水素・アンモニア導入拡大で切り開く未来 意思ある政策で脱炭素に挑む経産省
(※本記事は経済産業省が運営するウェブメディア「METI Journal オンライン」に2025年10月14日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)
【省エネルギー・新エネルギー部水素・アンモニア課】に聞く、脱炭素に欠かせず、成長の原動力ともなりうる水素・アンモニアの導入拡大とは。
経済産業省という複雑な組織を「解体」して、個々の部署が実施している政策について、現場の中堅・若手職員が説明する「METI解体新書」。今回は、資源エネルギー庁省エネルギー・新エネルギー部水素・アンモニア課で、政策作りに取り組む長谷川圭太さんに話を聞きました。
2050年カーボンニュートラルに欠かせない「水素・アンモニア」
── どのような業務を担当していますか。
資源エネルギー庁省エネルギー・新エネルギー部水素・アンモニア課で総括補佐をしています。課全体の業務を統括しながら、水素・アンモニアの供給・利用拡大に向き合っています。
── 水素・アンモニアの供給・利用拡大はなぜ必要なのですか。
カーボンニュートラルの実現に向けて、電化だけでは脱炭素化の実現が難しい領域における解となることができ、先行してきた日本の技術を活かして、産業を興していける可能性があるからです。例えば、鉄をつくるための還元剤や、産業部門における熱需要を満たすための燃料転換などが考えられます。また、モビリティの領域でも、トラックやバスのような重量のある車は、蓄電池(EV)を使うと充電時間も長くかかり、航続距離も短くなるという課題があるため、水素を使用した燃料電池自動車の方が勝機があるのではないかと言われています。火力発電も電力の安定供給のために重要ですが、燃焼時のCO2の排出量を減らすために、水素やアンモニアを混ぜて燃やす取り組みが進んでいます。
── 供給・利用拡大に向けて課題はありますか。
再エネ電気を使って水を電気分解して水素を作るにしても、天然ガスを改質して水素を取り出すにしても、水素を取り出すプロセスが発生する分、どうしてもコストがかかります。現状では水素の価格が高く、自然体ではエネルギー市場の競争に入っていけません。一方で、2050年カーボンニュートラルの実現に向けては、こうした技術の活用は不可欠なので、今のうちから、どうやってコストを下げるのかに取り組んでいかないと、必要な時までに、必要な量を適正な価格で提供できなくなってしまいます。コストを下げるためには、規模の経済を働かせていくことも必要であるため、価格差に着目した支援を実施していきます。これまで利用していた天然ガスや石炭を、水素やアンモニアに変える場合には、原料費・燃料費の差分が事業者のコストになりますが、政府が15年間、この差分を埋めるべく支援します。現在、15年間で3兆円規模の支援額を大きく超える規模の申請をいただきまして、9月末にまずは2件、認定しました。引き続き、認定に向けて審査を進めています。認定された事業に沿って、実際にサプライチェーンが立ち上がっていくことになります。
市場構築のため、国も一緒に挑戦
── サプライチェーンを立ち上げるための支援が進んでいるのですね。
はい。価格の差分を埋めるためだけでなく、製造設備投資の支援も行っています。実際にサプライチェーンを立ち上げようと思うと、それぞれのサプライチェーン上必要になる機器があります。機器自体の製造が追いつかないといけませんが、日本企業はそのための製造技術も持っているという強みがあります。政府として製造設備投資の支援を行うことで、その技術力を生かし、日本企業が世界でも市場を取っていってほしいと考えています。また、研究開発の支援もしています。例えば、水電解装置の開発やアンモニア合成時の触媒開発をして、コストを下げながら安定的に水素やアンモニアを「つくる」ことを目指す事業や、液化水素運搬船などを用いて「はこぶ」研究開発・実証を行う事業、水素やアンモニアによる混燃発電・専燃発電などの「つかう」技術の開発などがあります。
── どのような思いで政策や業務を進めていますか?
