川西水道機器×ダイキン工業 JICAの事業を活用した海外進出

川西水道機器とダイキン工業は、JICAの民間連携事業を活用してターゲットの国へビジネス展開をしている。自社だけでは難易度が高い現地の調査や支援事業をどのように活用したのか、JICAの担当者とともに詳細を語った。

川西 章弘 川西水道機器 代表取締役社長

今回のウェビナーのセッションでははじめに、水道などの管継手(くだつぎて)の国内トップシェアを持つ、川西水道機器 代表取締役社長 川西 章弘氏から事例紹介があった。川西水道機器は、香川県に本社を置く210名の継手の専門メーカーだ。継手とは水道のパイプとパイプを繋ぐ繋ぎ目のジョイント部分のことで、水道管から水が漏れ出る「漏水」を減らし、無駄なく水が活用できる重要な部材だ。香川県の工場で一貫したものづくり体制をとっており、現場でのメンテナンスのしやすさと品質の高さが強みだ。

後払い方式のビジネスモデル

川西水道機器が海外進出の検討を始めたのは2011年で、日本と部品の規格が同じであることから台湾に進出していた。そんななか、海外進出の展示会でアフリカの水道技術者からアフリカの漏水問題の話を聞き、JICAの四国センターに相談したところ、「中小企業・SDGs支援事業」に応募することになった。これに採択されたことで、支援のもとで海外展開を進めていった。

 

漏水の原因となる管継手部分(提供:川西水道機器

ビジネスの進出先として選んだのは、漏水の状況が特に悪いケニア。川西水道機器は、JICAの民間連携事業を活用し、ケニアで2019年に基礎調査、2021年からは案件化調査を行っている。基礎調査の結果、開発途上国においてはインフラを作ってもメンテナンスの体制が整っていないことが分かった。技術や部材の供給には大きなビジネスチャンスがある。また案件化調査の結果、ケニア市場で勝ち抜くためのビジネスモデルとして、補修事業で迅速に継手を用意するために、水道局の指定倉庫に材料を置いて、それを使った分だけ後払い方式にすること、また新設工事で採用されるために、現地のパイプメーカーと協業してセット販売していくことなどをまとめている。

「今回のJICAの調査で、途上国にただ支援するだけでなく、ビジネスとして継続することが両者にとっても良いとわかりました。また弊社のような地方の中小企業が海外展開を考える際、JICAのような機関の力を借りることは、時間とお金の両面で効果があると実感しました。というのも、インフラで使われる製品はまず実績が求められますが、JICAの民間連携事業を活用すればパイロットプロジェクトを立ち上げることができるためです。今後はそれをショーケースにして、さらにグローバルへの展開を検討しています」と川西氏は語った。

ルールメイキングへの挑戦

続いてダイキン工業の小山 師真氏、梁川 奈央氏より、ブラジルでの省エネエアコン普及ビジネスの事例について語られた。ダイキン工業は空調機器で世界160カ国以上に展開する総合空調メーカー。海外売上比率は77%で、グループ全従業員の8割は海外勤務というグローバル企業だ。

小山 師真
ダイキン工業CSR・地球環境センター課長

梁川 奈央
ダイキン工業

ブラジルには2012年に工場を立ち上げ、現地での生産・営業を行っていたが、ネックは省エネエアコンの市場ができていないことだった。現在、世界の住宅エアコン市場では、効率的な運転が可能なインバータ技術搭載のエアコンが主流になりつつあるが、ブラジルでは省エネ規制が古く、消費者が省エネ製品を区別することができないために、電力消費量が大きい、旧型エアコンが市場に大量に流通している。家庭での電力需要の増加に伴い、もともと大部分をクリーンな水力発電で賄っていたエネルギー産業が火力発電などにシフトしてきており、CO2排出量の増加で大きな社会課題となっていた。

そこでダイキン工業は、JICA事業を活用してブラジルでのルールメイキングに取り組み、国際規格に基づく空調機の省エネ性能評価法の導入と省エネ基準値の適正化に成功した。ルール形成のプロセスは、インドやメキシコなど他の国でも実践した経験から、相手国との信頼関係の構築、社会課題の共有、技術導入効果の定量化を経て規制に反映という流れで進めた。ブラジルのケースではJICAをはじめとした日本政府機関やブラジルの政府機関に加えて現地のNGOや大学も連携して、実機試験や効果測定を行った。

梁川氏は、ブラジル政府の担当者を日本に招聘し、日本の資源エネルギー庁との意見交換や、ダイキン工業の工場視察などを行ったことで、パートナーシップ強化が図れたと語る。視察の際には行く先々で予定時間を過ぎてもブラジル政府担当者からの質問が止まらず、規制改正にかける強い思いを感じることができたという。

小山氏は全体を振り返って、「弊社単独の取り組みでは基準改正は困難でしたが、JICAなどの政府機関がブラジル政府との対話や連携を図ったことが大きな推進力となりました。またブラジル政府にも、省エネ基準を変えたいという強い気持ちがあり、その気持ちに応えるべく、エビデンスや情報を提供し続けたことが最大の成功要因だったと思います。結果として、当初5年はかかると言われていた基準改正を3年間で達成することができました」と語った。

JICA 民間連携事業部 企業連携第一課の大井 明子氏は、「JICA民間連携事業の趣旨は、企業が現地でやりたいと思うことをJICAが黒子に徹して支援する、ということですが、そもそも海外に事業展開したことがない企業も対象としており、そういった挑戦をJICAとして応援してまいりたいと思います。更に川西水道機器様やダイキン工業様のように、現地課題分析を踏まえたビジネス提案内容が整理されていれば、JICAが有する現地政府や各種機関とのネットワークを活用して、橋渡しのお手伝いができるかもしれません。今回ご登壇いただいたようなものづくりの企業様だけではなく、教育や農業、物流など、開発途上国の人々の生活改善につながるようなビジネスチャンスをお探しの企業様は、JICAへぜひご相談いただければと思います」と語った。

大井 明子
JICA 民間連携事業部 企業連携第一課 企画役

 

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