2014年8月号

地域未来構想 岐阜県

農家の「日常の味」が生んだ人気店

後藤 展子(菜っちゃん 代表取締役社長)

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農産物直売所の設立・運営から始まった農家の主婦たちの取り組みは、地元名産の野菜を活用した農家レストラン経営へと発展。自らの思いを大切にしながら、“行列の絶えない”人気店をつくり上げている。

農家の主婦たちが「自分たちのできること」で地元の活性化に挑戦

126席ある広々とした店内には連日多くの客が来店する。野菜を中心に80種類ほどのメニューが並ぶ、中津川市のビュッフェ型農家レストラン『バーバーズダイニング』である。

特徴的なのは、高級野菜「ちこり」を使ったサラダや天ぷら、漬け物などがあることだ。「私たちは、ちこりのおいしさや食べ方を発信する役割も担っていると考えています」と、レストランを運営する会社「菜っちゃん」の代表取締役社長、後藤展子氏は言う。

このレストランには、他にも地産地消、農業の発展、食育など多くの思いが込められている。

野菜の直売所から始まった

後藤社長は中津川市の専業農家に嫁つぎ、しばらくの間は家と畑を往復するだけの毎日だったという。しかし女性の社会参画という風潮の後押しもあり、農業婦人クラブに参加して視野を広げた。

後藤展子 菜っちゃん 代表取締役社長

多くの研修や仲間との語らいで、一人ではできないことも、思いを共有することでいろいろなことができるのではないかと思えた。そして、農業委員に推薦されて農業者の代表として活動しているとき、その思いが具体的に動き出した。

「商店街の空き店舗対策で声がかかり、野菜の直売所『アグリハウス菜っちゃん』を始めました」

直売所は農家と消費者を直接結びつける場として大きな反響があった。だが、県からの補助金が終了する3年を超えると、経営は苦しくなったという。それでも、野菜を販売する場所を守って欲しいという農家の声に後押しされて運営を続け、経営を好転させるため、さまざまな所に声をかけた。

そのとき話をしたのが、もやしやスプラウトを生産する地元企業・サラダコスモの中田智洋社長だった。そして、ちこりの魅力を発信する複合施設『ちこり村』で直売所を開く話が持ち上がったのだ。

当たり前のものにこそ価値

ところが、話を進めるうちにビュッフェ型のレストランへと発展した。喫茶店をやりたいと思っていた後藤社長だったが、中田社長の提案には驚いたという。

「直売所で惣菜やお弁当はつくっていましたが、私たちにレストランができるとは思っていませんでした」

料理はすべて、「ちこり村」内の厨房で手づくりしている

気持ちが前向きに変わったのは、大分県のレストランの視察に行った時だ。行列ができ、にぎわっていたレストランで出されていたのは、自分たちが普段食べているのと変わらない煮物や天ぷらなどの野菜中心のメニューだった。

「私たちが当たり前だと思って食べていた新鮮な野菜にこそ、大きな価値があるんだと分かったんです」


料理はビュッフェ形式で提供され、大人1580円。野菜中心の手づくり家庭料理で、高級野菜「ちこり」のメニューも豊富。ドリンクも合わせて約80種類の料理を用意

成功の秘訣はブレないこと

オープンにこぎ着けたものの、どれくらいの量をつくったら良いのか、どれくらいのメニューが必要なのか分からず試行錯誤したという。時には客から注意を受けることもあったが、一つ一つ改善しながら運営を続けた。

また来たいと思ってもらえるよう、豊富なメニューを用意し、野菜の味を引き立てる工夫もした。それでも、もっと肉や魚の料理を増やして欲しいという要望だけは取り入れていない。

「野菜は高騰することもありますし、天候によって収穫が左右されるので、肉や魚を使った方が楽だと思います。でも、そこはグッとこらえて、野菜のいろいろな表情を見せられるようにしてきました」

地元の野菜にこだわり、生産者の顔が見える安全な野菜中心のメニューをそろえることで、地元の農家を応援したいという気持ちがあるからだ。だが、それだけではない。

「ここに来ればおいしい野菜をたっぷり食べられるというスタンスは崩したくないんです。例えお客様からのご要望でも、基本がブレてしまったら、お客様の信頼を裏切ることになって、飽きられてしまうと思うんです」

そして、もう一つ、このレストランでは『食育』というメッセージも伝えている。旬の野菜のおいしさや、安全な食材を手づくりで調理することも食育の一環だという。

「お腹に見合った量を食べていただくようお願いしています。また、食べ終わったお皿は返却口まで持って行っていただいています」

これも命あるものをいただくことに感謝する気持ちを持ってほしいという後藤社長の思いだ。後藤社長は今後の目標として、「経営者が変わってもお客様に愛されながら進化し続けるレストランにしたいと思っています」と語った。

中津川市はリニアの駅の建設予定もあり、今後ますます発展が予想される。バーバーズダイニングは、今後も遠方から来る方をおもてなし、中津川の魅力を伝えていくだろう。

「バーバーズダイニング」は、席数120席のレストラン。特に週末・祝日はとても混み合うため、順番待ちがいらなくなる「自動受付システム」も導入

地方創生のアイデア

月刊事業構想では、「地域未来構想  プロジェクトニッポン」と題して、毎号、都道府県特集を組んでいます。政府の重要政策の一つに地方創生が掲げられていますが、そのヒントとなるアイデアが満載です。参考になれば幸いです。

※バックナンバーには、そのほかの都道府県も掲載されております。是非ご一読ください。

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