事業売却と会社売却との違いとは 概要とメリット・デメリットを解説
(※本記事は日本M&Aセンターが運営する「M&Aマガジン」に2024年12月18日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)
企業が不採算部門を整理し、主力事業へ経営資源を集中するなど、事業戦略の見直しを行う場面で活用されるのが、事業売却です。本記事では、事業売却の概要、メリット・デメリットなどをご紹介します。
事業売却とは?
事業売却は、企業が所有している特定の事業部門を他の企業に売却することです。
売却する対象には資産、それにともなう負債だけでなく、商品などのブランドや流通販路、働く従業員なども含まれます。
不採算部門の整理や、一部の事業への経営権を残したい場合、買い手側が必要な事業だけを引き継ぎたい場合など、企業の戦略的な方針や、財務的な理由から行われます。
事業売却によって、企業は売却対象の事業から得られる資金を活用したり、経営リソースを集中させることができます。
事業譲渡との違い
事業譲渡は「事業の全体または一部を他の会社に譲り渡す」ことを指し、事業売却と事業譲渡は、一般的に同義とされています。
会社法などでは、事業の一部を売買する行為を「事業譲渡」と呼ぶため、事業売却は法律上「事業譲渡」である、と覚えておいた方が良いでしょう。
なお、事業売却の手法として、「事業譲渡」以外にも「会社分割」を活用するケースもありますが、本稿では「事業譲渡」を前提に述べさせていただきます。
会社売却との違い
会社売却とは、事業売却のように事業の一部門を売買するのではなく「会社の経営権(株式)そのものを第三者に売却する」ことを指します。
会社売却が契約など包括的に事業を引き継ぐのに対し、事業売却では個別に各種契約を締結し直す必要があります。
事業売却のメリット(売り手)
事業売却のメリット、デメリットは以下の通りです。
メリット | デメリット | |
売り手 | ・売却後も経営権を残せる ・主力事業に経営資源を集中できる ・株主総会の特別決議で実行できる |
・株式譲渡に比べて税負担がかかる ・手続きが複雑化する傾向がある ・譲渡後の事業に制限がかかる |
買い手 | ・譲受ける事業範囲を指定できる ・対象会社に紐づくリスクを回避できる ・節税効果が期待できる |
・手続き完了までに手間と時間を要する ・買収価格に消費税が課せられる ・新たに許認可等の取得が必要な場合がある |
まず、売り手側にとってのメリットから見ていきます。
売却後も経営権を残せる
事業売却は会社売却のように会社を丸ごと売却するわけではないため、売却後も会社はそのままの形で存続できます。したがって、社名や株主、住所などが変わることはありません。また、売却した事業部門で働いていた従業員も、売却部門から配置替えなどで引き続き雇用することができます。
主力事業に経営資源を集中できる
不採算部門など一部事業を売却することで、資金や分散していた人材や設備などの経営資源を主力事業に集中させることができ、経営の安定化が期待できます。
加えて、事業売却で獲得した資金を黒字事業や主力事業に集中させれば、黒字分野の拡大や安定化を進めることができます。
株主総会の特別決議で実行できる
株式譲渡で会社売却を行う場合、各株主の同意がないと株式譲渡を実行することができません。買い手は株式のすべてを取得したい意向であることが多いため、株式譲渡には、株主全員の同意が必要となり、それが譲渡の障壁となる場合があります。
一方、事業売却の場合は、株主総会の特別決議(総議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の2/3以上の賛成が必要)により実行することができます。さらに簡易の事業譲渡の場合は、株主総会ではなく取締役会の決議(取締役会非設置会社は取締役の過半数の決定)で実行することができます。
事業売却のメリット(買い手)
買い手側から見た事業売却のメリットは以下の通りです。
譲受ける事業範囲を指定できる
事業売却の場合、買い手が必要とする事業を指定し譲受けることができます。そのため投資額を少額に抑えて新規事業を開始することができます。
また、対象範囲が限定されることから、デューデリジェンス(買収監査)の調査費用も株式譲渡に比べて少額に抑えることができます。
対象会社に紐づくリスクを回避できる
対象の事業のみを譲り受けることから、元の対象会社に紐づくリスクは対象会社に残り、引き継ぎません。
例えば過去の税務処理に関する税務リスク、過去の違法行為についての潜在的なリスク、株式の変遷が追えない場合のリスクなどが挙げられます。
ただし当然ながら、引き受けた事業そのものにリスクが紐づいている場合(例:法令違反がある不動産事業を譲受ける)には遮断できません。
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