現状、水素やアンモニアを使用する際の価格はどうしても高いので、これをビジネスにしていくのは簡単ではありません。こうした難しい課題に対して、どうチャレンジして乗り越えて、これまでビジネスになっていなかったものを、どうビジネスにしていくか。民間企業の皆さんにお願いするだけではなく、価格差に着目した支援のほか、法定化されるカーボンプライシングや、電力やガスなどの制度など、国側も制度的措置を企画・立案・実行していくことが必要であり、それは国側にとっても挑戦です。官民が一緒になって挑戦し、共に市場を立ち上げていきたいと考えています。
経済産業政策の新機軸を立ち上げた時、原案の作成を担当したのですが、その当時から、まだ存在していない産業をどのように興し、どのように社会課題の解決につなげていくか、そこにチャレンジする必要性を強く感じていました。そのために、これまでやらなかった、大規模かつ長期的な支援策も実施していきますし、規制の観点からも、緩和することだけ考えるのではなく、時には強化も含めて、市場を作ることを考える必要があると思っています。国側も挑戦ですが、その挑戦に取り組んでいくのが、新機軸で打ち立てた思想だと思っていますし、水素やアンモニアのようにその一翼を担っている産業でも求められる、やっていかなければいけないことだと感じています。
求められるのは社会課題の解決。簡単ではないからこそ面白い
── この仕事の魅力はなんですか。
これまでは、自由競争の中で、民間の活力で市場が活性化し、競争によってコストが下がり、よりよいサービスや商品の開発・提供に繋がるという時代もあったと思うのですが、今は、経済成長も課題だと思いますが、ものは溢れ、社会課題も浮き彫りになる中で、既存のビジネスの中だけでは簡単には解決されない、置き去りにされてしまうような課題が出てきていると思っています。大きな推進力をもつ経済・産業の力で、どのように社会課題を解決していけるかについて、ルールを作ったり、大規模かつ長期の支援も活用したりして、民間事業者の変容を起こしながら、社会をどう変え、経済自体もどう伸ばしていくかを考えられるのは、この仕事の面白いところだと感じます。
サプライチェーンの話をしましたが、研究開発段階の技術から、社会実装される計画に至るまで、サプライチェーン全体を見ながら、どのようなアプローチをしていくのがよいか政策を描いていけるのも魅力です。水素でもアンモニアでも、サプライチェーン一つ一つそれぞれ別の事業者の方々が関わっていますが、そうした事業者の方々をつないで社会に実装していく政策を考えることができるのは面白いですし、国だからこそできることだと思います。

── 業務の中で難しさを感じるのはどんなところですか。
様々なプロジェクトを進めていますが、価格が高いので、頓挫しそうになるもの、やり方を変えなければいけなくなるものも多く出てきます。その都度、粘ってやり方を考え、踏み込んだ調整や政策づくりをすることが必要で、非常に難しいことです。他方、難しいからこそ、やりがいを感じる作業でもあります。民間の方々のお知恵もたくさんいただきながら、国側でも真剣に考え、国だけでできないことを関係者とともにどう進めるか、試行錯誤しながら進めています。
WILL(意思)をもって政策決定を
── 業務にあたる上で大切にしていることは。
社会課題解決を目指すときに、どういう価値が大事だと考えるか、どのぐらいの強度で取り組むのかには、正解はないと思っています。世論や民意は、当然、非常に重要なものですが、移ろうものでもあり、何かを形にして前に進めていくためには、担当として「自分はこう考えて、このぐらいの強度で、こういう方向性でやりたい」という思いを持つことが、すごく大事だと考えています。政策案をどこまで考え、誰まで説得して、それを実現させるかについて、行政官もwillを持って仕事に取り組むことが、多様な価値の重要さが問われる中で、課題解決までやり切れるかを左右すると思っています。
── 仕事以外の時間はどのように過ごされていますか。
結婚してライフステージが変わったことで、時間の使い方も変わりました。余暇は家族と趣味のオーディション番組を見たり、料理したり、友人家族と過ごしたりしています。エンタメが好きですが、単純に作品として面白いというだけでなく、人が何に感動するのかを考えるのも好きで見ています。エンタメの中に表現されている感情や流行は、その時代を生きる人が求めているものを反映していると思うんです。人が求めているものを実現させるビジネスにお金は動きますので、経済や産業が興るタネのように感じることがあります。オーディション番組に人気が出たのは、成長に向かう頑張りを応援したくなる気持ちの表れで、それに感動する人が多いのは、今日と変わらない明日では大多数の方々は満足せず、成長を望んでいることの表れなのではないか、と。ぼんやりそんなことを考えながら、家族や友人と楽しく過ごしています(笑)
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