メタバース・ブロックチェーン・NFTなどデジタル技術は何をもたらすのか?

(※本記事は経済産業省が運営するウェブメディア「METI Journal オンライン」に2024年7月24日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

インターネットの世界は進化を続けている。

ユーザーはテキストベースの情報を閲覧するだけだった「Web1」。YouTubeやTwitter(現X)、Facebookなどのプラットフォームを通じて誰でも情報発信が可能となった「Web2」。そして今、巨大プラットフォームに依存しない次世代の分散型インターネット「Web3」の時代に突入しようとしている。

ブロックチェーン、NFT、XRといったWeb3時代の中心となるデジタル技術は、コンテンツ産業、そして社会全体にどのようなインパクトを与えるのか――。KDDI 事業創造本部 Web3推進部 エキスパートの川本大功さんに、その可能性について聞いた。

コロナ禍を機に「バーチャル渋谷」を開発。新たなサービスを模索

話す川本大功(かわもと・はるく)氏
川本大功(かわもと・はるく) 慶應義塾大学卒業後 、博報堂、デジタルハリウッドを経て、2018年にKDDIに入社。5G関連のサービス開発や国内外ベンチャー企業への出資や協業に携わる。慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任講師。2022年~2023年度には経済産業省大臣官房付臨時専門アドバイザーを兼任した

――川本さんがこれまでに取り組んできたこと、今取り組んでいることは。

2018年にKDDIに中途入社して、当時スタート前の5Gを見据え、新規サービス開発を担当していました。その一環で、渋谷を訪れる人を対象にした実験的なプロジェクトを進めていましたが、2020年のコロナ禍で、実証実験やイベントはできなくなってしまいました。当時ステイホームの中でスクランブル交差点に誰もいない様子が、テレビなどの報道でよく映し出されていたと思います。

ステイホームで外出ができないならば、自宅からインターネットを通じて渋谷にバーチャルに出かけられるようにしようと、「バーチャル渋谷」の企画と開発を主導しました。これが想像以上に注目を集めたことで、自然と「メタバース」の事業開発を担当するようになりました。

合わせて、「ブロックチェーン」や「NFT」についても、デジタルコンテンツと相性がいいのではということが言われ始めました。そこでメタバースに加え、ブロックチェーンを活用したWeb3系のサービスも含め、誰もが利用しやすいサービスを目指した結果として、今、取り組んでいるのが「αU(アルファユー)」というサービスです。これは、メタバースやWeb3領域のサービスブランドです。αUというブランドの傘の中に、メタバースのプラットフォームである「αU metaverse」や、NFTの販売をする「αU market」、NFTなどのトークンを保有する際に必要なデジタルウォレット「αU wallet」などのサービスを提供しています。

※メタバース…ユーザーがインターネットを通じてアクセスできる3D仮想空間サービス及びそのプラットフォーム。ユーザーはアバターと呼ばれる分身を操作し、経済活動を含むさまざまな活動をおこなうことができる。
※ブロックチェーン…ネットワーク上で暗号技術を用いて取引の記録を分散的に処理・記録するデータベースの一種。ビットコインなどの暗号資産やNFTはこの技術を使ったもの。
※NFT …Non Fungible Token(非代替性トークン)。ブロックチェーン上に記録される代替不可能な唯一のデータ。

バーチャル空間に再現された渋谷
バーチャルな空間に再現された渋谷の街

ブロックチェーンは「家計簿」、NFTは「レシート」

――Web3の柱となっているブロックチェーン、NFTとは、そもそもどのような技術なのでしょう。

ブロックチェーンは、「分散型台帳技術」とも言ったりします。簡単に言うと、みんなで書き込めるけど、改ざんはできない「家計簿」みたいなものです。同じ内容の家計簿をみんなが持っていて、それぞれの支払いのメモやレシートを、一定の量で封筒にひとまとめに入れて、封筒ごと家計簿に張り付けることができます。この封筒が「ブロック」にあたります。

封筒に入れたメモやレシートを勝手に書き換えることはできません。もし誰かが過去の封筒の中身を書き換えると、他の人たちの家計簿と内容が合わなくなるので、すぐにわかります。このように相互にデータを持ち合うことで、書き込まれた内容が改ざんされていないと検証できるようになっています。

NFTは、封筒の中に入れられた「レシート」みたいなものです。特徴は1枚1枚のレシートが別のものとして識別できるということです。同じ商品を買っても、支払った日時や店舗、レジが違うと別のレシートになるように、NFTはそれぞれ唯一無二のものになります。

コンテンツ領域で言えば、NFT化すればそのコンテンツの価値が上がるというものではありません。あくまでもNFTは、そのデジタルコンテンツを保有したり、体験したりした人だと証明する記録であって、デジタルコンテンツそのものではありません。

デジタル証明書、マーケティング…。試行錯誤のNFT活用

――具体的にはどのような使い道があるのでしょうか。

世界中で試行錯誤している段階だと思います。「NFTと言えばこういう使い方だよね」と一概に言えないところがみそです。逆に今の段階では、可能性を限定させない方がいいと思っています。

単純にコンテンツへのアクセス権だけだとしたら、ブロックチェーンを使わなくても管理することができます。ただ、NFTを使うことで実現できる可能性があることの1つに、発行済みのNFTに別の利用価値を追加するというものがあり、注目しています。

例えば、僕は2月に東京ドームで行われたお笑いコンビ「オードリー」のラジオイベントに参加しました。このときのチケットは、あくまでも会場への入場に必要なものですが、もしチケットがNFT化されていたら、チケットを保有している人に対してライブ会場周辺の店舗が何かサービスを提供したり、関連イベントやグッズ購入時のクーポンとして使えるようにしたりと、チケットの利用用途をデジタルで拡張することができます。

