【セミナーレポート】「M&Aは社長の孤独な決断支える」 M&Aキャピタルパートナーズ 中村悟社長

2025年12月12日、事業構想大学院大学にて開催された経営者向けセミナーに、M&Aキャピタルパートナーズ株式会社の代表取締役社長・中村悟氏が登壇。「M&Aを通じた企業の成長と事業承継」をテーマに、同社の業界トップクラスの従業員報酬を実現する体系を支える独自の経営哲学や、近年の大型案件成約事例の裏側にあるオーナー経営者の葛藤、そして次世代リーダーが向き合うべき事業承継の現実を語った。

より大きな資本との提携により成長を加速させる「現代の経営戦略」

中村氏は冒頭、日本で急成長を遂げる企業の多くがM&Aを成長のエンジンとして活用している現状を指摘した。「一代で会社を大きくした経営者は、ある段階でM&Aによる提携によってその提携先の資本の力を使った成長に舵を切り替えています」と述べ、M&Aが一部の特別な企業のものではなく、現代の経営において極めて身近で不可欠な選択肢であることを強調した。

同社は国内年収ランキングにおいて、2024年まで10年間1位を維持し続けている。中村氏はその高収益の背景について、単なる仲介手数料の高さではなく、一人当たりの生産性を最大化させる「ゴールドマン・サックス流」の組織設計にあると明かした。

創業20年、一拠点の「同行文化」が生む圧倒的生産性

中村氏のキャリアは、住宅メーカーの営業から始まった。M&Aアドバイザーへの強い憧れを抱いたものの、金融未経験の30代を採用する門戸はなく、2005年にわずか300万円の資本金で起業。電話一本、月5000円のレンタルデスクからのスタートだった。

その後、同社は東証一部上場(現東証プライム)を果たし、日本最古のM&A助言会社である「レコフ」や、国内唯一の事業再生M&A専門のアドバイザリーである「みらい共創アドバイザリー」を傘下に収めるグループへと成長した。その強さの源泉として中村氏が挙げたのは、徹底した「現場主義」と「一拠点集約」だ。

中村氏は「拠点を分断せず、東京一拠点で全員が熱量を共有しています。また、1人のコンサルタントに任せきりにせず、新人には上司や先輩が100回以上同行して教育する。この『同行文化』が、複雑な大型案件を完遂するスキルの継承を可能にしています」と話した。

また、報酬体系についても、透明性の高い仕組みを採用。成果が直接還元されるだけでなく、360度評価を取り入れることで、リーダーシップや組織貢献を重視する文化を醸成している。

成約の裏にある「オーナー経営者の孤独な決断」

中村氏は、自身が手掛けた約3000億円規模の案件など近年の象徴的な事例を振り返った。

これらの巨大案件に共通するのは、単なる出口戦略ではなく、オーナー経営者の「孤独な決断」とのこと。「どんなに業績が立派な会社でも、後継者が不在であれば、自分が倒れた瞬間に会社は終わる。そのリスクを前に、自分が健康で判断できるうちに最良のパートナーに託そうとする。私たちはその切実な想いに寄り添う存在でありたい」と話した。

「能力と意欲」が事業承継の成否を分ける

講演の終盤、中村氏は事業承継を控える次世代リーダーや現役経営者に対し、事業承継の現状について語った。「事業承継の選択肢は、親族か第三者(M&A)かの実質二択です。社員承継は美談になりやすいですが、数億、数十億円の株価がついた優良企業を、個人がいかに買い取るのか。銀行融資で無理をすれば、その後の返済が会社の成長を阻害します」と話した。

加えて、後継者に最も必要なのは「能力と意欲」であると断言。もしそれが不足しているならば、会社を持続させ、従業員の雇用を守るために、資本力と経営力のある第三者に託すことこそが経営者としての責任ある決断になり得ると説いた。

「当社がCMなどのイメージで使っているライオン社長は、孤独な強い存在を象徴しています。経営者の皆様が抱える孤独な悩みを、M&Aという手段を通じて解決し、次なる未来を創造していく。それが私たちの使命です」と話した。