配管システムでトップシェアのカワトT.P.C. 過疎地域に雇用創出、自動化で競争力高める

(※本記事は日本政策金融公庫が発行する広報誌「日本公庫つなぐ」の第31号<2024年4月発行>で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

山口県岩国市の株式会社カワトT.P.C.は、マンションなどで用いられる給水・給湯用プレハブ配管システムで、国内トップクラスのシェアを誇る。近年、特に女性が働きやすい職場づくりと、過疎地域に進出し新たな雇用を創出する方針で注目を集める同社の代表取締役会長・川戸俊彦氏に、その狙いと成果を取材した。

株式会社カワトT.P.C. 代表取締役会長 川戸俊彦 氏
株式会社カワトT.P.C. 代表取締役会長 川戸俊彦氏

工事の現場を劇的に変えたプレハブ配管システム

赤や青のパイプがぐるぐると輪を描く、広々とした作業場。作業着姿の従業員の多くは女性で、床に置いたタブレットで指示書を確認しながら、てきぱきとパイプに金具を取り付け、組み立てていく。

「見学に来た人からは、『しゃがんで作業するなんて効率が悪いのでは?』とか、『足腰に負担がかかるのでは?』と聞かれるのですが、従業員が試行錯誤して、このやり方が良いと決めました。ならばそれが今のベストですよ」と説明してくれたのは、株式会社カワトT.P.C.の創業者で現在は代表取締役会長である川戸俊彦氏だ。

同社は山口県岩国市で、マンションや商業施設などで用いられる給水・給湯用プレハブ配管システムの企画・製作を担う企業だ。

かつて配管工事は、重い金属管を用い、建設現場で専門の職人が調整しつつ施工されていた。しかし1995年に川戸氏が大手化学メーカーと共に開発した〝プレハブ配管システム〟では、設計・施工図に基づいて樹脂パイプや金具をあらかじめ組み立てた状態で出荷する。受け取った現場では、施工箇所に合うように調整されたキットを配置するだけでいいという簡便さで、大幅な効率化を実現した。

配管は天井や床下に隠れて見えなくなるため認知度は高くないが、現在首都圏で建設されるマンションの4割程度が同社のプレハブ配管システムを採用しており、国内トップクラスのシェアを誇る。

青が給水、赤が給湯のパイプ。ペーパーレス化が進んだ作業場で、タブレットで指示書を確認しつつ組み立てる
青が給水、赤が給湯のパイプ。ペーパーレス化が進んだ作業場で、タブレットで指示書を確認しつつ組み立てる

女性比率7割超 待遇向上と働きやすさ追求

そんな同社は製造業には珍しく、従業員392名の約7割が女性だ。その背景には、製紙や化学系の製造業の企業が多く、特に家庭を持った女性向けの求人が少ないという岩国市の地域特性も関係している。さらに、プレハブ配管システムに用いる樹脂パイプや継ぎ手は軽量で、組み立ても力仕事ではない。そのため女性やシニア層を積極的に採用したところ、先に入社した人が「いい仕事がある」と知り合いを連れてきてくれるようになったのだという。

多様な人材を雇用し「過疎で働き手が集まらないと嘆く経営者は多いけれど、実際には働きたい人はたくさんいる」と断言する川戸氏だが、その一方で山口県の人口は30年以上減少し続け、岩国市の一部も過疎地域に認定されている。

プレハブ配管システムの開発で、誰もが活躍できる仕事を創出し、人口減少にもかかわらず人が集まるようになった。ならば、と次に川戸氏が目指したのは、子育てや介護など、さまざまなライフステージにある従業員の働きやすさの追求だ。

誰がいつ休んでも支障が出ないように、業務の見える化とペーパーレス化を徹底。各人が今、どんな作業を担当しているかが共有されているため、欠勤や遅れへのフォローもしやすくなっている。

