アンドパッド 現場の支持を組織の成長力へ変える経営

人手不足など構造的課題を抱える建設業界で、DXを牽引するのがアンドパッドだ。業界特化SaaS「ANDPAD」で高いシェアを誇り、成長を続ける同社の強みはどこにあるのか。リクルート出身の創業者が、なぜ建設業界に挑んだのか。その進化する構想を支える独自の経営哲学と組織論を、稲田武夫社長に聞いた。

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稲田 武夫(アンドパッド 代表取締役社長)

 

原点は「顧客との対話」

業界未経験が生んだ突破口

アンドパッドの事業構想は、創業者である稲田武夫氏の前職、リクルートでの経験に端を発する。様々な業界の事業を検討する立場にあった同氏は、日本の産業構造を俯瞰する中で、ある事実に気づいた。巨大IT企業の主戦場がBtoC市場に集中する一方、BtoB、とりわけ伝統的な巨大産業には、テクノロジーが浸透していない「未開拓市場」が広がっていたのだ。

「ソフトウェアで社会に最大限貢献できる場所はどこか」。当時そう考えた時、市場規模が巨大でありながらDXが遅れている建設業界こそ、最大のチャンスがある領域だと稲田氏は見定めた。

 

しかし、業界の「外」にいたからこそ、取れる道は限られていた。「私自身が業界に特にかかわりがないところから事業を着想しているので、お客さんから教えてもらうしかないんですよね」。この徹底した顧客志向が、やがて確かな手応えに変わる。現場の声から生まれた「ANDPAD」が強い支持を得た時、それが同社の成長の原点となった。

 

なぜ選ばれ続けるのか
機能でなく「プラットフォーム」という価値

建設DX市場が活況を呈する今、なぜアンドパッドは選ばれ続けるのか。稲田氏は、その本質は個別の機能優位性ではなく、容易には模倣できない「プラットフォーム」としての価値にあると分析する。

「プラットフォームとは、参加した人が新しい情報や出会い、経験を得られ続けられる関係。もっと言えば、人と情報とお金が流通し続けている場だと思うんです」。

その価値を具体的に支えるのが、ユーザーコミュニティとネットワーク効果だ。同社はユーザー限定のメディアを運営し、成功事例だけでなく失敗事例も含む膨大な情報を提供。これにより「先進的な取り組みをしているANDPADユーザーから学びたい」という、ツール利用以上の価値を生んでいる。

また、年間10,000回以上実施するという手厚い操作説明会や、長年の利用実績によって蓄積されたネットワーク効果も強力だ。新たに導入する企業にとって、協力会社の職人がすでに「ANDPAD」の利用経験者であるケースが多く、導入や教育のコストが劇的に下がっている。これらが複合的に絡み合い、後発企業が追随しにくい強固な競争優位性を築いているのだ。

 

構想と組織は一体

急成長を支える「4フェーズ組織論」

優れた構想も、それを実行し進化させる組織がなければ意味をなさない。特に、同社のように短期間で従業員数が急増した企業では、「組織拡大のスピードに、人の成長が追いつかない」という壁に直面する。

この課題を乗り越えるために同社が構築したのが、独自の「4フェーズ組織論」だ。事業やプロダクトを、その成熟度に応じて「PMF(Product-Market Fit)フェーズ」「プリセールスフェーズ」... など4つのフェーズに分類。それぞれに最適な価値観、KPI、そしてリーダーシップを明確に定義している。

「会社が小さい頃は、役割関係なく何でもやる人材が活躍していましたが、規模が大きくなると、その人材が活躍できなくなることが起こります」。そうした成長の痛みを乗り越えるため、組織を構造化した。

 

稲田氏は「どこのフェーズにいるのかでリーダーに求めることが違う。それを明確に伝えないと、組織がうまくいかない」と語る。この仕組みこそが、構想の進化を支える組織的なエンジンとなっている。

 

人とAIで業界の未来を築く

進化を止めないための仕掛け

現在、アンドパッドの構想は、個社の業務効率化から、業界全体の構造的課題である「人手不足」の解消へと向かっている。現場監督一人当たりの生産性をいかにして高めるか。その解として、人とテクノロジーの新たな関係性を模索する。

例えば、BPO(業務代行)サービスは、単なるアウトソーシングではない。 「本質的には、我々がBPOでできることというのは、将来的にはAIでできることになっていくと思います」。 BPOを通じて業務を「型」化し、そのノウハウをAIに学習させる。これは、人間とAIが協働する「Human-in-the-loop」を前提とした、地に足のついたAI戦略である。

 

そして、こうした進化を止めないために最も重要視するのが人材だ。「新規の取り組み比率が非常に高いので、事業を作れるリーダーは、何をおいても必要になります」。若手に複数の事業フェーズをあえて経験させ、多角的な視点を持つ次世代リーダーの育成に注力する。

業界に深くコミットし、現場の声に耳を澄ませ、構想の進化に合わせて組織を進化させる。その根底には、創業以来変わらない「幸せを築く人を、幸せに」というミッションがある。アンドパッドの挑戦は、一つの企業の成長物語に留まらず、産業の未来をどう築くかという問いへの、一つの解を示している。

稲田 武夫(いなだ・たけお)氏
株式会社アンドパッド 代表取締役

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