国内No.1ボイラメーカーの秘密はボトムアップ型の研究開発組織 大阪市・ヒラカワの人材育成

(※本記事は経済産業省近畿経済産業局が運営する「公式Note」に2024年12月5日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

株式会社ヒラカワは1912年に創業し、「資源のない日本の発展に貢献したい」との創業者の熱い想いから、ボイラの製造を開始しました。

ボイラは、普段目にすることは多くはありませんが、工場の稼働に必要な蒸気や人々の暮らしに欠かせないお湯といった熱を供給する機械として、日常生活や産業活動に無くてはならない存在です。

同社は、創業から100年以上の歴史をもつボイラの専業メーカーとして、お客様の多種多様なニーズに対応した製品開発やサービス提供で日本経済の発展に貢献してきました。

日本初となる炉筒煙管ボイラの自社ブランドである「MP100型シリーズ」を開発し、2024年4月には環境に配慮した水素混焼ボイラ「HydroMixシリーズ」をリリースするなど、今もなお、ボイラの新たな可能性に挑戦を続けています。

株式会社ヒラカワ 大阪本社
株式会社ヒラカワ 大阪本社

ボトムアップの研究開発

ヒラカワではSDGsやGX(※)など、時代の変化に合わせながら研究開発を行っていますが、その多くが社員からのボトムアップのプロジェクトになっております。

これらボトムアップのプロジェクトは「お客様の声を第一に考え、積極的に挑戦を続けてきた会社の姿勢」と「失敗を責めずに歓迎する会社の雰囲気」から生まれています。

(※)GX
・・・グリーントランスフォーメーションの略。化石燃料をできるだけ使わず、クリーンなエネルギーを活用していくための変革やその実現に向けた活動のこと。 ー 経済産業省「METI Journal」

もともと同社はタンク類といった製缶業から始まりましたが、創業者は製缶技術の頂点であるボイラ製作に強い関心を持っていました。

ある時、取引先でボイラ2缶の発注があると知り、未経験ながらも粘り強く頼み込み、ついに受注を獲得。
これを機に、ボイラ(※)製造を本格的に開始しました。

(※)ボイラ(ボイラー)
・・・水(液体)に熱を加え、温水、蒸気を作る機械。温水を作るものを温水ボイラー、蒸気を作るものを蒸気ボイラーという。 ー 一般社団法人 日本ボイラ協会

2024年4月に代表取締役社長に就任した平川亮一さんは次のように語ります。

「商品開発のベースにはお客様の要望がある。だから一度製品化したからにはラインナップから製品を落とすことはない。今はニーズが少なくても、いつかその製品をお客様が求めてくるかもしれない。そうすることで困った時にはヒラカワに相談しようと思ってもらえるようになる。」

この姿勢がお客様から支持され、お客様の生の声が現場の社員に届き、そこから新しいアイデアが生まれています。
そのアイデアボトムアップの形で新製品の開発へと繋がっています。

大学と水素混焼ボイラを共同研究開発、人材面でも連携

ヒラカワではこうしたボトムアップの自社単独での開発の他、大学との共同研究開発も進めており、経済産業省の「戦略的基盤技術高度化支援事業」(以下、サポイン事業。2022年度より「成長型中小企業等研究開発支援事業(Go-Tech事業)」※へ名称変更)に2度、採択されています。

(※)成長型中小企業等研究開発支援事業(Go-Tech事業)
・・・中小企業が大学・公設試験研究機関等の研究機関等と連携して行う。研究開発、試作品開発及び販路開拓への取組を最大3年間支援する事業。 ー 中小企業庁:Go-Techナビ

サポイン事業では、燃焼時にCO₂を排出しない水素と、都市ガスを組み合わせて燃料に使用する「水素混焼ボイラ」を研究開発しました。

研究開発から事業化まで5~10年はかかると言われる世界ですが、5年足らずで「HydroMixシリーズ」を発売しました。

HydroMixシリーズ
HydroMixシリーズ

これまで水素のみを燃料とするボイラは存在していたものの、水素の発熱量はガスに比べて3分の1程度で、単価も高く、その上供給は不安定なものでした。

そこで、安定供給が可能な都市ガスとの混焼方式を採用し、水素燃料の高騰や供給がストップするような万一の災害時には都市ガスのみの燃焼にも対応することで、安定した熱の供給を可能にしました。

その研究開発が評価され、東京都のグリーン水素を活用した事業に参画しています。今後もGXの社会実装に向けて適用範囲を増やすべく研究開発を続けていきます。

「サポイン事業では綿密な研究計画や事業化計画が求められ、公募申請準備や事業期間中には書類作成作業も多くありましたが、技術者自身が研究開発のみならずマーケットについても考えるきっかけになったのは非常に良い経験になった。また、共同研究した大学教授が社員向けに講演をするほか、同大学の学生が実習として当社の研究所を使用するなど関係性が継続しており、エコシステム(一過性の取組にとどまらず、組織の枠を超えた研究開発や人材育成を続けるしくみ)が形成された。」と平川さんは語ってくれました。

誰でも働きやすく、チャレンジングな組織風土

現在ヒラカワでは、新卒採用とキャリア採用の両方を行っています。

しかしボイラ製造というニッチな業界のためか、認知度は低く、経験者はおろか、理系の学生の応募も多くはありません。
そのため、経験を問わずに採用を行っており、社員の中には、元ミュージシャンや元警察官も活躍しています。

