次世代航空機、開発をリードできるか 水素や電動化で脱炭素の象徴へ

(※本記事は経済産業省が運営するウェブメディア「METI Journal オンライン」に2024年10月24日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

地球温暖化への関心の高まりから、ジェット燃料を使用して大量のCO2を排出する航空機の利用に、欧米を中心に「フライト・シェイム(飛び恥)」との批判が強まっている。航空業界のCO2排出量は世界全体の3%程度だが、乗客1人を1キロメートル運ぶ際のCO2排出量は鉄道の6倍。このため、民間航空業界を管轄する国連の専門組織「国際民間航空機関」(ICAO)は2022年、国際線の航空機が排出する二酸化炭素(CO2)を2050年に実質ゼロ(カーボンニュートラル)とする目標を採択した。世界の航空機産業は今、脱炭素化に向けて大きく舵を切っている。

水素航空機のイメージ画像
水素航空機のイメージ(川崎重工業提供)

スタートした次世代航空機の開発プロジェクト

2050年のカーボンニュートラルに向け、ICAOは、「新技術の導入」「運航方式の改善(燃料節約)」「持続可能な航空燃料(SAF)の活用」の組み合わせによってCO2排出量削減を図り、基準となる排出量を超過した分は、排出権取引によってオフセット(相殺)することを求めている。

SAFは廃棄物や廃材などを原料とした航空燃料で、ジェット燃料よりCO2排出量を約7〜9割減らせるが、ゼロにはならない。そこで期待されているのが、「ゼロ・エミッション(CO2排出ゼロ)」が実現できる「水素航空機」や「電動航空機」の開発だ。

日本では2021年に策定された「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を実現するために、政府が「グリーンイノベーション基金」を創設。その基金を活用した研究開発の取り組みの1つとして「次世代航空機の開発プロジェクト」を掲げ、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が中心となって、国内の企業・研究機関参画のもと、4つの研究開発テーマに取り組んでいる。

NEDOグリーンイノベーション基金における次世代航空機の開発プロジェクトを示した表
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NEDOにおいて、この4つの研究開発テーマに取り組む航空・宇宙部の金山恒二部長は「水素利用や電動化技術をはじめ、省エネ化や低コスト化は日本の得意分野です。世界的なカーボンニュートラルの動きを国内航空機産業の競争力を飛躍的に強化する機会として捉えたい」と語る。

NEDO航空・宇宙部の金山恒二部長が話している様子
「カーボンニュートラルの動きを国内航空機産業の競争力を飛躍的に強化する機会としたい」と話すNEDO航空・宇宙部の金山恒二部長

世界に先駆ける水素技術、日本がイニシアチブを取れる!

研究開発項目の1つ「水素航空機向けコア技術開発」は、川崎重工業が水素燃焼器、液化水素タンク、水素供給システム、機体構想などの研究開発を2021年から進めている。機能試験などを経て2029年から実証段階に入る計画だ。

水素は燃焼すると酸素と反応して水になり、CO2の排出はゼロ。マイナス253度で液化し、体積は800分の1に減少するのが特徴で、液体水素で貯蔵するのが効率的だ。しかし、液体水素はジェット燃料に比べて、単位体積当たりの発熱量が4分の1と少なく、大容量タンクが必要となる。さらにタンクには、極低温を維持するために「高い断熱性」と「極力表面積が少なく搭載性にも優れた円筒形状」といった条件が加わることになる。現在、CO2排出量の大きい国内線クラスの機体を想定して、機体内のタンク配置場所ごとに数タイプの機体仕様が検討されている。2024年10月には、開発した水素燃焼器を組み込んだ水素エンジンの運転試験をJAXA能代ロケット実験場で実施し、水素100%での運転に成功するなど、開発は順調に進んでいる。

川崎重工業航空宇宙システムカンパニーでプロジェクトを総括する餝(かざり)雅英さんは「水素航空機の開発は、海外でもスタートしたばかりであり、いち早く成果を出すことで、日本の技術の優位性を示していきたい。日本メーカーがイニシアチブを取れる分野であり、我々がゲームチェンジャーになれるチャンスを秘めているのです」と自信を示す。

