2017年2月号

ふるさとグローバルプロデューサー

海外に売れる伝統工芸品の開発 生活に必然性のある「革新」を起こす

本間 千奈未(第一印刷所 企画開発本部(CIC))

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新潟に本社を置き、地域に密着した事業展開を行っている第一印刷所にて、地域資源を活用した商品開発や企画などを手がける本間千奈未氏。出身地・佐渡の伝統工芸や地場産業を活性化し、持続させる力を習得したいと「ふるさとグローバルプロデューサー育成支援事業」に参加した。

日本屈指の米どころとして知られる新潟県だが、農業以外にも意外な強みがあるのをご存じだろうか。実は、経済産業大臣が指定する「伝統的工芸品」の数が、燕鎚起銅器、新潟漆器、小千谷縮など13産地、16品目にのぼり、京都府に次いで全国で2番目の多さを誇っているのだ。

「冬の間、雪が積もって農作業ができない時期があるため、工芸が発達していき、モノづくりが得意な県民性が醸成されていると感じます。また、私のふるさとである佐渡は、かつて流刑された人々による京の貴族文化、北前船と共に伝えられた町人文化、さらに金山があることから江戸幕府の直轄領となり、鉱山職人や労働者、商人など全国から人々が移住し日本各地の風習がもたらされ、伝統的な技術や芸能が根付いた土地です。」

本間 千奈未 第一印刷所 企画開発本部(CIC)

まだ26歳という若さの本間氏が伝統工芸に対してこれほど高い関心を寄せているのは、実家が県指定文化財でもある蝋型鋳金技術を継承しているためだ。蝋型鋳金とは、蜜蝋などを練り合わせて原型を作り、それを土で覆って乾かしてから窯の熱で蝋を溶かし、空洞になったところへ銅合金を注ぎ込んでつくる美術品。斑紫銅(はんしどう)と呼ばれる色を引き出す特殊な技法を、6代目となる本間氏の父が引き継いでいる。佐渡に何軒かあった鋳金を生業とする家も、今ではもう1軒だけとなってしまった。

土地の魅力を大切にしながら売れる商品を生み出したい

「職人気質の父は、世の中のニーズや生産性などには無頓着なタイプ。納期を守らず作り込んでしまうことも多く、なかなか販売に繋がりません。商品も、燭台や香炉などが主で、私が日常で使えると思えるものは少ない気がします」

家業の蝋型鋳金を含め佐渡の工芸をはじめとした産業を活性化し、文化を継承したい本間氏。地域に貢献する新規事業に力を入れている第一印刷所に就職し、地域活性のプロジェクトに携わり始めた。

たとえば、朱鷺や笹団子といった新潟らしいモチーフを使いカラフルでかわいい模様のデザインを作成し、ステーショナリーなどの土産品を開発したり、米どころの魅力を生かした「塩むすび(えんむすび)」イベントを実施したりと、その土地の魅力を大切にしながら顧客ニーズに合わせていく仕事は面白かったが、伝統工芸でも同じようなことが出来るだろうかと考えると、まだまだ自信は持てなかった。そこでそのギャップを埋めるために、上司の協力も得て、TCI研究所にて研鑽を積むことを決めた(ふるさとグローバルプロデューサー育成支援事業)。

老舗京和傘工房「日吉屋」の代表である西堀氏が設立したTCI研究所は、伝統技術を活かしたデザインプロダクトの開発を得意とし、バイヤー向けの展示商談会や世界各地で開かれる見本市への出展に際して作り手たちをサポートするアドバイザリー事業も手がけている。

本間氏は研修の一環として、徳島の「BLUE2@Tokushima」に参加するメーカーとのキックオフミーティングや、京都の伝統工芸品を海外マーケットに売り出すためのプロジェクト「Kyoto Contemporary」、欧州最大級のインテリア・デザインの見本市「メゾン・エ・オブジェ」に向けての試作品評価に立ち合う機会を得た。フランス語と英語が飛び交うディスカッションに翻弄されながらも、「アートディレクターやバイヤーといった市場動向に詳しい人が関わることで、生産に手間ひまのかかる伝統工芸品が“利益の出る価格”で“売れる商品”に変わっていくのだと感じました」と振り返る。

蝋型鋳金技術は、蜜蝋などを練り合わせて原型を作るため、複雑な形状の型をつくり、細やかなデザインの銅器を生み出すことができる

買い手にとっての価値が重要

さらに、展示会に帯同する形でフランスに2週間滞在。会場で来場者を相手に説明を繰り返すうち、技術力の高さや手間ひまの多さなど、“作り手側の目線”に偏った情報だけで購買意欲を促すのは難しいことを痛感した。

実家の話を披露して職人たちとすぐに打ち解けられることや、“作り手側の目線”に立てることは本間氏の強みではあるが、「高い技術によってもたらされる快適さ、便利さ、心地よさ、生活が豊かになったという喜びなど“買い手側の目線”から見た価値を伝えたほうが、お客様の反応が良かったのです」展示会の空き時間に“買い手側の目線”でスーパーやデパート、日本メーカーの店舗などを巡ってみると、売れ筋の食器が日本より大き目のサイズであることに目が留まり、それが食文化や風習の違いにあるのではないかと想像力を働かせた。

「私が伝統工芸を育んできた土地の文化を大事にしたいのと同じように、お客様が暮らしている生活、大事にしておられる文化があることを忘れず、生活に必然性のある形に変えていくような革新を起こしていきたい」と本間氏。その志は、研修先のTCI研究所が理念に掲げる“伝統は革新の連続”にもピタリと合致しているようだ。

商品そのものだけでなく、パッケージや説明書などのツール、ディスプレイにいたるまでトータルにプロデュースするためには、企画の早い段階から現地デザイナーやバイヤーを巻き込んでモノづくりを進めていかねばならない。研修を終えた後は、新潟県や佐渡の伝統工芸・産業活性に貢献するために、自治体の担当者へのアプローチなど、協力者との出会いにつながるアクションを起こしていきたいと意欲を見せる。

「研修中、アイデアが停滞気味になって誰かに話してみると、急に進み始めることが何度もありました。だから、失敗を恐れずにたくさんの人に話しかけていきます。パテントの説明なども自分でできるよう語学も頑張ります」と本間氏。若さゆえの経験不足や人脈不足を、若さ溢れる行動力とチャレンジ精神でカバーしてくれるだろう。

*ふるさとグローバルプロデューサーは、ふるさとプロデューサー等育成支援事業において、育成しています。当事業は、中小企業庁の補助事業として株式会社ジェイアール東日本企画が実施しています。同社は、カリキュラムの作成等を学校法人日本教育研究団事業構想大学院大学に委託しています。

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