伊藤忠、電通総研に最大2152億円のTOB 電通とITサービス・リテールメディアで提携
伊藤忠商事、伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)、電通グループ、電通総研の4社は2026年8月31日、ITサービス領域とリテールメディア領域における戦略的提携を発表した。伊藤忠グループは東証プライムに上場している電通総研の株式に対し公開買付け(TOB)を実施し、最大2152億円を投じて最大38.22%を取得する。TOBが成立すれば、電通総研は上場を廃止し、電通グループを親会社とするとともに、伊藤忠グループが約38%を保有する企業となる。伊藤忠は同日開いた記者会見で、ITサービス領域とリテールメディア領域における連携の枠組み全体で将来的にROI8%以上を目指すと説明した。
TOBの買付主体は、伊藤忠商事と子会社のアイエフピーが社員である合同会社VIC。買付価格は1株2880円で、買付総額は最大2152億円を予定する。国内外の許認可を取得した後、2026年11月上旬を目途に開始する予定。買付成立後は会社法に基づく株式併合等の手続きを通じて電通総研の株主を電通グループとVICに集約し、所定の手続きを経て上場廃止となる見込みとしている。
伊藤忠商事の細見研介・常務執行役員第8カンパニープレジデントは会見で、「両グループが中長期的な成長の方向性を共有し、それぞれの顧客基盤や技術・人材を生かして新たな事業機会を広げていく。そのための体制を整えることに本件の意義がある」と述べた。
ITサービス領域では、電通総研とCTCが業務提携契約を締結する。電通総研が持つ製造業向けのコンサルティング力・システム開発力と、金融・コーポレート分野の業務知見・ソフトウェア開発力に、CTCの大規模ITシステムおよびITインフラの構築・運用・保守の強みを組み合わせる。
伊藤忠商事の野田俊介・専務執行役員情報・金融カンパニープレジデントは、「両社はともにITサービス企業だが、顧客基盤の面でも提供価値の面でも重複が少なく、非常に補完性の高い関係にある」とし、2023年に非公開化したCTCを中核とするデジタル事業群全体での協業により「5年後に売上で500億円以上の新たな取引を生み出すことは十分可能」との期待を語った。
CTCの新宮達史社長は、CTCの顧客基盤が通信キャリアや流通業中心、電通総研が製造・金融中心である点を挙げ、双方の強みを生かしたクロスセルが「規模として一番大きくなる」と説明。加えて、市場の急拡大が見込まれるフィジカルAIやサイバーセキュリティ領域での共同プロダクト開発、双方の海外事業の連携促進、人材交流などを進める。CTCはこの提携を「SIer No.1グループ入り」に不可欠な機能補完と位置づけている。
リテールメディア領域では、伊藤忠グループのデータ・ワン、ゲート・ワンと電通が業務提携契約を締結した。伊藤忠グループが持つ「店舗」「メディア」「ID」「購買データ」を一体で活用できる事業基盤に、電通グループの広告・マーケティング領域の知見と顧客基盤を掛け合わせる。
基盤となるのは、3000万ダウンロードを突破した「ファミペイ」、ゲート・ワンが1万1580店舗で展開し1日当たり1500万人超が訪れる国内最大規模のインストア・リテールメディア「ファミマTV」、そしてデータ・ワンが保有する6000万超のIDに紐付く小売流通企業横断の購買データ「Life-Live」だ。Life-Liveがカバーする年間流通総額は10兆円を超える。
具体策として、ファミマTVの商品力向上、購買データを活用したデジタル広告・分析サービスの開発、3社による共同提案を進め、リサーチやIPコンテンツの活用など新規事業も検討する。細見氏は「日本のリテールメディアはまだ発展の途上にある」とし、これまで事業を支えてきた多様なパートナー企業との関係を重視しながら「リテールメディア領域のマーケットそのものを大きく育てていく視点で臨みたい」と語った。
電通総研は「第3の創業」、電通グループはマジョリティを維持
電通総研の岩本浩久社長は、1975年に電通と米GEの合弁「電通国際情報サービス」として創業した第1の創業、2000年の東証一部上場とシステムインテグレーション事業への転換を第2の創業と位置づけたうえで、シンクタンク・コンサルティング機能を強化した社名変更以降の現在を「第3の創業」と表現。「AIの進展で顧客のニーズが高度化し、さらに成長力を高めないと大手との競争に負けてしまうという危機感があった」と述べ、伊藤忠の提案が自社の成長戦略と合致したと説明した。
一方、電通グループは出資比率61.78%を維持し、電通総研を連結子会社として保持する。電通グループの綿引義昌・取締役代表執行役副社長(兼dentsu Japan COO)は、電通総研が売上高で10期連続、営業利益・当期純利益で8期連続の過去最高を記録し、2021〜2025年度の売上高成長率は年率10%超、営業利益率は13.9%(FY25)に達すると説明。売上総利益は600億円を超え、dentsu Japan内では電通に次ぐ約12%の構成比を占め、社内にAI開発センターを設置するなど日本事業のIT・DX領域を担う中核企業であるとして、「現在の出資比率をキープすることが電通グループにとって最善の施策」と判断した理由を説明した。
伊藤忠グループがサプライチェーン領域、電通グループがマーケティング領域に強みを持つ点を踏まえ、綿引氏は「両グループの掛け合わせによってさらに電通総研を成長させられる」と述べ、今回の選択がベストな判断であるとの結論に至ったとした。