「逆転の発想」の先に革新あり メルセデス・ベンツ日本の経営術

起業家が事業を生み出す際、ベースとなる発想法の一つが「逆転」である。それは、「お手本」に倣いながらも「お手本」の教えを破り、その後に自らのビジネスモデルを確立するという、「守破離」にも通じる。

芸術家、村上隆は「すべてのアーティストは起業家だ」という。創造性のみならず、ビジネス感覚や戦略性も必要ということだ。我々の調査によれば、逆もまた真である可能性があることがわかった。すなわち、「すべての起業家もアーティスト」たりうるのだ。

もちろん、アーティストといっても創作するものは違う。アーティストが絵画を描くのに対し、起業家は事業をつくる。しかし、その発想や構想の仕方がアーティストと類似しているのだ。そのベースとなる発想法は「逆転」である。この発想法は、既存の体制を創造的に破壊するときに効果を発揮する。

アーティストのように、逆転の発想でビジネスモデルイノベーションを引き起こした人物がいる。メルセデス・ベンツ日本(MBJ)の日本人初の社長、上野金太郎氏だ。広報の話によれば、上野氏は動物的な感覚で、観察がすごく上手だそうだ。「対極だからいい」、「これまでにやったことないことをしよう」と発想して、早速実行に移す経営者である。

今回は、MBJのビジネスモデルイノベーションを、上野氏の発想法とともに紹介しよう。

井上達彦 早稲田大学商学学術院教授 / 早稲田大学産官学研究推進センターインキュベーション推進室長

メルセデス・ベンツの転機

メルセデス・ベンツといえば、どんなイメージを思い浮かべるだろうか?

「医師や弁護士など、成功した人やお金持ちのクルマ」、「成熟した大人のクルマで、若者には縁がない」......。

こんな声が聞こえてきそうだ。顧客層はじわじわと高齢化していったという。次世代人口は減っていき、メルセデスを選んでもらったとしても、販売台数は下がる。しかも、次世代はクルマ自体への興味が薄い。

「このままではまずい」。上野氏はそう感じていたそうだが、社内に共感してくれる人は少なかったという。販売台数も年間4~5万台で安定的に推移し、その時点まではビジネスもうまくいっていた。

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