一人一人に芽生えた経営感覚 従業員の努力に公正に応える

現在の同社は、完全週休2⽇制を導⼊し、残業もほぼゼロを実現している。雇⽤形態や勤務地に関わらず、同一労働同一賃⾦。有給休暇や賞与などの条件も皆同じだ。

「⼦どもが急に熱を出して、仕事を休まなければならなくなるような事情も柔軟に受け⼊れてくれるので、女性も働きやすい。私は社歴が⻑いのですが、従業員の要望に合わせて、どんどん環境が改善されていると感じています」と、ベテラン従業員は語る。

さらにユニークなのは、⼈事権や決裁権が、各グループのリーダーに託されているという点だろう。

同社は、前述のプレハブ配管システムを⼿がける樹脂加工事業と、住宅向け⽔栓⾦具などの⾦属加工を⼿がけるテクマック事業を2本柱として、どの業務でも従業員は5~10人程度の小グループ(55グループ)に分かれている。メンバーの労働時間、勤務体系、人員補充などを決定する人事権や、品質保持、納品数や売り上げなどの管理はグループのリーダーの裁量に委ねられ、毎月決算報告もする。要するに各グループが〝小さな会社〟なのだ。

「当社の目標利益は月3%。そこであるグループが4%以上の利益を出したら、そのグループのメンバー全員に基本給の10%の手当を出します。正社員かパートか、誰が何時間勤務したかなどは関係ありません」(川戸氏)

グループの業績がそのまま自分の収入につながるのだから、どうすればもっと効率が良くなるか、誰もが真剣にならずにはいられない。「従業員にも自分事として経営を考えてほしい」と言う経営者は多いが、これほど言行一致した仕組みづくりをしている会社も珍しいだろう。

人がいるところに職場を作る 拠点分散で新たな人材を獲得

誠実に会社づくりを進めてきた川戸氏だが、その根本には、ある苦い経験がある。

「私は家族のために夢中で頑張ってきたつもりでした。しかし子どもが将来を考える年齢になったとき、会社を継ぐと言ってくれた者はいなかった。『お父さんみたいな働き方はできない』と言われてしまいました」

この言葉をきっかけに、自分は何のために仕事をしているのかと考えるようになった川戸氏は「従業員の子どもが働きたくなる会社にする」という決意を胸に刻んだ。

仕事がないから若者が都会に出てしまうというなら、都会と同等に稼げる仕事を地元に創出すればいい。同社が掲げる〝企業は地元の雇用の為だけにある〟という経営理念は、そんな想いから生まれたものだ。

かくして川戸氏が2023年に事業を託したのは「岩国は妻の勤務地で、ハローワークの紹介で入社したんです」と笑う、血縁も地縁もない転職組の青年だった。

現代表取締役社長の桐田直哉氏は、2003年に同社の前身である川戸鉄工株式会社に入社。水栓金具の企画・製造を担うエンジニアとして、テクマック事業をけん引してきた実績と、今後ますます求められる自動化や無人化といったDX戦略の知見を買われて、白羽の矢が立ったというわけだ。

川戸会長に未来を託された、代表取締役社長の桐田直哉 氏
川戸会長に未来を託された、代表取締役社長の桐田直哉氏

桐田氏が今、川戸氏と共に積極的に進めているのが「分散型拠点」の整備と「過疎地域における新工場」の設立である。

「プレハブ配管システムの組み立てには人手が不可欠ですが、大人数が1カ所に集まる必要はない。騒音なども特に発生しない仕事ですから、1グループ5人が作業できるスペースさえあればどこにでも開設できます」と言う桐田氏の説明どおり、同社では近年、駅の近くにある商業施設の中や住宅地などで小規模な拠点を開設している。車で30分かかる工場には通えなくても「徒歩や公共交通機関で通えるなら」と、また新たな人材が獲得できるようになったそうだ。

「人がいないというなら、人がいる所に会社が行けばいい。どんな場所でも、条件が合えば働きたいという人は必ずいるものです」(川戸氏)

