないと思っています。私は麦茶のブランディングも担当していますが、面白いことに、子どもからお年寄りまで、一番麦茶を美味しく感じるのは「夏の暑い日に家に帰ってきて、冷蔵庫から取り出した麦茶を飲む時」だと言います。本質的な価値を届けるためのツールやコミュニケーションが変化しており、だからこそ顧客目線が大切だと感じます。

エアークローゼットと伊藤園のコラボでは、オリジナルボックスに『TEAs'TEA』の新商品を同梱し、洋服と一緒に配送

「本気」の企業間コラボ

天沼:エアークローゼットは現在10万人を超える女性に登録して頂いています。お客様は皆、新しい出会いを純粋に楽しむことができる方。このプラットフォームを活用し、企業のプロモーションのお手伝いも行っています。伊藤園とのコラボレーションでは、オリジナルボックスに『TEAs'TEA』の新商品を同梱し、洋服と一緒に配送する予定です。

小笠原:新商品サンプリングには街頭配布やクーポンなど様々な手法がありますが、『TEAs'TEA』は新しい楽しみやライフスタイルの創造を目指したブランドであるため、単なる配布ではなく、『TEAs'TEA』を飲むシーンや体験を提供してコアなファンをつくりたいと思っていました。その意味で、エアークローゼットの提供する価値やライフスタイルは非常に魅力的でした。天沼さんとは「どんな価値をお客様に届けたいのか」「お客様にどんな体験をしてほしいのか」といった真剣な議論を4~5回行いました。『TEAs'TEA』の開発中のサンプルを試飲してもらったり、ボックス形状も新しく設計したり。ここまでやるのかと驚きましたし、刺激になりましたね。

天沼:プロモーションのお手伝いでも、その同梱物がお客様にとって本当に価値があるのか、妥協せず議論します。何を同梱するか、意志を持って選ぶのも私達の責任です。プロモーション支援というよりも企業間コラボレーションに近いと思います。今回の取り組みによって、新しい服や『TEAs'TEA』と一緒に街に出て、いつもとは違った幸せを感じられるような顧客体験をつくっていきます。

天沼 聰(あまぬま・さとし)
エアークローゼット 代表取締役 CEO