また、今年からは総合職初の外国人採用も始めました。

採用したのはベトナム人の男性3名で2024年9月から働いています。

彼らは、もともと日本が好きで、幼い頃から日本製品に囲まれて育ってきたことで、日本のものづくりや技術に興味をもち、日系企業で就職を希望するようになりました。

ベトナム大理系人材と日系企業のマッチングイベントに参加したところ、出展していた同社のものづくりへの姿勢に魅力を感じ、就職を決めました。

同社では以前から日本に留学していたベトナム人の男性を雇っており、その彼が良い相談役になってくれていることもあり、職場にもすぐに馴染むことができ、他の社員ともすぐに打ち解けました。

加えて、製造業は男性が中心の職場であるというイメージを持たれている方も多いと思いますが、地元を離れずに手に職をつけることができるよう、エリア採用を新設するなど、同社では女性でも働きやすい環境が整っています。

そのため、業界内では他社よりも早く女性営業職が誕生しました。

育児休暇制度もあり、これは女性社員だけではなく、男性社員の利用も積極的で、1~2ヶ月取得している男性社員もいます。

このように、同社では様々なバックグラウンドを持つ人が働いていますが、未経験者でも国籍が違っても安心して働くことができるのは、後述する人材育成の取組に加えて、社員を尊重し、その挑戦を歓迎する会社の雰囲気があるからです。

同社では月に1回の全役員も参加する会議で「失敗共有会」を開催し、マネージャーが自部門の失敗事例を発表しています。

成功事例の共有はだんだんネタ出しに困るようになりますが、「失敗共有会」では失敗を責めない姿勢が前提のため、事例として共有しやすく、数年続いています。

社員は失敗からの学びを前向きに捉え、次回に活かす方法を考えることで成長に繋げています。

このように失敗を恐れず、失敗もウェルカムな会社の雰囲気が挑戦へのハードルを低くし、若手社員一人一人のチャレンジを支えています。

同社には誰でも働きやすく、チャレンジを通じてやりがいを感じられる職場環境が整備されています。

さらなる人材育成

平川さんは「異なる経歴を持った社員一人一人が活躍の場を広げ、新たな価値創出に繋がればという考えのもと、これまで以上に「人材育成」に力を入れていきたい」と話します。

未経験者が多いヒラカワでは、業務に必要な資格は採用後に取得してもらい、取得にかかった費用は合格を条件に会社が全て負担する制度を設けています。

さらに、これまで研修の中心は1対1のOJTの研修でしたが、今年からは様々なオンラインツール等を利用したシステマチックな研修も実施しています。

これまでの研修では、教える人によって教え方が違ったり、用いる教材が違ったりなど研修の質に差が出ていました。

しかし、今後はオンラインツールを利用した研修を開始するとともに共通のテキストを作成し、研修の内容と質を統一化します。
これにより、研修の動画や教材を振り返ることができ、一人一人にあったペースで学びを深めることができます。そして、将来的には、初級・中級・上級など、個人の経験や能力、知識に応じた研修をつくりたいと考えています。

また、同社では社員のモチベーションを向上させるため、人事評価制度の見直しを行いました。これにより、高卒・大卒問わず個々のスキルに応じた早い昇級を可能にするとともに、いかにお客様のことを考えて仕事しているか、いかにお客様の役に立つ提案・サービスを行ったかなどを重視して、優秀な社員を表彰する制度も設けました。

そして、平川さんは「提供する製品やサービスが社会にどのように役立っているかを研修や日々のコミュニケーションの中で社員に認識してもらいたい。そうすることで、メンテナンスなどの保守サービス一つをとっても、ボイラが社会のインフラとして必要不可欠であることの重要性を社員に自覚してもらい、やりがいを感じるようになってほしい。」と話します。

現場で活躍する社員の様子
現場で活躍する社員の様子

社内も顔の見える関係性を

社内イベントも多く、BBQや懇親会など社員同士の交流が活発に行われています。

近年では、ヒラカワの全国の社員が集まり、部門も年齢もばらばらの社員で6人ほどのグループを組み、テーマを決めて一緒にディスカッションをする機会を設けています。

これまでは、地域も仕事も違うとなかなかコミュニケーションがとれず、「電話で話したことがある」くらいの関係性にとどまっていましたが、一緒の作業を通じて会話することで、仕事でも連絡しやすく、気軽に話せる関係性の構築を目指しています。

また人材育成に資する人事異動も積極的に行っており、若手は3~5年くらいで親和性の高い部門間(設計と開発など)で異動を行い、技術と開発のメンバーはローテーションさせることで、お客様のニーズに応えられる人材の育成を目指しています。

管理職においては、部門をまたいだ異動もあり(製造から営業など)、他部門を経験してもらうことで他部門の仕事が分かるようになるだけでなく、自部門についても客観的に見ることができるようになります。

このように社内交流や人事異動を積極的に行うことで、幅広いバックグラウンドを持つ社員同士の繋がりを広げ、チームワークのいい会社・職場環境をつくりあげるとともに、一人一人のスキルアップ、会社全体の魅力向上を図っています。

株式会社ヒラカワ 若手社員
株式会社ヒラカワ 若手社員

今後のヒラカワ

ヒラカワでは創業110周年の記念事業で『学研 まんがでよくわかるシリーズ183ボイラーのひみつ』を出版しました。その本は全国の図書館に置かれています。

また、「ボイラっておもしろい。将来ヒラカワで働きたい。」と思ってもらえるように、地域の小学生たち向けに工場見学の受入も行っており、実際、見学に来た小学生の中には「ヒラカワで働きたい!」と言ってくれる子もいます。

同社は社員からもお客様からも地域の子供たちからも愛される会社になっており、同社の製品はビルやホテル、病院など全国各地、様々な場所で利用されています。

今後もヒラカワは時代の変化とともに、お客様に寄り添いながら、挑戦を続け、全国に「ヒラカワファン」を増やし続けていきます。

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近畿経済産業局 公式note