企業間決済のDX化が企業の生産性向上を加速 1000兆円超の未開拓市場の行方は?
(※本記事はNTTデータ経営研究所ウェブサイト内の「経営研レポート」に2024年8月7日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)
はじめに
企業(自治体などを含む)間決済(BtoB決済、BtoG決済)は1,000兆円を超える巨大市場であるにも関わらず、多くの企業や自治体にはいまだに紙の請求書・納付書を用いた非効率な支払い業務が残存している。しかし、インボイス制度開始や改正電子帳簿保存法への対応を契機として支払い業務のDX化が進み、わが国企業の生産性向上を加速させる絶好の機会が訪れている。
本稿では、企業間決済市場の現状やDX化促進に向け課題となるボトルネック、市場を巡って繰り広げられている陣取り合戦の様相、今後予測される展開について解説する。
1. 1,000兆円を超える巨大な未開拓市場
近年よく耳にする「決済」の話題と言えば、個人や家計が購入主体となるキャッシュレス決済に関するものがほとんどではないだろうか。わが国では、キャッシュレス決済比率を2025年までに4割程度にするという政府目標を掲げ、各種取り組みを進めている。このキャッシュレス決済比率を算出するうえでの母数となるのは、家計による消費財への支払いを意味する「民間最終消費支出」であり、2023年には約322兆円の規模となっている。これに対し、企業や自治体など公共団体間での決済が、少なくとも1,000兆円を超える規模になることはあまり語られていない。
この巨大な市場規模を持つ企業間決済であるが、いまだにその相当数は郵送やFAXで送られた請求書を基にやりとりされているのが現状だ(図表1)。
【図表1】請求書などの伝達方法
請求書が郵送やFAXでやりとりされる場合、件数が多くなればその分企業や自治体における支払い業務の負荷は高くなり、また、紛失などによる未払いや支払い遅延のリスクも大きくなる。さらに近年では、インボイス制度の開始に伴う適格請求書要件の確認や改正電子帳簿保存法の施行に伴う紙と電子の請求書の保管など支払い業務が煩雑化し、対応に悩まされている担当者は多いはずだ。
かねてからわが国では労働生産性の低さが問題視されている。国際競争力の強化に向けて、支払い業務のDX化による生産性向上はわが国として喫緊の課題であるといえる。
2. DXの文脈で見る支払業務変革の方向性
DXの最終目的が、生産性の向上やそれに伴う競争力の強化であるとの認識に大きな異論はないであろう。しかし、そもそもDXとは何か改めて整理してみる。経済産業省が公表している『DXレポート2 中間とりまとめ』によれば、DXは“デジタイゼーション”、“デジタライゼーション”、“デジタルトランスフォーメーション”という3段階に分解することができるという(図表2)。3段階目の“デジタルトランスフォーメーション”は、狭義にはビジネスモデルの変革を示すこともあるが、広義には大幅な業務効率化・生産性向上をもたらすE2E(End-to-End、取引先含む業務全体)のデジタル化も“デジタルトランスフォーメーション”と捉えることができよう。
【図表2】DXの構造
昨今では、紙の請求書を介する支払い業務を変革するための各種手段やソリューションが提供されている。筆者はこれらについてもDXの3段階の観点から分類することができると考えている(図表3)。ここでは、高度な技術が使われているか否かではなく、デジタル化の領域が一部なのか、業務全体がデジタル化される(されうる)ものなのかという視点で分類している。
【図表3】DX3分類ごとの支払い手段・ソリューション例
分類 | 内容 | 支払い手段・ソリューション例 |
デジタルトランスフォーメーション | E2E(End-to-End、業務全体)のデジタル化による大幅な業務効率化・生産性向上をもたらすもの |
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デジタライゼージョン | 支払い業務自体を一部自動化するサービス(紙の請求書への対応も想定したもの) |
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デジタイゼーション | 紙の請求書など、アナログ情報のデジタル化ができるサービス |
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