山形の弘栄ドリームワークス、ロボット開発で配管工事の市場を切り開く
(※本記事は経済産業省が運営するウェブメディア「METI Journal オンライン」に2024年10月18日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)
コメどころ、あるいはサクランボやラ・フランスに代表されるフルーツの名産地というイメージの強い山形県。もっとも、近年は独自の技術で躍進を図る製造業の取り組みも注目されている。山形市の弘栄ドリームワークスもその一つだろう。設備工事業を手がける親会社から2019年に分社化する形で、ビルなどの構造物の配管を探査するロボットを大学と共同で開発し、配管マップのデジタル化にも成功。DXを活用した配管調査市場を開拓し、それに伴う設備更新事業なども請け負う。それらを一歩進めて、配管工事を専門とするコンサルタント業務への事業展開も視野に入れる。元請け企業から仕事が降りてくる「受け身」の姿勢からの脱却を図り、あえてメーカーとしてロボットの開発を手がけることで、「オンリーワン」の地域企業としての活路を見出した。
設備工事業界のプラットフォームをつくっていきたい
弘栄ドリームワークスの親会社KOEIは1946年創業。船橋吾一社長(52)の祖父が1954年に会社を設立し、ビルや上下水道などの配管工事を手がけてきた。会社設立70周年に当たる今年、社名を「弘栄設備工業」から「KOEI」に変えた。「これを第2の創業と捉え、設備工事業界を活性化するための新たなプラットフォームをつくっていきたい」と船橋社長は話す。
船橋社長は大阪経済法科大学経済学部卒業後、住宅設備メーカーを経て、1999年にKOEIに入社。その過程で設備業界の様々な課題に直面してきた。「私たちのような専門工事業者は、まず施主がいて、仕事を請け負う元請け会社があり、そこと連動して仕事をすることがほとんど。基本、待ちの姿勢で、新しく市場を開拓することが難しい。だから、そこそこ仕事はあっても、今まで以上の発展は望めない。2012年に社長に就任してからも危機感は一層強まるばかりでした」。また、古い建物では、配管の位置が勝手に変更されていたり、配管の図面が残っていなかったりして、漏水などの問題が発生しても、即座に対応することが難しく、壁を壊すなど大がかりな工事が必要になる場合もあった。そうした配管調査を的確に行い、維持管理のコストを下げることも大きな課題となっていた。
ドローンをヒントにAI搭載のロボット開発に着手
そこでどうしたか? 建設や土木の測量現場などで使われるようになったドローンがヒントになったという。それを配管設備にも応用できないかと考えた。もう一つが医療で使われる内視鏡。ファイバースコープを大腸や胃などに挿入し、直接モニターに映し出すことで、病変を的確に把握し、手術にも応用されるようになっていた。「建物の配管は、言ってみれば外から見えない内臓のようなもの。だったら内視鏡のようなものを作って、配管の内部も調査できるのではないか」。そう思い立ち、配管内を自走するAI搭載のロボットの開発に取り組み始めた。
尺取り虫のような動きで自走して調査する「配管くん」
もっとも、周囲は大反対。「先代の社長に話すと、お前、何考えているんだと叱られました。でも、そこは絶対に必要になるからと、必死に説得して……」。設備工事会社なので、メーカーのような開発のための人材もいない。そのため、立命館大学理工学部の研究室が開発した配管内検査ロボットの技術を応用し、自走式のロボットを共同開発。10年近くをかけ、2019年に完成し、「配管くん」と名付けた。配管内を尺取り虫のような動きで自走し、車輪を内壁に押し当てることで、垂直方向にも移動できる。同時に「弘栄ドリームワークス」として分社化して、ロボットの開発や「配管くん」を活用した配管調査を手がけるようになった。船橋社長自身、弘栄ドリームワークスの会長を兼任し、新会社の舵取りを行っている。
「配管くん」にはカメラやLEDが付属し、直径25~150ミリの配管内を自走し、異常箇所を容易に発見することができる。角速度という物体の動きを検知するジャイロセンサーも搭載し、走行した配管内の軌跡を基にデジタルでマッピングも作成することができるようになった。用途に応じて、配管内の調査と洗浄を同時に行えるものや、複雑に入り組んだ配管内をスムーズに調査できるものなど、これまで3種類の「配管くん」を開発。「さらにアタッチメントなどを付けて修繕なども行えるロボットも開発していきたい」と船橋会長の下で弘栄ドリームワークスの実務を取り仕切る菅原康弘社長(59)は話す
ロボットの開発によって配管調査の大きな市場を確信
売り上げも順調に伸び、初年度の2020年3月期は40万円ほどだった売り上げが、2024年3月期では3億円に達し、次年度は6億6000万円を見込む。実際、2023年から首都圏の私鉄の駅舎で配管の調査と図面化など、大型の案件も手がけている。配管調査が設備更新工事の受注に結びつくケースもあるという。「新規事業でロボットを開発したことで、配管調査には大きな市場があることがわかった」と船橋社長。今後はロボットのレンタルに加え、調査から配管工事の施工までを請け負うサービスのサブスクリプションにも力を入れていきたいという。「自社だけでなく、元請け会社ありきで、受け身だった設備工事業界の立ち位置を向上させるきっかけにしたい」
現状に安住せず、課題解決に果敢に取り組む姿勢が鍵
「待ち」の姿勢から「攻め」の姿勢に転じたことで、「面白いことができそう」と人材の獲得にもつながっている。「配管くん」の面白さを一般の人にも知ってもらおうと、このロボットの原理を応用した玩具も独自に販売している。将来的には配管内部の映像や作成したマップのデータを蓄積し、AIなどを活用して解析する配管専門のコンサルタントとしての活動も視野に入れる。「配管くん」の開発を通して、隠れた存在だった配管を見える化し、裏方として支えてきた設備工事会社としての業績が一気に花開き始めている。現状に安住せず、業界や自社の抱える課題に果敢に取り組む姿勢が「地域で輝く」ための秘訣のようだ。
【企業情報】▽公式企業サイト=https://koeidreamworks.jp/▽代表者=船橋吾一会長▽社員数14人(2024年10月現在)▽資本金1億5262.5万円▽創業=2019年
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