林野庁、スマート林業と木質系新素材の2つの実装ビジョンを公表

林野庁は2026年3月30日、「スマート林業技術の現場実装ビジョン」と「木質系新素材の社会実装ビジョン」を策定・公表した。2019年策定の「林業イノベーション現場実装推進プログラム」を発展的に再編したもの。機械・デジタル技術による現場改革と、木質資源の高付加価値化という2軸で林業の構造転換を進める。

スマート林業技術ビジョンが最優先課題に据えるのは労働安全の確保だ。林業の死傷年千人率は全産業平均の約10倍に達し、年間30件程度の死亡災害が発生している。なかでも死亡災害の約6割はチェーンソーによる「伐倒」作業で起きており、ビジョンでは全ての傾斜区分でチェーンソー伐倒をより安全な技術へ転換する方針を明示した。対策の中心は、遠隔操作や自動運転が可能な林業機械の導入だ。危険源と作業者を物理的に隔離することで、伐倒・集材作業の安全を根本から確保する。

労働生産性の面では、現行の「5工程・5名」体制からより少ない工程・人数での運用が可能なシステム構築を目指す。木材の収穫作業にあたる主伐の労働生産性は1990年頃から約4倍に向上したものの、直近10年は伸びが鈍化していた。新ビジョンでは、林内走行技術や自動運転技術を活用した工程統合により、現状7立方メートル/人・日のところ、緩傾斜で20〜40立方メートル/人・日、中傾斜・急傾斜で15〜25立方メートル/人・日の実現を掲げる。普及目標としては、2030年までに必要な機械の開発・実用化と作業システムの確立を行い、2035年には全傾斜区分で木材生産量のおおむね25%への普及を目指すとした。

造林分野では、多くの作業が依然として人力に頼っている現状を踏まえ、「作業の省略」を最も優先すべき対策と位置付けた。AIセンサーカメラによるシカ食害リスクの把握や、空撮による下刈り要否の自動判定といったスマート技術で不要な作業をなくし、残る作業を機械化・自動化する考え方だ。

あわせて、伐採・搬出から植栽・下刈りまでの一連の工程を、機械利用を前提とした施業方法に転換することの重要性を強調。低密度植栽や縦植え、筋刈りなどを組み合わせ、部分最適ではなく全体最適を実現する姿を描いた。

また、デジタル技術も積極的に活用する。リモートセンシングやAIによる森林情報の把握、ICTハーベスタや日報アプリを活用した生産管理、需給マッチングの高度化など、サプライチェーン全体の効率化を推進する。ビジョンでは、電話・FAX・紙伝票に依存する旧来の商慣習からの脱却を求め、地域の関係者が連携してデータ活用と業務手順の見直しを進める「林業DX」の重要性を訴えた。

 木質系新素材で「バイオマス化学産業」を創出

もう1つのビジョン「木質系新素材の社会実装ビジョン」は、建築用材に利用できない低質材や端材、樹皮などの木質資源を高付加価値の素材に変える道筋を示すものだ。

木質系新素材の開発は3つのアプローチに整理される。第1は木材成分を分離して利用する方法で、スギ材由来の「改質リグニン」の大規模製造技術実証やセルロースナノファイバー(CNF)を用いた木材保護塗料の製品化などで、すでに成果が出始めている。第2は木質資源を直接ガス化して基礎化学品を製造する方法で、持続可能な航空燃料(SAF)の製造手法としても注目される。第3は樹皮由来のテルペン類などを原料にプラスチックや医薬品を製造する方法であり、少量ながら高付加価値の地域産業を生み出す可能性を秘めている。

ビジョンが描く将来像は、「建築用材サイクル」「バイオマス素材サイクル」「森林サイクル」の3つの循環が適切に機能する社会だ。木質資源を建築用材として長期利用し、リサイクルを経て最終的にエネルギー利用するサイクルに加え、低質材を新素材に変換して長期利用するサイクルを構築。これにより林業収支を改善し、「伐って、使って、植えて、育てる」森林資源の循環利用を実現させる。

開発の方向性としては、スギ以外の樹種への対応拡大や副産物の高付加価値利用、ライフサイクル全体でのエネルギー・コスト削減を志向するプロセス設計を重視。経済産業省や環境省など関係省庁と連携し、産学官の協働で社会実装を進めるとしている。