アマゾンvsウォルマート 最新DXの体験から見えた流通の未来

(※本記事はNTTデータ経営研究所ウェブサイト内の「経営研レポート」に2024年8月26日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

1. はじめに ~AmazonとWalmartの一騎打ちの時代に突入する米国流通市場~

1990年代後半にAmazonがオンライン書店としてスタートした際、米国の流通市場におけるここまで大きな変化を予見する者は少なかっただろう。しかし、20年余りの時を経て、Amazonは小売業界全体に革命をもたらし、その影響は今なお拡大し続けている。特に2010年代以降、Amazonは急速に成長を遂げ、米国小売市場のトップ10の企業ランキングに劇的な変化を引き起こした。

例えば、2010年にはAmazonは米国の小売業ランキングで19位に位置していた。しかし、その後Amazonはその広範な商品提供、革新的な配送サービス、そしてデジタルインフラの強化により、急速にオンラインショッピングの王者としての地位を確立し、8年後の2018年には、米国の小売業ランキングにてWalmartに次ぐ2位へと躍進した。この間、従来のリテール大手たち、特に地域に根ざした小売業者たちは、Amazonが巻き起こした市場の変革によって市場シェアを失った。

図1 米国小売業における売上高ランキングの変化

米国小売業における売上高ランキングを示した表

このような激しい市場変革の中で、唯一Amazonに真っ向から対抗できたのがWalmartである。

しかし、小売業界の絶対的なリーダーとして君臨してきたWalmartも、Amazonの急激な台頭に対して、はじめから対抗策を打てていたわけではいない。当初はAmazonの後追いのような単純なeコマース強化や価格競争の強化を行うにとどまり、Amazonに対する明確な差別化ができずに苦戦していた。そのような中、2016~2017年頃に大幅に戦略を見直した。多くの競合他社がデジタル領域に焦点を絞る中、Walmartは自身の最大の強みである全米に広がる実店舗網を活かし、オンラインとオフラインの融合を図ることでの差別化に集中したのだ。この戦略が功を奏し、現在もWalmartはAmazonに対抗しつつ、依然として市場のトップを守り続けている。

そこで両社の激しい闘いを肌で感じるべく、実際に2023年にロサンゼルス、2024年にニューヨーク(NRF含む)に足を運び、革新的な店舗やデジタルサービスを体験してきた。本レポートでは、Amazonの登場がどのように米国の流通市場を変革したのか、そしてWalmartがその中でいかにしてAmazonに対抗し、現在の地位を維持しているのか、更にこの競争が今後どこに向かっていくのかについて、実際の体験や2019年のロサンゼルス視察・体験との比較を通じて得られた示唆を報告する。

2. AmazonとWalmartの最新DXの体験

破壊的イノベーションを軸に店舗展開を推し進めるAmazon

◇ 体験時の注目ポイント

Amazonの店舗展開の特徴は、デジタル技術を活用したまったく新しい店舗の在り方を創造するという革新性にある。Amazonが単なるEC企業の枠を超え、流通市場の変革者として市場を牽引している秘訣を探ってきた。

◇ Amazon Style~新店舗フォーマット展開と撤退スピード~

実体験した中で、特に印象的であったのは、Amazonが展開した初のファッション実店舗「Amazon Style」である。この店舗は、物理的な店舗とデジタル技術の融合による新たなショッピング体験を提供している。各商品に付与されたQRコードをAmazonのショッピングアプリでスキャンすることで、顧客は試着希望の商品を試着室まで取り寄せることができる。このシステムにより、顧客は試着品を持ち歩くことなく、店内を快適に回遊することが可能となっている。

また、指定された試着室には、選択した商品に加え、AIによるおすすめ品も準備されている。試着した商品に対してサイズ変更や別の商品を希望する場合も、試着室内のタッチパネルから依頼できるため、店舗スタッフとのやり取りを最小限に抑えることができる。

図2 Amazon Style試着室のタッチパネル:「Bring to me」をタッチすると試着室まで商品が運ばれる

Amazon Style試着室のタッチパネルにある「Bring to me」というボタンを写した画像

この革新的なショッピング体験は、非常に便利で新鮮であると感じられた。しかし、いくつかの課題も浮き彫りになった。

まず、店舗が混雑していない(むしろ閑散としていた)にもかかわらず、試着室の準備や試着品を届けるまでに30分以上の待ち時間が発生することもあった。これは、スタッフの配置やオペレーションの最適化が十分でないことが原因と推察する。

さらに、顧客の購買ニーズとのギャップも見受けられた。例えば、取り扱うブランドが限られていることや、取り扱いブランドや商品といった品揃え情報を事前に確認できない点が挙げられる。また、試着頻度が低い顧客にとっては、この試着システムは必ずしも価値があるものとは言えないだろう。

これらの課題を踏まえてであろうか、Amazonは2023年11月にAmazon Styleからの撤退を決断した。店舗は2階建ての大規模なものであったが、Amazonの迅速な意思決定と市場ニーズに対する柔軟な対応を示す事例となった。

◇ ジャストウォークアウト/ダッシュカート~市場投入を通じたアップグレード~

視察の中で注目したのが、形を変えつつ発展を続ける「ジャストウォークアウト」および「ダッシュカート」であった。

ジャストウォークアウトは、商品をレジで購入せずにそのままゲートを通過するだけで購買が完結するシステムである。Amazon GoやAmazon Freshの店舗形態など、多様な展開を見せている。実際に購買をしたAmazon GoやAmazon Freshでは、レジでの決済が不要となる便利さや手のひら認証による入店のユニークさはあるものの、実際に購入したものと決済されたものに不整合がないか不安を感じた。というのも、実際に体験してみると、購入していない商品が決済されてしまうミスや購入した商品をアプリ上で確認できるようになるまでに数時間を要するといった課題が確認できたからだ。こうした不安からか、ジャストウォークアウトは使わずに対面レジを選ぶ消費者が多く見受けられた。

一方、全米小売業業界(NRF)が開催する小売業界の大型イベント「NRF:Retail's Big Show」で体験したゲートレス型は、これらの課題を解決する技術であり、RFID(電波を用いてICタグの情報を非接触で読み書きする自動認識技術)の活用による決済精度の向上と、退店時のゲートを無くすことによる利便性向上が見込まれる。このイベントでは模擬店舗としてアパレル商品を取り扱っていたが、RFIDのコストを賄える商品を扱う店舗では、今後ゲートレスレス型の展開が見込まれるだろう。

図3 ジャストウォークアウト:Amazonアプリ・クレカ・手のひら認証のいずれかで入店

ジャストウォークアウトを使っている様子

ダッシュカートは、レジ機能を備えたショッピングカートであり、カートに入れた商品から合計金額をリアルタイムで確認できる。しかし、生鮮食品の読み取りができないため、手動でタッチパネルに入力する手間があり、かつカート自体が重く、サイズも大きい。そのため、郊外の大規模店舗において有効であるものの、都市型店舗にはそぐわないように感じられた。

とはいえ、ダッシュカートは改良が進んでおり、軽量化や検索機能、位置情報の表示などの機能がアップグレードされている。ジャストウォークアウトでは、大量の店内カメラの設置など店舗丸ごとジャストウォークアウト仕様にしなければならないが、ダッシュカートは店舗の大規模改装を必要としないため、効果検証スピードが速い点も展開を加速させている要因と考えられる。

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