未来の社会課題から考える 自治体×民間のシナジー創出のカギ

北海道の東部、手つかずの広大な自然が残る北海道釧路市。同市の人口は1980年の22万7234人を頭打ちに減少を続け、2040年には約10万6000人になると推計されている。人口減少を見据えた総合戦略を掲げ、さまざまな施策に取り組む蝦名大也市長に、民間との連携についてインタビュー。
2040年の釧路の「あるべき姿」から、取り組むべきまちづくりを考える。

聞き手・井坂智博 インクルーシブデザイン・ソリューションズ 代表取締役社長

 

蝦名大也(釧路市長)

地域独自の魅力あるライフスタイルを創出するために

――人口減少は釧路市だけでなく、日本全国の地方都市において大きな課題です。どのようなスタイルでまちづくりをしていきたいとお考えですか。

蝦名:日本を代表する唱歌『故郷(ふるさと)』の『志を果たして、いつの日にか帰らん』という歌詞が、地方から中央へ人材を輩出し続けてきた日本の社会構造をよく表しています。「いつの日か帰るのが故郷」、この構造を転換し、地方に人を集めるためには、地域独自の魅力あるライフスタイルを作る必要があります。そのためには、魅力的な職、働き方、雇用の部分を見直さなければなりません。雇用なくして、子育て環境ばかりを整えても人は外に出て行くばかり。注力すべきは人口の"自然増"より"社会増"、親になる世代をいかに釧路に定着させるかが重要なポイントとなります。

少子高齢化の問題、働き方の問題、さまざまな側面から見て、ヨーロッパ型のまちづくりを目指していきたいと考えています。子育て制度ひとつ見てみても日本とは全く違いますし、100年かけて地道に超高齢化に向けたシステムを作ってきたヨーロッパは、持続的なまちづくりに無理がないと感じます。

――ヨーロッパ型のまちづくり、人口の社会増への取り組み、働く質、雇用を上げて強い経済の基盤を作るといった部分がポイントかと思います。2040年に向け、持続可能なまちづくりをしていくうえでの市長の想いをお聞かせください。

蝦名:釧路に住んでいることが強みになるようなまちづくりを目指したいですね。

この町で生まれ育ち、教育を受ければ、地元でも東京でも世界でも活躍できる。そうした幅広い選択肢を、地域の中で持つべきだと思っています。

そうしたまちづくりを進める中で基本となるのは「医食住」+教育です。安全安心な医療、安全安心な食料、安全安心な住環境づくりが根幹。そのうえで教育、人づくりが重要と考えています。

医食住のうち、特に食に関していえば、日本の食料自給率がカロリーベースで39%なのに対し、北海道は200%を超えています。その中でも、釧路市は農畜産物、水産品など多様な食の生産、供給が可能な地域であります。今後、世界の人口が90億を超えると仮定すると、食料自給がますます厳しくなることが予想されます。その時に、しっかりと安全安心な食料を生産し提供できることが、自然に恵まれたこの地域の一つの役割でもあります。

その役割を果たすためには、地域に人が暮らしていなければなりません。そういう意味でも、人口減少に立ち向かい、食い止めることが重要となってきます。

自治体が民間に求める「よそ者視点」を活かしたアイデア

――2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向け、インバウンドの取り組みとして、27万人を目指しています。2016年1月には金沢市、長崎市と共に「観光立国ショーケース」に選定されました。観光産業への取り組みについて、お聞かせください。

蝦名:観光立国ショーケースでは、インバウンドに対してのストレスフリー環境の構築を重点に置いています。バスなどの二次交通インフラをはじめ、市内の案内表示やインターネット、電子決済・キャッシュレス化の推進など、現実的な環境の整備をまず徹底します。合わせて、釧路の手つかずの大自然やアイヌ文化など、オリジナルな魅力を発信していきたいと考えています。

また、釧路市は釧路湿原、阿寒の2つの国立公園を有する希少な地域でもあります。このうち阿寒国立公園は、世界レベルのナショナルパークを作るための先進的な取り組みを行う公園として政府から選定を受けており、「阿寒国立公園満喫プロジェクト」として、2020年度までの5年計画で、ステップアッププログラムも策定しています。

――2015年には市内に太陽光を利用した植物工場を誘致。今年2月にパプリカの初出荷が行われました。民間企業との連携については、どうお考えですか。

蝦名:民間との連携は、積極的に進めていきたいと考えています。特に地域に力をつけていくという点では、地元企業とタッグを組んでいくことが必要です。

また、外の視点を取り入れることも大切でしょう。植物工場の話は外から来たものです。釧路というフィールドを使って、何かができることを証明するチャンスだと感じ、話を進めました。

地域の中や行政だけでは気付かないポテンシャルを見出すためには、外の視点が重要です。地元だけでは思いつかないようなアイデアは地方創生にも不可欠です。民間と行政のタッグを組むことは、地域で新しい取り組みを推進するためには非常に有効なのです。

積極的な民間との連携により植物工場を誘致。新しい取り組みを加速している

――民間との連携を成功させる秘訣は?

蝦名:スピード感です。とにかく、民間のスピードに合わせること。行政のスピードに合わせていたら、出来るものもできなくなってしまいます。

成功事例を一つひとつ重ねることが、釧路というフィールドの可能性を広げ、新たなチャンスを生み出すことに繋がると考えています。

 

事業構想特別セミナー~地域の社会課題から新事業を構想する~

地域に山積する社会課題。今後、各企業には、社会課題の解決と自社の持続的な新事業開発の両軸を実現することが求められます。本セミナーの第1回では、釧路市の蛯名市長をお招きし、観光・インバウンド分野での2040年の釧路市の社会課題を定義し、バックキャスティングによって解決策を考え、社会課題を解決するための新規事業開発を検討するワークショップを行います。

講師 小塩篤史(事業構想大学院大学 事業構想研究科 科長)
井坂智博(インクルーシブデザイン・ソリューションズ 代表取締役社長)
開催予定日とゲスト講師 第1回 2017年5月15日(月)13時30分~17時20分
ゲスト講師:蝦名大也(釧路市長)
第2回 2017年6月5日(火)午前
ゲスト講師:豊岡市
参加方法 第1回参加は下記URLよりご応募ください。

https://www.mpd.ac.jp/event/localdesignsem2017/

※募集人数は40名です。(申込多数の場合には抽選とさせていただきます)
※参加費は無料。セミナーごとにお申し込みが必要です。
※セミナー終了後には個別相談会を実施いたします。