ファストファッションへの規制が強まる中、SHEINはどう対応するのか
(※本記事は『THE CONVERSATION』に2024年5月21日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)
ファストファッションブランドのSHEIN(シーイン)は、2023年にニューヨーク証券取引所(NYSE)への上場に関心を示した。しかし、フロリダ州の共和党上院議員マルコ・ルビオ氏を含むアメリカの政治家からの反対に直面し、現在はロンドンに目を向けていると報じられている。
これは過去5年間でいくつかの企業を他の国際的な取引所に奪われたロンドン証券取引所(LSE)にとっては追い風な話だが、そもそもSHEINはNYSEへの申請がなぜ上手く行かなかったのかという疑問も持ち上がる。
SHEINは2008年に中国で設立されて以来、オンラインファストファッション市場で大きな世界シェアを獲得するに至った。すでに収益性のあるファストファッションのビジネスモデルをさらに加速させ、ウルトラ・ファストファッション事業として成功を収めた。
SHEINがアメリカのZ世代にとって2番目に人気のあるファッションブランドであることは驚くべきことではない。毎日最大10,000点の新作がアップされ、しかもその値段はZaraやH&Mなどのファストファッション競合他社と比べても格段に安いのだ。
しかし、SHEINのグローバル市場での成功を可能にしたこれらの戦略は、NYSEへの申請を妨げる要因になった可能性がある。
一般的にファストファッションの廉価さは労働搾取の懸念と結びついており、パンデミックの際には衣類生産の委託先を価格の安さだけで選ぶことの不安定さが明らかになった。また、業界全体の非倫理的で持続不可能な慣行への認識が高まる中、活動家がSHEINの成長を妨げる力を持つ可能性がある。
スイスの人権団体「パブリック・アイ(Public Eye)」は、SHEINの委託先だと言われる工場での労働搾取の疑いを報告しており、SHEIN自身も最近、条件改善のために「広範な進展」を遂げたとする包括的な対応を発表した。アメリカでは、ルビオ氏が2021年に中国のウイグル族の奴隷労働で製造された輸入品をブロックする法律を成立させ、SHEINと同じく中国の低価格小売業者テムについても、同法に違反しているかどうかの調査を命じている。
気候非常事態なども規制強化の一要因に
米国はファッション業界の規制をさらに進めている。ニューヨークでは「ファッション持続可能性および社会的責任法案(Fashion Sustainability and Social Accountability Act)」が成立すれば、年商が1億ドル(2024年6月17日時点で約157億円)を超えるファッションブランド、フットウェアブランドに対してサプライチェーンの50%を特定し公開する(透明性を確保する)ことを義務付ける。また、社会的・環境的影響を減少させる計画を策定する必要がある。
同様に、2019年に欧州議会は気候非常事態宣言を表明し、欧州委員会が欧州グリーンディール(European Green Deal)を策定した。これには、ファッション業界に持続可能性問題に取り組むことを強制する計画的な法規制が含まれており、2030年までに衣類・繊維製品をより耐久性を高く、修理可能に、リサイクル可能に変えていく必要がある。企業側は最大限資源の有効活用、廃棄量の最小化を図るため、設計から廃棄までの戦略を持つよう求められる。
フランスの政治家も「ウルトラ・ファストファッションの行き過ぎた行為を抑制する」法律を制定しており、2025年から1商品あたり5ユーロ(約4.29ポンド)の課税を開始し、2030年までに課税額を10ユーロに引き上げる予定だ。これはファストファッションが労働搾取だけでなく環境へも影響を与えているという認識が背景にある。ファストファッションは使い捨てされるもの、過剰な消費を促進するものと見なされているのだ。
SHEINのLSE上場は同社の信頼性と利益を向上させる可能性があるが、長期的にはブランドにとって逆効果になる可能性がある。持続可能性と気候変動対策に配慮したビジネスへの理解が進む中、SHEINはより広い視聴者に対してより可視化され、活動家たちが株主や同社の関係組織・人物をターゲットにする可能性がある。
この前例として、エネルギー会社からのスポンサーシップに対して博物館や美術館をターゲットにした活動家や、ガザ戦争に関連してイスラエル企業からの投資を撤回するよう求めた米国・欧州の大学キャンパスでの抗議などが挙げられる。
このような搾取的・非倫理的な慣行に対してブランドを公然と批判する傾向はここ数年間、ソーシャルメディア上でファストファッション事業者に対して向けられてきた。特に「ファッションホール(fashion hauls、HAULは購入した商品を紹介すること)」で成り立っているインフルエンサーは、持続可能でない衣類の消費を助長することで批判されている。
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もしこの記事の読者に業界関係者がいたら、ファッション業界は持続可能性に取り組んでいない、と不当な批判を受けているように感じられるかもしれない。実際、環境を破壊するのはファッション業界だけではない。しかし、その批判は正当だと捉えることもできる。今のところ、国連はファッション業界が世界で2番目に環境への悪影響が大きい業界だと信じているからだ。
さらに、この業界は低価格と短いトレンドサイクルを公然とアピールし、「最後のチャンス」や「在庫わずか」といった希少性マーケティング戦術とともに、頻繁な衝動買いを促進するセールを行っている。私たちの調査によると、ソーシャルメディア上のファストファッションのマーケティングは「とても強引」であり、タグが付いたままクローゼットに放置されるような、服の無分別な消費を促している。
ファストファッション事業者は消費者の「エコロジーに対する罪悪感」を和らげるためによくサステナビリティについて主張するが、内容が曖昧で検証できないことが多い。しかし、トレンドサイクルの速さと一度着ただけで捨てられるようなアイテムが多いため、ウルトラ・ファストファッション、ファストファッションが持続可能であることはあり得ない。
したがって、ソーシャルメディアのストーリーに表示される彼らのマーケティング施策が消費者を惹き付ければ惹き付けるほど、その内容はファストファッションが批判されている有害な影響とますます矛盾していく。
ファストファッションブランドを規制する動きが世界で広がるにつれて、その影響は確実にセクター内の利益に影響を与えるだろう。SHEINのロンドン上場はLSEにとっては一助となるかもしれないが、同社にとっては上場とともに増大する社会監視の中で問題を引き起こす可能性がある。
(注:なおSHEINはこの記事で提起された主張についてコメントを求められたが、回答を拒否した。)
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- エレイン・L・リッチ(Elaine L Ritch)
- グラスゴー・カレドニアン大学 ファッション・マーケティング学講師