JIC、2050年に向け投資戦略加速 8000億円規模の新ファンドとグローバル展開

産業革新投資機構(JIC)は、都内で開催された記者会見において、2050年までの長期運用を見据えた最新の活動進捗と投資方針を発表した。2024年度の法改正によって運用期限が大幅に延長されたことを受け、同機構は中長期的な日本経済の活性化を目指し、投資エコシステムの成長の連鎖を生み出すための多層的な支援を本格化させている。

(右から)横尾敬介代表取締役社長 CEO、久村俊幸取締役 CIO

産業再編を主導する8000億円規模の新ファンド

JICのPE(プライベート・エクイティ)部門を担うJICキャピタルは、2025年11月に総額8000億円規模となる2号ファンドを組成した。この大規模なファンドは、業界再編や成長投資、そして、事業再編機会に対する民間ファンドとの協調投資という三つの軸を中心に運用される。これまでに1号ファンドが手掛けたJSRでは、構造改革の結果として5四半期ぶりの最終黒字を達成したほか、新光電気工業の非公開化を通じたハンズオン支援も着実に進展している。トプコンにおいては、国内ハードウェア企業がグローバル市場でソリューション企業へと変革するビジネストランスフォーメーションの成功事例創出を目指す。

海外トップVCとの連携を通じたGo Global戦略の深化

スタートアップ支援における中核戦略の一つが、海外のトップティアVC(ベンチャーキャピタル)への投資を通じた国内企業の海外進出支援である。米国のNEAや欧州のアトミコといった世界的な有力ファンドへ出資することで、単なる資金供給を超えたネットワークの構築を目指している。2023年以降、これらの海外VCと国内VCおよび企業との面談数は500件を超え、250件の検討を経て、投資先海外VCから国内企業に対し、7件の直接投資が実行された。単に投資を受けるだけでなく、世界基準の視点から見送り理由などのフィードバックを得ることで、起業家のマインドセットをグローバル基準へ引き上げる効果も現れている。久村俊幸取締役CIOは、国内スタートアップの資金調達における海外比率を現在の10パーセントから30パーセントに引き上げるという具体的な目標を示した。

イノベーション創出の基盤となる多様性とエコシステムの構築

横尾敬介代表取締役社長 CEOは、日本からユニコーン企業が育ちにくい背景として、エコシステムにおける多様性の欠如を指摘した。これを受け、JICではDE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)を経営戦略と位置づけ、新規投資先に対してハラスメント防止規定の制定や行動規範の整備を投資要件として課すなどの踏み込んだ取り組みを開始している。また、成長の妨げとなっているスモールIPO(小規模上場)からの脱却を目指し、セカンダリー市場の活性化やIPO後の企業に対するアフターマーケット投資の強化にも取り組む方針だ。自社内においても多様な人材が活躍できる組織文化を醸成し、持続的な投資人材の育成を通じて日本経済の基盤を支えていくことを強調した。