廃校を活用した工場の新設 副業の創出で、過疎地域を潤す

もう一つ、同社が注力しているのが、高精度な金属加工を行うテクマック事業の「過疎地域における新工場」の設立だ。

現在、本社工場で稼働している最新鋭の金属加工工場の機能を、新設する工場に分散させる計画で、山口県萩市、鳥取県智頭町を選定した。進出先の選定に当たっては、この計画に賛同した日本公庫がリサーチや自治体への説明などのサポートを行い、萩市などからも積極的な協力を得られることとなった。工場用地・社屋には、廃校になった中学校や高校の体育館などを自治体から提供してもらって建設コストを抑えることが可能となった。

ここで驚くのは、新たな工場の運用体制だ。

「機械は24時間365日稼働ですが、操作や製造管理などは本社から遠隔でコントロールします。資材の設置や加工品の出荷などの人手が必要な作業をあえて残し、現地で農業や林業に従事している人に副業としてやってもらいます。勤務は1日2~3時間を想定しています」(桐田氏)

このような運用体制で各地域に進出した背景には、川戸氏の地元での経験が基になっているという。

「進出先はいずれも過疎化が進む山間部で、農業や林業に従事する人が多い。実は、私は京都府京丹後市出身で、山あいの暮らしをよく知っているのですが、田畑や山林は、人の手が入らなければすぐに荒れてしまいます。企業の進出によって、地域を支える仕事の担い手を奪うのではなく、農業や林業に従事する人の副業として、短時間で効率よく収入を得られる場を作りたいと考えています」

自動化で人を減らすのではなく、人を生かしながら自動化で競争力を高めるのが同社の目標なのだ。

説明会で各地を飛び回っている桐田氏は、「説明会には多くの地元住民の方に参加していただき、早々と〝ぜひ働きたい〟と手を挙げてくださる方もいました」と、手応えを感じている。

会社には用地を確保するためのコストの削減と人材確保、さらには、BCP対策。進出先には雇用創出と地域の保全。どちらにもwin-winの付き合いが、新たに生まれようとしている。

本社第5工場では24台の機械が24時間365日フル稼働中。これを、廃校になった学校の体育館などを活用した新工場に移設し、生産拠点を分散させる計画が進行中だ
本社第5工場では24台の機械が24時間365日フル稼働中。これを、廃校になった学校の体育館などを活用した新工場に移設し、生産拠点を分散させる計画が進行中だ
本社第5工場では24台の機械が24時間365日フル稼働中。これを、廃校になった学校の体育館などを活用した新工場に移設し、生産拠点を分散させる計画が進行中だ

地元では競争せず都市部から仕事を呼び込む

今では全国から仕事が舞い込むようになった同社だが、これまでの道のりには幾度ものピンチや気付きがあった。

「昔は業績を伸ばそうと、必死で頑張っていました。しかしその結果、山口県の小さな市場を奪い合う羽目になった。うちが潤えば、どこかの仕事が減る。これでは駄目だ、地元の企業とは競争すまいと思いました」(川戸氏)

この後悔を繰り返さないように、業務効率化によって生産性を高め、都市部から仕事を呼び込む。海外に出ていってしまう案件を山口県で請け、雇用を生み、地域の発展に貢献する。そんな決意を持って、愚直なまでに誠実な経営を続けてきた。

従業員の声に合わせて環境を変え、女性やシニア層も働きやすいビジネスモデルの構築をした同社は今、過疎地域に進出し、新たな雇用を創出しようとしている。“企業は地元の雇用の為だけにある”。その理念は、働く場がないと悩む地域や人々の未来を、豊かに潤すことだろう。

各部門を担うリーダーと共に。「より働きやすい会社に」と積極的にアイデアを出し合い、老若男女が働きやすい環境を実現してきた
各部門を担うリーダーと共に。「より働きやすい会社に」と積極的にアイデアを出し合い、老若男女が働きやすい環境を実現してきた

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