キャリアの可能性を広げる「セルフ・エフィカシー(自己効力感)」とは

新規事業の立ち上げを任された、同じ部署で昇進をした、異動の打診をされた、そのときに、「自分に本当にできるだろうか」と不安が先に立つ人は少なくありません。転職を考えているものの、「新しい環境でうまくやれる自信がない」と踏み出せないという人もいるでしょう。能力や経験は十分あるはずなのに、なぜかその一歩を踏み出せない――。
キャリアの転換期において、多くの人がこうした心理的な壁に直面します。この壁を乗り越える鍵となるのが、「セルフ・エフィカシー(自己効力感)」という概念です。本記事ではセルフ・エフィカシーの意味や活用について解説します。個別相談はこちらから受け付けています。リンク先の下段に申し込みフォームがあります。

セルフ・エフィカシーとは何か

セルフ・エフィカシーは、カナダの心理学者アルバート・バンデューラが提唱した概念で、「特定の課題や状況に対して、自分は適切に行動できるという確信や期待」を指します。
よく混同されがちですが、単なる「自信」や「自己肯定感」とは異なります。自信が漠然とした感覚であるのに対し、自己効力感は「この課題なら自分にできそうだ」という、より具体的な見込み感です。また、自己評価(自分の価値をどう見るか)とも区別されます。
たとえば、プレゼンテーションが得意な人でも、初めての海外で交渉となると自己効力感は下がるかもしれません。つまり、課題や状況によって変化するのが特徴です。

なぜキャリアにおいて重要なのか

自己効力感の高さは、キャリアにおいて大きな影響を及ぼします。
自己効力感が高い人は、新しい挑戦に積極的に取り組み、困難に直面しても粘り強く行動を続けることができます。一方、自己効力感が低いと、能力があってもチャンスを逃したり、挑戦そのものを避けてしまったりします。
特にキャリアの転換期――転職、昇進、新規事業への参画、セカンドキャリアの構築など――においては、未知の領域に踏み出す必要があります。以前、「プランドハプンスタンス理論とは? 求職者が知るべきキャリア形成の新しいアプローチ」の記事でも紹介をしていますが、楽観性や好奇心といったものに加えて、「自分にはできる」という感覚(つまり、セルフ・エフィカシー)が、行動を起こす原動力となるのです。

セルフ・エフィカシーが低いとどうなるか

自己効力感が低い状態が続くと、さまざまな機会損失が生まれます。
新しい役割のオファーを断ってしまう、転職活動を始める前から諦めてしまう、困難にぶつかったときにすぐに投げ出してしまう……。こうした行動パターンは、本人の能力不足ではなく、自己効力感の低さが原因であることが少なくありません。
結果として、キャリアの選択肢が狭まり、本来持っている可能性を十分に発揮できなくなってしまいます。

セルフ・エフィカシーを高める4つの方法

心理学者アルバート・バンデューラは、人が行動を起こす際の“自信の源”である自己効力感(セルフ・エフィカシー)を高めるための、4つの主要な情報源を示しました。ここでは、それぞれの方法を日常生活に生かすヒントとともに紹介します。

1.    達成体験 ― 小さな成功を積み重ねる

最も確実に自己効力感を高めるのは、自分自身で成功を経験することです。
大きな成果を狙うよりも、まずは「できそうなこと」から取り組み、着実に達成していくことが大切です。たとえば、プレゼンテーションで緊張しやすい人なら、「今日は目線をしっかり合わせる」「冒頭の1分だけ笑顔で話す」など、小さなステップを設定してみましょう。一つひとつ成功を重ねることで、「自分にもできる」という感覚が自然と育まれます。

2.    代理体験 ― ロールモデルから学ぶ

自分と似た立場の人が挑戦し、成果を上げている姿を見ることも、大きな刺激になります。「あの人にできるなら、自分にもできるかもしれない」そう感じられるロールモデルの存在は、私たちに勇気と希望を与えてくれます。
身近な同僚や友人でもよいですし、書籍やインタビューを通して触れる誰かでも構いません。大切なのは、「成功は特別な人だけのものではない」と実感できることです。

3.    言語的説得 ― 励ましの言葉を力に変える

信頼できる人からの励ましやフィードバックは、自己効力感を後押しします。
ただし、単なるお世辞や根拠のない「すごいね」では効果が長続きしません。「プレゼンテーションの構成がわかりやすかった」「準備の段階から努力していたね」など、具体的な行動や成果に基づいた言葉が心に響きます。
また、自分自身に対してもポジティブな言葉をかける「セルフトーク」を意識することで、前向きなエネルギーを維持しやすくなります。

4.    生理的・情動的状態 ― コンディションを整える

人は疲れているときやストレスが強いとき、「どうせ無理だ」と感じやすくなります。逆に、心身が安定しているときは、物事を前向きに捉え、挑戦しようという意欲が湧いてきます。
深呼吸や軽い運動、十分な睡眠など、体を整える習慣は自己効力感を支える基盤です。気持ちが落ち込んだときこそ、自分を追い込むのではなく、コンディションを整えることから始めてみましょう。

ビジネスシーンでの実践例

たとえば、営業担当者がマネジメント職に転換する場面を考えてみましょう。
まずは、小規模なプロジェクトでチームリーダーを務めるなど、自ら成功体験を積む(達成体験)ことから始めます。次に、先輩マネージャーの仕事ぶりを観察し、どのようにチームをまとめているかを学びます(代理体験)。そのうえで、上司や同僚から具体的な行動に対するフィードバックや励ましを受ける(言語的説得)。さらに、新しい役割への不安やプレッシャーを感じたときには、意識的にリフレッシュの時間を設け、心身のバランス(生理的・情緒的状態)を整えることも大切です。
こうしたステップを丁寧に踏んでいくことで、「マネージャーとして自分はやっていけそうだ」という感覚、つまり自己効力感が徐々に高まっていきます。

組織や周囲ができること

自己効力感は個人の取り組みだけでなく、組織や周囲のサポートによっても高めることができます。
上司やメンターは、メンバーに適切な難易度の課題を与え、小さな成功体験を積ませることができまるでしょう。また、具体的な行動に対して建設的なフィードバックを提供することも重要です。
組織全体としては、失敗を許容する文化や挑戦を奨励する仕組みづくりが、メンバーの自己効力感を育む土壌となります。心理的安全性という言葉を耳にしたことがある人も多いと思いますが、「ここでは自分らしく発言をしても大丈夫だ」と思える安心感が自己効力感を高める要因のひとつになります。

事故効力感は育てられる

セルフ・エフィカシー(自己効力感)は、生まれ持った性格ではなく、経験や環境によって育てることができるものです。
キャリアの転換期に立ったとき、「自分にはできない」と思い込む前に、自己効力感を高める具体的な行動を起こしてみてください。小さな成功体験を重ね、ロールモデルを見つけ、信頼できる人からのフィードバックを得る。実は身近に、たくさんのリソースがあるのですが、そこに目が向かないことも多いと思います。
そうした積み重ねが、あなたのキャリアの可能性を大きく広げていくはずです。転換期に備えて、キャリアコンサルティングを受けてみるということも自己効力感につながるきっかけになるかもしれません。

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酒井
酒井 信幸
キャリアコンサルタント/社会構想大学院大学 事務局長 兼 先端教育研究所研究員

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