経産省 エンタメ産業戦略発表、クリエイターへの対価還元を明記
経済産業省は2026年8月20日、「エンタメ・クリエイティブ産業戦略2026」を公表した。2033年までに日本発コンテンツの海外売上高を現状の約5.8兆円から20兆円へ拡大するという政府目標(月刊事業構想2026年4月号参照)に向け、エンタメ・コンテンツとクリエイティブの両分野にまたがる包括的な成長戦略を示したものだ。副題は「ものがたり大国5か年計画」とした。
今回の戦略は、2025年度に開催された「エンタメ・クリエイティブ産業政策研究会」での議論を土台としている。同研究会には各界トップ90者以上、スタートアップやクリエイター100者以上が参加し、50名超の委員と関係省庁がメッセージを寄せた。2026年7月に日本成長戦略本部で決定された戦略17分野の「官民投資ロードマップ」のうち、コンテンツ分野を具体的に推進する柱として位置づけられている。
戦略の核心は、日本のコンテンツ産業が抱える構造的課題を「市場の失敗」として定義した点にある。課題の1つ目は、作品製作への投資が少ないこと。特に公的な支援が少なく、米国6176億円、中国1283億円、フランス1233億円、韓国762億円と諸外国がコンテンツ産業に大規模な財政支援を措置する中で、日本の財政支援は100~200億円程度を推移してきた。他国に比べ高い不確実性が民間のリスクマネーの流入を阻んでいる。2つ目が、海外巨大プラットフォームへの依存による低い回収率だ。映像・出版分野では海外売上の回収率が1~2割程度に留まっており、ネットワーク効果によるプラットフォーム集中が構造的な要因となっている。3つ目は、年間10兆円規模とされる海賊版被害である。権利侵害がクリエイターへの対価還元を毀損し、正規流通の成長を妨げている。
これらの課題に対し、同戦略ではIP(知的財産)の価値最大化とクリエイターへの対価還元を軸に、5つの構造改革を打ち出した。クリエイターの育成・確保、融資活用による資金調達基盤の整備、AI活用と権利保護の両立、成果に応じた適正報酬の確保、そして戦略的なIP活用(いわゆる「IP360度展開」)により、マンガからアニメ、ゲーム、実写、音楽、グッズまで多角的に収益を最大化する仕組みの構築を目指す。そのために国による予算執行を一元化し、海賊版対策やIPライセンス取引支援、融資基盤などの協調領域サービスを提供する。効果が薄い施策は縮小・廃止する不断の見直しも明記された。
アート、デザイン、ファッション、伝統的工芸品、「みる」スポーツを含むクリエイティブ分野については、デフレからインフレへの経済転換とインバウンド需要の拡大を好機と捉えている。海外富裕層をターゲットに、日本の歴史・文化的背景や技術の価値を伝える「ナラティブの構築」を通じ、価格競争に甘んじるプライステイカーから脱却し、高付加価値に基づく「一桁上のプライスメイカー」への変革を促す方針だ。
経産省は今後、関係省庁や産業界と連携しながら政策の立案・実施を進めるとともに、効果検証を継続して随時改善に反映する「学び続ける政府」を目指すとしている。コンテンツ産業の海外売上高はすでに半導体を上回る5.8兆円に達しており、本戦略がその3倍超という野心的目標への道筋をどこまで具体化できるかが問われる。