インパクト投資のエコシステム構築へ SIIFが目指すものとは

(※本記事は経済産業省近畿経済産業局が運営する「公式Note」に2024年10月17日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

一般財団法人社会変革推進財団の加藤有也氏

SIIF(一般財団法人社会変革推進財団)は、公益財団法人日本財団の助成により2017年に設立された、日本におけるインパクト投資のエコシステム構築を目指して活動する一般財団法人です。

近畿経済産業局公式noteマガジン「KEY PERSON PROFILE」、シリーズ「地域と価値とビジネスを巡る探求と深化」第14回は特別編として、SIIF(一般財団法人社会変革推進財団)の事業部でインパクト・オフィサーを務める加藤有也さんです。本シリーズの最終回です。

取材日(場所):2024年2月(於:ロフトワーク京都オフィス(京都府京都市))

「多様なパートナーと連携しながらインパクト投資という手法を普及させ、資金の量を増やすだけでなく、その手法を通じて実際に社会変革(システムチェンジ)を誘発する取り組みを進めたいと考えている。」

それは、加藤さん自身が、かねてより困難な状況にある人とそこから抜け出せた人の差を生みだす要因として、日本に蔓延する自己責任論、すなわち「本人の努力」如何だけでなく、一人ひとりを取り巻く社会・経済の側に、その要因があるのではないかというモヤモヤを抱えていたからだ。

「インパクト投資の仕事は、この違和感を解消しうる可能性があるのではないか」と感じている加藤さんに、インパクト投資の特徴や本質的な意味についてお話を伺った。

社会的価値もリターンと見なすことがインパクト投資の特徴

── 他の金銭的支援と比較したときに、インパクト投資の最大の特徴はどこにあるのか

「お金に換算できないものも含めて、社会にどんな価値を生むか」も投資の判断基準になる点だ。裏を返せば「金銭的利益が出そうでも、社会的価値を生まないならば投資しない」という、一般的な投資とは異なる判断をする必要がある。投資家としての行動原理にインパクト志向を取り込むことが重要だ。

── SIIFがインパクト投資に運用するお金はどのように集まるのか

「集まる」よりは「集める」だ。その上で資金を集める際は、投資家や寄付者が求める社会的・財務的リターンのバランスや水準とファンドなどお金を預かる側の運用方針がフィットするようにし、リターンへの期待値を揃えることが重要になる。

これまでは、インパクト投資に興味のあるアセットオーナー(機関投資家)が、LP投資家(有限責任組合員)になることで知識を深めるという例が多かった。しかし、近年は徐々に、アセットオーナー(機関投資家)がファンドなどに対しインパクト志向を求めるような事例も生まれつつある。

── 「望ましいインパクト」はどのように規定するのか

さまざまな社会・環境課題がある中で、特に、そのどれが解決されることを「望ましいインパクト」と見なすかは、アセットオーナーやファンド運営者など投資をする側の価値観次第で決まる。

加藤氏と集まった面々
集まった関西の5名のキーパーソンとともに、インパクト投資の考え方を共に学んだ

インパクト投資によって、世の中のお金の配分が変わる

── インパクト投資の希望や課題は何か

日本でインパクト投資が可能なこと自体が希望だ。
日本のインパクト投資のマーケット規模は、2021年に1兆3,204億円、2022年に5兆8,480億円と急成長しており、アセットクラス(投資対象の資産)も多様化している。

インパクト投資のマーケット規模のグラフ
一般財団法人社会変革推進財団(SIIF)発行/GSG国内諮問委員会監督(2016-2023), 日本におけるインパクト投資の現状と課題報告書 をもとに当局作成

また、「インパクト志向金融宣言」や「J-Startup Impact」など、金融機関や官庁でもインパクト志向を推進する動きが生まれつつある。 

あくまでインパクトを生む主体は企業だが、インパクト投資が注目されることで、社会課題を解決する企業にこそお金が集まりやすくなればと考えている。我々はインパクトの定量化や可視化、データで語るという形で企業に価値を提供できそうだ。

一方、成長のブーム的な側面が生じる課題として、インパクト投資を掲げながらも実際は Intentionality(志向性)を持たず、企業に働きかけないなどの「インパクトウォッシュ(※)」の発生リスクが挙げられる。投資が本当にインパクトを生むのか、厳しく問われるようになるだろう。

インパクトウォッシュ

ポジティブインパクトを与え、ネガティブインパクトを緩和・管理すると主張・標榜しながらも、実際はポジティブインパクトがない、又は不正に水増しされていた、ネガティブインパクトが適切に緩和・管理されていなかったなど、その実態が伴わないことを指す。

ゴールや解決ルートの発見を待つのではなく、仮説に合意し共に進むことが重要

── 社会課題の解決に向けて社外のパートナーと協働する「システムチェンジコレクティブ」というプロジェクトの狙いと、今後の展望については、どのように考えているか

「システムチェンジコレクティブ(※)」を通じて、事例をもって「インパクト投資を核とした取り組みは、インパクトを生むことができる」ことを証明したいと考えている。また、インパクト投資家が社会に対して持つべき機能を具体的に示したい。いずれは投資を決める際に必要な学術的なエビデンスまでSIIFが提供できることを目指したい。

システムチェンジ(system change)

「システムチェンジ」とは「複雑な課題を表層的ではなく根本的に解決する取り組み」こと。Catalyst 2030によると、システムチェンジとは、(1)多様なアクターが協働し、(2)症状ではなく根本原因に取り組むことによって、(3)マインドセット、目標、構造、ルール、情報の流れ、パワー・ダイナミクスを(4)変化・転換・または根底から変革することを通じ、(5)地域レベル、国家レベル、またはグローバルレベルで、(6)社会・環境課題の永続的な(lasting)改善を達成すること、と定義。 (SIIFが捉える、システムチェンジ投資の資料はこちら

社会システムが変わるには数十年の時間がかかるかもしれないが、その改善のための全体像が見えるのを待っていては何も変化を起こせない。
まずは、自分たちなりの地図を作ってアクションを起こし、システムから返ってくる反応を見る、そして、再度やり方を見直して前に進みながら、レバレッジポイントがわかったらリソースを投下する、というボトムアップのアクションを起こすことは今からでもできる。

重要なのは正しいゴールを見つけようとすることより、「インパクトについての仮説を共有して、共に進もう」と合意し、悩みながらも学び合うことではないだろうか。

加藤氏が話している様子
今後は数年かけて「社会変革が起こせると期待できる兆し(初期成果)とは何か」を世に出せたらと考えている加藤さん。共に学んだキーパーソンの方が取り組むひとつひとつの「兆し」にとても興味をもっていただいた。

元記事へのリンクはこちら

近畿経済産業局 公式note