個人情報を取得しなくても、NFTを保有しているかどうかで個人を識別することができるという特性から、プライバシーを守りながらマーケティング領域での活用を模索する取り組みも始まっています。

この他、身分証明書としても、NFTやブロックチェーンの技術が注目されています。コンビニでお酒などを購入する際、身分証を提示することがあると思います。その際、必要なのは「成人している」という情報だけで、名前や住所まで明らかにする必要は本来ないはずです。もし政府や自治などが発行した「生年月日」が記録されたNFTを保有していたら、レジがそのNFTを検証して成人かどうか判断することも可能になります。

ただ、こういった取り組みは試行錯誤が始まったばかりです。

アクセス権と著作権を混同。一部に根強い誤解も

――NFTの活用・普及にはどんな課題があるのでしょうか。

よくある誤解として、デジタルコンテンツのNFTを購入することと、著作権の利用許諾を受けることを混合してしまうということがあります。映画のチケットを買ったからと言って、映画を録画・録音したり、勝手に内容を再編集してインターネットで公開していいわけではありません。それと同じでデジタルコンテンツのNFTを保有しているからといって、権利者から許諾されていない方法で、デジタルコンテンツを利用することはできないのです。他にもNFTは投機的な商品であるとか、NFT化することで贋作が生まれないとか、さまざまな誤解を解く必要があります。

もう一つは、インターネットやスマートフォンを、多くの人が技術的はことが分からなくても自然と利用できているように、ブロックチェーンやNFTに関してもしていく必要があります。私たちが、αUをつくった背景には、できるだけ今までのインターネットサービスの延長線上で、幅広いお客様にWeb3の世界を体験いただきたい、という思いがありました。

川本さんたちが中心となってKDDIが進める新サービス「αU」
川本さんたちが中心となってKDDIが進める新サービス「αU」

教育・研修など活用進むXR技術。実証実験も進む

――XRの技術はどのような分野で利用されているのでしょうか。

XRの一つVR(仮想現実)はゲームに使われているのはもちろん、教育・研修などでも使われています。

少し古い事例ですが、米国の小売店が「ブラックマンデー」で、多くのお客さんが店舗を訪れることを想定して、混雑状況をVRコンテンツとして作成し、従業員のトレーニングに使った例があります。ほかにも様々な企業で、従業員の研修に活用している事例があります。

AR(拡張現実)またはMR(複合現実)については、現実空間にデジタル情報を重ねることができます。

ドローンを物流分野で活用しようという動きがありますが、歩いている人からすると、頭上をドローンが飛んでいると、不安に思うこともあるでしょう。例えば、ARでドローンが飛ぶルートを「空の道」として可視化したり、歩道の上を通過する場合には仮想の信号機で歩行者に注意情報を映し出したりすることが可能になります。これはつくば市で実証実験も行いました。

ただ、課題はデバイスです。スマートフォンをかざして「ながら歩き」するような状況になると、これも問題です。気軽に身に着けて外出できるような、ARグラスなどが普及しないと、街中で日常的に使うのは難しいのではないでしょうか。

※XR…AR(拡張現実)、VR(仮想現実)、MR(複合現実)といった技術の総称。

クリエイター側には「苦手意識」も。使いこなすためのツール重要

――新しい技術の登場でコンテンツ制作現場はどう変わるのでしょう。

XRなどの技術で、メディアが新しくなる、表現手法が新しくなると、コンテンツのつくり方やアウトプットが変わってくると思います。XRのコンテンツを作って、流通させるのは本当に大変です。クリエイターにも新しい技術を学んで、コンテンツの作成にチャレンジしていただく必要があります。私はクリエイターを対象に講義する時には、「技術に苦手意識を持たないでください」といつも話しています。

XRを活用したコンテンツの制作プラットフォームやビューアーのアプリをつくっているスタートアップも出てきて、技術的なことは分からなくても、自分の表現したいものをつくって、ユーザーに提供できるツールは増えています。

クリエイターにとっては、自分の表現したいことを形にすることが一番重要で、技術の詳細を知っている必要はありません。コンテンツを体験する人も同じです。インターネットを使う時、誰も技術的なことは気にしていないように、XRもそうなっていかないといけない。媒介となる私たちのような事業者は、そこを意識して様々なサービスや情報を提供していく必要があると思っています。

ブロックチェーンやNFTは、表現手法の話とは少し異なります。普及していくためには、ビジネスや提供するサービスの中でどのよう活用していけるかを、試行錯誤していくことが重要です。

話す川本氏
「官民が連携を密にしながら議論し、行動を起こしていくことが重要」と語る川本さん

利便性、利用者保護のバランス模索。官民の議論大切

――制度、法制面ではどのような議論が行われていますか。

ブロックチェーンやNFTということで言えば、権利者保護の在り方について議論続いており、その中でNFTの位置づけなども課題になっています。NFTについては、「無許諾NFT」の問題があります。分散型で自由な反面、明確な責任者がいない中で、今の社会構造や制度にどう対応させていくかを議論しています。

メタバースについては、「新しいSNSの形」といった言われ方もしていて、コミュニケーションツールという側面から、プラットフォーム規制、利用者保護といったポイントが話し合われています。インターネットを通じてグローバルに発展していくので、標準化、法的整合性など幅広く議論はされています。

日本の企業はきちんとルールを守りたがる。もちろんルールを守ることが大前提ですが、ルールの整備が完了するまで何もしないと積極的に行動する海外企業にいつの間にか市場を独占されてしまうこともあり得ます。事業者ができるだけ自由に挑戦できる環境と利用者保護とのバランスをとっていく必要があります。

そういった市場環境を実現していくためには、官民が連携を密にしながら議論し、行動を起こしていくことが重要です。

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