今、製造業に求められる「知の探索」 新たな価値創造の方策とは

製造業は日本の経済を支えている一方、営業利益は減少傾向にある。不確実な環境変化の中、製造業が持続的な成長を遂げていくためには、「両利きの経営」の実践による新たな価値の創造が必要だ。

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製造業が直面する課題と
求められる企業変革力の強化

製造業はGDPの2割を占め日本の経済を支えている。一方で、不確実な環境変化によって、2018年以降、製造業の営業利益は減少傾向にあり、今年度も新型コロナウィルス感染拡大が人の行動を制限し、需要の激減、サプライチェーンの分断等、様々な課題が製造業に降り注いだ。世界で温暖化ガスの排出を実質ゼロにする動きも加速し、環境問題のみならず、社会課題に正面から向き合い、ESG経営によって利益を生み出すことが求められている。

経産省から発信された2020年の「ものづくり白書」は、この不確実な時代に取り組むべき戦略として、企業変革力に言及している。企業には、環境変化に対して、自らが常に変化し、柔軟に対応し続ける能力が必要なのだ。同時に「ものづくり白書」はDX推進の必要性も提起している。ここで大切なのは、DXは目的ではなく、手段だという捉え方だ。DXは現場の内部業務プロセスを革新する原動力となる一方で、モノからコト、サービス化のようにビジネスモデルを変革するチャンスをもたらす。

製造業における
「両利きの経営」の必要性

企業変革力を磨くには、「両利きの経営」(チャールズ・A・オライリー教授、マイケル・L・タッシュマン教授)の実践が必要だ。両利きとは、「知の深化」と「知の探索」を指す。日本の製造業は、「知の深化」すなわち、徹底的に深掘りし、磨き込んで、収益の向上を図ることを得意としており、効率を追求して価値創造を図ってきた。一方で、「知の深化」だけでは、中長期的なイノベーションは起きにくく、結果として成長が滞る事態に陥る。

「知の探索」とは、自社の認知の範囲外にある知を探索し、既存の知と組み合わせてイノベーションを起こし、新たな価値を創造することだ。この「知の深化」と「知の探索」のバランスが企業の持続的な成長を支えることに繋がる。

現場で「知の探索」を実行するには

現実的には、製造業の事業部門は短期的な結果を求められることから、不確実性が高く、経済的にも時間的にも負担を強いる「知の探索」の活動は、自然発生的には起こりにくい。

従業員も既存事業の深化の範囲でビジネスを捉えている傾向が強く、思考の範囲が絞りこまれた状態におかれている。企業内で「知の探索」を実践していくには、経営者が意図して場を作ることが求められる。

そして、この活動に参加する個々の従業員が潜在的に持っている「自立性」を開放し、自社のコアとなる価値を深く理解した上で「自己選択」と「主観」の自由を発揮することが、イノベーションの起点となり、新たな価値創造に結び付いていく。自社の認知の範囲外にある知を探索するという意味では、社外とのオープンイノベーションも効果的だ。

常態化する不確実な環境変化は、既存の延長線上に未来を描くことが困難であることを改めて認識させた。今こそ製造業各社が自ら主体性をもって変革し、新たな価値創造に取り組むことが必要だと思っている。

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小野 淳哉(おの・あつや)
事業構想大学院大学 事業構想研究所 副所長 教授