ネイチャーポジティブとは 自然資本と経済社会が注目する理由

(※本記事は「産総研マガジン」に2025年4月2日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

ネイチャーポジティブは日本語で「自然再興」と訳され、人間活動による自然の損失を食い止めて、回復軌道に乗せることを意味しています。ネイチャーポジティブの実現を目指して、自然資本および生態系の保全や回復、気候変動対策、資源循環など、社会全体がさまざまな分野で連携しながら取り組むことが求められています。


ネイチャーポジティブは日本語で「自然再興」と訳され、人間活動による自然の損失を食い止めて、回復軌道に乗せることを意味しています。ネイチャーポジティブの実現を目指して、自然資本および生態系の保全や回復、気候変動対策、資源循環など、社会全体がさまざまな分野で連携しながら取り組むことが求められています。

ネイチャーポジティブとは

私たち人間の活動は、水、大気、土壌や森林などの自然資本をベースに成り立っています。しかし近年、自然資本が劣化して生態系が破壊され、生物多様性が急速に失われるようになってきました。こうしたことから2021年のG7サミットで採択された「2030年自然協約」では、「人々と地球の双方に利益となるようなネイチャーポジティブを達成しなければいけない」「2030年までに生物多様性の損失を止めて反転させる」と、ネイチャーポジティブの意義が宣言されました(※1)。

人間活動が行き過ぎたばかりに、多大な負荷がかかっているのが今の地球の状態です。世界の国内総生産(GDP)の半分以上が自然に依存し、生物多様性の損失は世界経済においてトップ5に入るほどの巨大なリスクと認識されています。ネイチャーポジティブは単なる環境保全の概念ではなく、人類の発展および経済成長と両立できる持続可能なアプローチであり、自然資本に多くを依存する企業などの価値を上げるために必要な取り組みでもあります。

※1: The Nature Positive Initiative https://www.naturepositive.org/

プラネタリー・バウンダリー

地球システムが安定した状態を保つために、人間活動が守るべき“限界値”が科学的に提案されています。これを「プラネタリー・バウンダリー」(惑星の限界)といいます。プラネタリー・バウンダリーには気候変動、新規化学物質、生物圏の一体性など9つの項目が定められていますが、地球はすでに6つの項目で大幅に限界値を超えていると指摘されています。持続的な人類の発展と幸福のためには地球システムを安定化させる必要があり、その手段の一つとしてネイチャーポジティブの実現が極めて重要になってきています。

The evolution of the planetary boundaries framework
The evolution of the planetary boundaries framework(※2)
2023年分を抜粋。緑色の部分は地球環境が安定した状態の領域であり、はみ出したオレンジ色の部分は限界値を超えている。

ネイチャーポジティブは、単独で成り立っている概念ではありません。温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させるカーボンニュートラルや、資源循環に付加価値を生み出すサーキュラーエコノミー(循環経済)が密接にリンクしています。持続可能な地球のためには、これら3つ全てを達成することが大切です。

※2:Azote for Stockholm Resilience Centre, Stockholm University. CC BY-NC-ND 3.0. Based on Richardson et al. 2023, Steffen et al. 2015, and Rockström et al. 2009

(記事の続きはこちらから。産総研マガジン「ネイチャーポジティブとは?」

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