工芸シンポジウム2026、「越境」テーマに海外展開と新たな価値づくりを議論

日本政策投資銀行、日本工芸産地協会、読売新聞社の共催による「工芸シンポジウム2026 工芸は越境する 〜日本から世界へ、伝統から未来へ〜」が2026年4月22日、東京・よみうり大手町ホールで開催された。読売新聞社が展開する「Action!伝統文化」の一環で、3回目となる今回は工芸の海外展開と異分野との掛け合わせを主題に、350名の参加者を集めた。

冒頭、林芳正総務大臣が挨拶し、世界でも比類のない日本の工芸品の魅力と技を継承していくことの意義とともに、日本の基幹産業になりつつあるコンテンツ産業をさらに押し上げていく上でも、その土台となる日本の伝統文化や歴史について考え、守っていくことが重要であるという認識を示した。続いて読売新聞グループ本社の山口寿一代表取締役社長が挨拶。能登半島地震で大きな被害を受けた輪島塗をはじめとする工芸の支援に貢献したいという思いから始めた同シンポジウムが、日本の工芸についての議論を深める機会として、回を重ねるごとに注目を集めていることを述べた。

基調講演「世界のまなざしと工芸〜海外展開の歴史と現在」では、日本政策投資銀行・宮川暁世産業調査部長が登壇。明治維新以降の約100年、日本の工芸は輸出産業として発展し、国も輸出産業化の政策を進めてきたと整理。明治のジャポニスム、大正から昭和初期のモダンデザイン導入、戦後の対米輸出と、常に「海外からのまなざし」を意識して変化・発展してきた日本の工芸のありかたを、様々な作品の例とともに振り返った。2000年代以降はブランド化に成功する事業者が増え、日本から工芸に新たなまなざしを向けるプロジェクトも登場してきたとして、続くトークセッションへと繋いだ。

セッションⅠ「工芸の海外展開〜そのビジネスモデルを考える〜」には、広島県安芸郡熊野町の熊野筆メーカー・白鳳堂・髙本光常務取締役、先端テクノロジーと職人技の掛け合わせで美しい木製家具を追求するレグナテック(佐賀県)の樺島賢吾代表取締役社長、石川県輪島市の岡垣漆器店(千舟堂)・岡垣祐吾代表取締役が登壇。モデレーターは日本工芸産地協会・原岡知宏事務局長が務めた。

「過去(海外展開前夜)」「現在」「未来」の3部構成で議論が進んだ。第1部では、白鳳堂が自社開発の化粧筆を国内で売り込めない15年を経て海外ブランドから評価を得た経緯、レグナテックがデザイナーのガブリエル・タン氏との出会いからブランド「ARIAKE」を立ち上げた過程、岡垣漆器店が能登半島地震後にニューヨークでの出店を決断した経緯が語られた。第2部では、白鳳堂がほぼ全工程手作業の高品質を武器に、2003年に青山・骨董通りへ自社ブランド店を出店し、OEMと並行して技を結集した最高峰の筆を国内外に展開していること、レグナテックが「有明ワークショップ」合宿で海外デザイナーと工場スタッフが一体となって新商品を生み出し、現在約20カ国に展開していること、ニューヨークの千舟堂オープニングレセプションでは80人想定に300人以上が集まり、漆の海外での可能性を実感したことが共有された。第3部では、生産能力と品質維持の両立が共通課題として浮上し、産地内連携や地産地消型の海外生産が解決の方向性として示された。

セッションⅡ「『工芸』×『世界X』の答えを探る」には、国立工芸館・唐澤昌宏前館長、日本の職人の伝統技術と建築家・デザイナーの空間づくりを繋ぐ伝統技術ディレクターとして活躍するt.c.k.wの立川裕大代表取締役、ブロックチェーン技術を活用し「アートとしての工芸」を国内外に販売・流通させる「B-OWND」の石上賢プロデューサーが登壇。日本経済研究所・倉本賢士研究主幹がモデレーターを務め、プロデューサー・キュレーターのそれぞれの立場から、世界における日本の工芸のありかたについて踏み込んだ議論が展開された。

まず、日本の工芸の現状について、産業全体の市場規模の小ささと、職人一人当たり生産高の低さについての認識が共有され、世界でも比類を見ない素材や技術力を誇る日本の工芸品にしかるべき付加価値をつけ、本来戦うべきラグジュアリー市場に入っていくための手立てを講じる必要が指摘された。

その上で、「作り手と市場をいかに結ぶか」、「工芸を世界にどう開くか」について議論がなされた。LVMHグループのビジネスモデルと対照させながら、高度な職人技と品質を誇る工芸に付加価値を生み出すブランディング・マーケティング・経営の強化が急務であるという課題が共有された。その中で、ヨーロッパで「芸術」や「アート」が特権的な地位を与えられてきた経緯と欧米的な評価軸に対し、日本の「工芸」をどう位置付け、価値を発信していくかという土台からの議論と戦略について、各登壇者の経験や知見に基づく意見が提出された。

日本の工芸への「タッチポイント」づくりの方法論も論点となり、使い手の生活世界にフィットさせながら工芸を用いる醍醐味を感じてもらうというt.c.k.w立川氏の方針や、ヴェネチア・ビエンナーレ等の国際美術展への出展を通して発信するという「B-OWND」の石上氏の試みが示された。

一方、唐澤氏は、2023年3月の国立工芸館でのオープニング以来、累計77万人を動員し、現在も世界を巡回している「ポケモン×工芸展 美とわざの大発見」のこれまでの成果を事例として報告。工芸が持つ素材の豊かさや技の幅広さと、ポケモンの多様なキャラクターや物語との親和性が高かったことに加え、工芸の「モノ」としての存在感が、液晶画面越しでは味わえないリアルな手触りとともに、ポケモンというキャラクターの新たな魅力を引き出したことを指摘。工芸の新たな可能性とともに世界の人々を魅了していると語った。

セッション後、日本政策投資銀行の太田充会長がシンポジウムを総括。工芸に携わる中小の事業者の金融支援も含め、地域経済・産業の活性化に産官学金連携を強化して取り組んでいくという決意で締めくくった。