宮城県南三陸町で社会的価値の創出へ ESCCAの事業戦略とは

(※本記事は経済産業省近畿経済産業局が運営する「公式Note」に2024年8月22日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

株式会社ESCCAの山内亮太さんの写真

株式会社ESCCAは、宮城県南三陸町を拠点にさまざまな事業を展開している。具体的には、地元の中小企業向けの実践型インターンシップ、創業支援、副業人材のマッチング、東日本大震災によって被災した土地の利活用のための調査といった多岐にわたる事業を行っている。

近畿経済産業局公式noteマガジン「KEY PERSON PROFILE」、シリーズ「地域と価値とビジネスを巡る探求と深化」第6回は、株式会社ESCCAの代表を務める山内亮太さんです。東北経済産業局とのコラボ企画です。

同社が担ういずれの事業も、地域の大きな課題である少子高齢化と人口流出を解決するために、魅力的な仕事を創出することで、若者がもう一度帰ってきたいと思えるような、多様な思いや価値が形になった地域をつくることを目指している。

社名は、E (Empowerment)、S (Sustainability)、C (Creativity)、C (Co-Working)、A (Action)の頭文字から取った。いずれも自身が大事にしている価値観で、これらを体現しながら事業を運営すすめていきたいと考える山内さんに、社会的な価値と利益とは何か、という問いを投げかけ、インタビューは始まった。

3.11をきっかけに社会起業家の世界へ

元々、大企業でマーケティングの世界に10年ほどいた。学生時代に自費出版をやったり、学生でも本気でやれば、社会人に負けないようなアウトプットが出せたという経験があった。いつかは自分でも起業しようと思っていたが、社会起業のことはほとんど知らなかった。

だが、自分の起業のために勉強しようと参加したNPO 法人ETIC.で、次々と成果を出す社会起業家たちの姿を見てその可能性に気づかされた。中でも岡山県西粟倉村のケースは大きかった。起業家が集積することで人口動態も変わる。そうした社会構造の変化にチャレンジしたいと思った。

そんな時に東日本大震災が起きた。

早速ボランティアとして宮城県南三陸町に入ったが、なかなか状況が立体的に見えてこない。もっと深く現地に入り込む必要性を感じた。それに、震災によって地域の過疎や人口流出の問題が顕在化したが、自分自身も長崎県の離島出身であり、その問題に加担している張本人でもあると気付いた。

活動を続ける中で課題が少しずつ見えてきたこともあり、この街が復興するまで粘り強くやりたいと、2012年に株式会社ESCCAを設立した。

人を通して、地域をつくる

事業を進めていく上で心がけているのは、人と人との間柄から生まれるコミュニケーションだ。自社が取り組む大学生のインターンシップ事業でも、まずは経営者としっかり話し込むことを大事にしている。経営課題は何なのか、経営状況や組織構造といった深い部分にも踏み込むこともある。

手応えを感じた価値創出の一つに「及善蒲鉾」で行ったインターンシップの事例がある。具体的な活動としては仙台でインバウンドで訪れている外国人向けにリサーチを行い、商品ニーズを突き止めることを行った。

リサーチの結果、最終的にはホタテの形をしたパッケージを作り、空港に置いてもらったら大ヒットした。大学生の力で企業の経営課題に対して、ここまでの実践的なアウトプットを出してくれたのは嬉しかった。

加工の作業をしている様子

社会的価値の感覚は人によって異なる。だから、行政と仕事をしているというより、キーマンと仕事をしているという感覚の方が強い。だからこそ、人が変わってもしっかりと引き継ぎができるような仕組みが欲しいと感じる。

価値観の相違を乗り越えることは時に困難だが、例えば、中越の復興現場を一緒に行政の方と視察した時のように、同じ時間や風景を共有する中で信頼を形成することも、(引き継ぎの在り方として)示唆の一つではないだろうか。

南三陸町の新たな社会的価値に向けて

社会的価値は一朝一夕に生まれるものではないと思う。

まずは、給料を支払い、事業費を確保するという金銭的な利益、そして地域で活動するモチベーションという精神的な利益の両方の積み重ねの上で、少しずつ持続可能な社会の実現に近づいていくものではないだろうか。

最近は、高校生向けのインターン事業も始めたが、ほぼ赤字の状況。しかし、人材の環流という社会的価値の観点として、高校生が地元のことをよく知り、数年後に帰ってこれるつながりを作ることは重要だと考え、一歩を踏み出した。これも、他の事業で利益を確保しているからこそチャレンジできたことだ。

話をしている山内氏の様子

印象的だったのは、たまたま創業支援事業にエントリーしてきた方が南三陸の出身で、「こんなにいい会社が地元にあったんだ」と、町内をフィールドワークして感動していたこと。確かに、自分だって長崎の離島の会社のことはよく知らない。そこにはやはり構造的な問題があるとハッとした。

最近は、地域で新しい価値を広げていくためには、自分たちが支援者側だけではなくて、事業者側にも回る必要があると感じている。理想は、この町にもっと起業家が増えて、まだ見ぬ社会的価値が生まれていくこと。

新しいものが生まれることによって、それをやっている人の人生が変わったと思える瞬間が、一番うれしい。

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