川崎重工業航空宇宙システムカンパニーの餝雅英さんが話している様子
川崎重工業航空宇宙システムカンパニーの餝雅英さんは「水素航空機で日本がゲームチェンジャーになれる」と将来を見通す。

電動化・燃料電池電動推進システム…日本の技術を結集して挑む

水素技術とともに次世代航空機開発の柱となるのが、電動化の技術だ。担当するIHIは、既にジェットエンジン後方に搭載可能な1メガ・ワット級の発電機を開発し,実用化に向けた開発を継続している。被膜の施工にまで踏み込むことで、約300度の耐熱温度という条件もクリアした。また発電した電気を活用する機器として、航空機向けとしては世界最大級(55キロ・ワット以上)の電動空気圧縮機の開発も進めている。これにはIHIが長年培ってきた自動車のターボチャージャー(過給機)の技術が生かされている。

これまでの航空機でも客室の空調や制御機器の冷却のための機器は搭載されていたが、熱エネルギーの利用はバラバラに行っていて無駄になる熱が少なくなかった。これらの機器を電気で一括管理してエネルギーを最適配分することで効率化を目指す。

IHIで電動技術開発を統括する関直喜さんは、「『自力で電気を作り出す』と『効率的に電気を使う』を両立する航空機のトータルエネルギーマネジメントによって、カーボンニュートラルに挑みます。2030年頃を目途に我々の技術を完成させ、次世代の航空機にこのシステムが選定されるように進めたい」と決意を語る。

IHI航空・宇宙・防衛事業領域の関直喜さんが話している様子
「航空機のトータルエネルギーマネジメントによって、カーボンニュートラルに挑む」と語る、IHI航空・宇宙・防衛事業領域の関直喜さん

また、航空機向けの水素燃料電池電動推進システムの開発も着実に進められている。

自動車などでは既に実用化されているが、航空機では常に変化する気温や気圧がネックとなっている。担当するIHIエアロスペースは、液体水素タンクや供給システムを含む水素燃料電池電動推進システムの技術開発に取り組む。現在は総出力4メガ・ワットのガスタービンを使用している航空機への実装を想定し、座席数40席以上で1フライト当たり3時間以上の航続時間を目標とする。

IHIエアロスペースで水素燃料電池電動推進システムの技術開発を統括する藤松清人さんは「水素を利用したCO2の削減は新技術として大いに期待が高まっていて、日本の産業界も良い技術をたくさん持っています。その技術を結集して、カーボンニュートラルを早期に実現していきたいですね」と意気込む。

IHIエアロスペースの藤松清人さんが話している様子
IHIエアロスペースの藤松清人さんは「日本の産業界の技術を結集して、カーボンニュートラルを早期に実現していきたい」と意気込む。
水素燃料電池電動推進システムが搭載された航空機のイメージ画像
水素燃料電池電動推進システムが搭載された航空機のイメージ(IHIエアロスペース提供)。プロペラの後ろに、モーターとインバーターが入ったエンジンナセル(筐体)があり、主翼の中にはバッテリー(紫色)がある。胴体の中ほどに液体水素タンク(オレンジ色)があり、タンクと座席(緑色)の間、主翼の真下辺りに燃料電池(青色)がある。

環境問題解決と産業技術強化を両立、脱炭素のシンボルに!

「次世代航空機の開発プロジェクト」を取りまとめるNEDO航空・宇宙部の金山恒二部長は「NEDOの二大ミッションは『エネルギー・地球環境問題の解決』と『日本の産業技術力の強化』です。航空機産業への支援は両方に資することになり、非常に意義があります。水素や電動化の次世代航空機が完成すれば、国民の皆様にも目に見える形で、地球温暖化防止のシンボル的な存在になるでしょう。そのためにも経済産業省と一緒に、航空機産業を力強く支援していきたい」と言葉に力を込めた。

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