新生堂薬局 タニタカフェとのコラボで調剤薬局の新業態を開拓

調剤薬局やドラッグストアなどを展開する新生堂薬局は創業以来、「相談できる薬屋」として地域の健康を支えてきた。福岡市に開業した「新生堂ヘルスケアステーション薬院」は調剤薬局と健康相談、タニタカフェとのコラボレストランという、いままでにない構成の新業態店舗として話題を集めている。

2024年9月に開業した「新生堂ヘルスケアステーション薬院」

レストランを併設した
気軽に健康相談ができる新店舗

1978年に福岡県で創業した新生堂薬局。営業戦略本部 副本部長の兼田直樹氏は「原点は祖母が長崎県南島原市で開業した調剤薬局、いわゆる町の薬屋さん」だと語る。現在は福岡県と熊本県を中心に調剤薬局99店舗とドラッグストア52店舗のほか、フィットネスクラブなども運営しているが、目指す姿はいまも変わらず「相談できる薬屋」だ。

兼田 直樹
新生堂薬局 営業戦略本部 副本部長
(福岡校5期生/2023年度修了)

「医師の処方箋を持って行く調剤薬局には病気になってから行く場所というイメージがあるのではないでしょうか。一方、ドラッグストアは市販薬だけでなく、生活雑貨や化粧品なども扱っていて、買い物を楽しむ場所というイメージです。当社のポジショニングはそのどちらとも違い、健康なときから気軽に相談できる存在でありたいと思っています」

その思いを込めた新業態の店舗「新生堂ヘルスケアステーション薬院」が2024年9月、福岡市の西鉄薬院駅ビルにオープンした。一番の目玉となる施設はイタリアンレストラン「シンプラスキッチン×タニタカフェ」だ。タニタカフェとは計測器で知られるタニタが手掛けた飲食業態で、全国にコラボ店舗を拡大している。新生堂薬局は、広島県でタニタカフェを展開するマイライフの支援を受け、コラボ店舗を立ち上げた。

カラダがよろこぶメニューを提供する「シンプラスキッチン×タニタカフェ」

「マイライフさんが運営するタニタカフェで初めて食事をしたとき、塩分を控えても調理法次第でこんなに美味しくてできるのかと驚きました。当社にはそれまで飲食部門がなかったのですが、タニタさんのビジョンやタニタカフェのブランドメッセージに共感した社長が当社の強みを生かせる業態だと判断し、飲食への挑戦を決めました」

シンプラスキッチンでは、タニタカフェとのコラボメニューである1/2 日分の野菜が摂れるワンプレートランチのほか、塩分やカロリーに配慮したオリジナルのメニューも提供する。「周囲にオフィスも多いことから、ランチタイムは非常に好調」で、これからさらなるメニュー開発で、魅力を高めていきたい考えだ。

初めて学んだブランディングや
マーケティングが良い刺激に

兼田氏は2015年に新卒で入社し、薬剤師として調剤薬局に5年間勤務したのち、エリアマネージャーやドラッグストア店長などを経て、2021年に商品部のバイヤーを任された。その半年後、社長から事業構想大学院大学への進学を勧められる。社長は兼田氏の従兄弟で、自身も若いころに様々な勉強をした経験から、事業承継者である兼田氏にも学びが必要と考えてのことだった。

「社長は東京でMPDのイベントに参加して良い印象を持ち、福岡校でのプロジェクト研究にも社員を派遣していましたから、私もMPDのことはある程度知っていました。久しぶりの学生生活ですし、薬学部とは全く違うカリキュラムなので、何が学べるのかワクワクしました」

MPDでの2年間を経て、兼田氏はオーガニックやヘルステックを盛り込んだドラッグストアの新業態を構想した。近年、ドラッグストア業界では価格競争と大手による寡占化が進んでいることから、もともとドラッグストアからの脱却というテーマを持っていたが、「MPDで事業構想を研究したことで、自分は商品やサービスの機能価値しか考えていなかったと気づかされました。ブランディングとマーケティングはいずれも当社になかった視点で、これらを取り入れればもっと会社を強くできる」と確信したという。

福岡の女性たちの健康な
暮らしをお手伝いしたい

その機会は早々に訪れた。2024年春から薬院のプロジェクトに本格的に関わることになったのだ。その時点で、メインターゲットが女性で、タニタカフェの併設は決まっていたが、広島のタニタカフェをそのまま持ってくる計画だったため、「地域課題を解決するために出店するのですから、どういったお店にすべきかを改めて考えましょう」と社長に進言。それから「福岡の女性にHealthy & Happyを届ける福岡初のコンセプトストア」というコンセプトが決まり、屋号やロゴデザインなどを定めていった。

「もともと福岡市には40歳代の健康リテラシーが低いという課題があり、周辺オフィスでは女性が健康に意識を向けないまま働いているのではないかと考えました。そこで新店舗にはタニタカフェのほかに、処方箋に対応する調剤薬局と、管理栄養士が常駐して健康相談などに応じるシンプラスラボを設けることにしました」

気軽に健康相談ができるシンプラスラボ

木目調の商品棚を採用し、居心地の良い空間を演出

調剤薬局はゆったりとしたスペースを確保

一般の調剤薬局でも体組成計などは置いているが、シンプラスラボでは野菜摂取量・肌タイプ・体組成・疲労ストレスなど、プロ仕様の測定器7種類を設置したほか、物販エリアではスキンケア用品や健康食品、医薬品などに加えて、高価格帯のボディケア用品やフェムケア用品などを取り揃えた。既存店舗とは一線を画す品揃えだが、これら商品選定は実際に店舗で勤務する女性スタッフに任せた。その判断が奏功し、「オープン以来、従来の調剤薬局では考えられないくらいの売上」が続いている。

「今後は認知度向上がテーマで、インターンシップの受け入れや取材対応などを通して、皆さまに知っていただく活動に力を入れていきます。長期的にはここを病気と関係なく立ち寄れる場所、地域の社会課題解決に貢献できるハブのような場所にしたいと考えています。当社は中小企業ですから、投資額などは大手に及びませんが、地域に根ざし、お客様目線でチャレンジを続けていきたいと考えています」