再生可能エネルギーで作る水素を燃料に 地方の経済復活の突破口になる可能性も
(※本記事は『reasons to be cheerful』に2025年2月28日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

世界各地でグリーン水素の生産が拡大している。テキサス州バーノンのような、かつて石炭産業で栄えた町にとって、それは新たな希望となる可能性がある。
テキサス州とオクラホマ州の州境付近に位置する人口約1万1,000人の町、バーノン。その近郊にあるオクラユニオン発電所は、40年にわたりこの地域の風景の一部だった。発電所は石炭を燃焼させて電力を供給していたが、2020年9月に正式に閉鎖された。
カール・フリーング氏とその家族は、発電所の近くで数十年にわたり農業を営んできた。発電所が稼働していた頃、フリーング氏は午後になると空の色が変わるのを目にしていたという。「黄色がかった煙がゆっくりと漏れ出し、風向きによって流れる方向が変わるのがわかった」と彼は語る。
発電所が閉鎖された後、その施設は北テキサスの平原に取り残され、まるで幽霊のような存在となっていた。しかし2022年、この施設が再び活用される可能性が浮上した。国際的なガス・化学企業エア・プロダクツと、バージニア州の公益事業会社AESが提携し、約40億ドルを投じて発電所をグリーン水素の生産施設に転換する計画を発表した。この施設では、太陽光や風力といった再生可能エネルギーを活用し、水の電気分解によって水素を生成する。従来の石炭火力発電とは異なり、有害な化学物質を大気中に排出しない。

企業側の説明によると、このプロジェクトにより、ディーゼル燃料50億ガロン分に相当する二酸化炭素排出量の削減が見込まれている。また、建設期間中には最大2,000人の雇用が創出されるとされ、施設の稼働開始は2027年を予定している。この計画の発表を受け、テキサス州知事のグレッグ・アボット氏は「この施設は国内最大規模のものになる」と述べた。
この施設は、テキサスのような石油資源が豊富な州が、再生可能エネルギーの拡大に積極的に取り組んでいることを示す一例となっている。テキサス州は全米で年間の風力発電量が最も多く、太陽光発電量においてはカリフォルニア州に次ぐ規模を誇る。このような再生可能エネルギーへの投資の拡大は、バイデン前大統領の政権下で推進された政策の影響を受けている。例えば、2022年に議会が承認した超党派のインフレ抑制法により、約5,000億ドルが気候変動対策とクリーンエネルギー事業の支援に充てられた。
こうした再生可能エネルギーへの積極的な投資が行われている背景には、気候変動の進行がある。現在、地球の平均気温は産業革命前の水準より約1.1℃上昇しており、今後もさらに上昇が続くと見られている。この深刻な気候危機の影響を抑えるために、グリーン水素のような再生可能エネルギーが重要な役割を果たすと科学者たちは指摘している。
すでにその兆候は世界各国で現れており、中国、サウジアラビア、スウェーデンなどはグリーン水素生産の分野で世界をリードしている。国際エネルギー機関(IEA)の2023年の水素プロジェクトデータによると、これらの国々ではグリーン水素生産施設の最終的な計画や資金調達が進行中である。
一方、米国では、2029年までに少なくとも67件のグリーン水素プロジェクトが進められる予定だと、人材ソリューション企業エアスウィフト(Airswift)が発表したエネルギー転換に関する報告書で伝えられている。
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