マーク・サヴィカスの「キャリア構築理論」とは? 自分の物語でキャリアをデザインする

現代社会では、終身雇用制度の変化や働き方の多様化により、キャリアは単に「仕事を選ぶこと」ではなく、人生全体の意味や自己実現と深く結びついています。この考え方の代表が、アメリカの心理学者マーク・サヴィカス(Mark Savickas)が提唱したキャリア構築理論(Career Construction Theory)です。
サヴィカスは、従来のキャリア理論が「適性や職業とのマッチング」に焦点を当てる特性因子理論や、決まった段階を経て発達するという発達理論に対して、個人が自分の人生経験をどのように解釈し、キャリアを「構築」していくかを重視しました。つまり、キャリアは他人が与えるものではなく、自分自身が意味づけを行いながら形作っていくものだと考えます。
キャリアは物語(ナラティブ)でつくられる
サヴィカスの理論で特に重要なのは、キャリアを「物語(ナラティブ)」として捉える視点です。人は自分の経験や選択、成功や失敗を物語として整理することで、自分の価値観や能力、人生の方向性を理解します。このナラティブを通じて、未来のキャリアに対する意思決定や目標設定が可能になります。
例えば、相談者が「困難なプロジェクトを成功させた経験」を語るとき、その物語の中で自分はどんな強みを発揮したのか、何に価値を置いているのかが明らかになります。こうした自己理解は、次のキャリア選択やライフプランに直結します。
キャリア構築の核心:適応性と物語化
サヴィカスはキャリア構築を理解する上で、以下の要素を重視しています。
キャリア適応性(Career Adaptability)
変化する環境や予期しない出来事に対応する能力で、4つの次元から構成されます。「関心」(将来への興味)、「統制」(自分でコントロールする意識)、「好奇心」(新しい可能性への探求心)、「自信」(困難を乗り越える自己効力感)です。この適応性が高いほど、キャリアの変化に柔軟に対応できます。
ライフテーマ(Life Themes)
個人の中心的な関心事や価値観を表すテーマで、人生経験を通じて一貫して現れるパターンです。過去の経験や出来事を振り返り、意味づけを行うことで、キャリアの方向性を描くライフテーマが明確になります。これにより、自分の価値観や行動のパターンが理解できます。
ライフポートレート(Life Portrait)
統合された自己概念で、自分がどのような人間であるか、何を大切にしているかの全体像です。職業的パーソナリティ(適性・関心・能力)と社会的役割(家族や職場、地域社会などで果たす役割)の両面から構成され、キャリアの選択や満足度に大きく影響します。
実生活への応用:キャリア・ストーリー・インタビュー
キャリア構築理論は、キャリアカウンセリングや自己分析に広く活用されています。代表的な手法が「キャリア・ストーリー・インタビュー(Career Story Interview)」です。これは「これまでの経験で誇りに思うこと」「困難を乗り越えたときのストーリー」「憧れの人物や好きな雑誌・本」などについて語ってもらうことで、その人のライフテーマを明らかにする技法です。
また、自分のキャリアを文章や図、絵などで「可視化」することも有効な手段です。これらの手法を通じて、自己理解を深め、次のキャリア選択に活かすことができるでしょう。
なぜ今、この理論が重要なのか
雇用の流動化が進み、一つの会社で定年まで働くという従来のキャリアモデルが崩れつつある現代において、サヴィカスの理論は特に意義深いものです。AI技術の発達や働き方の多様化により、私たちは生涯にわたって複数のキャリア転換を経験する可能性が高くなっています。
サヴィカスは、キャリアとは決して一度きりの選択ではなく、人生を通じて「意味をつむぐプロセス」であると強調します。職業の種類や肩書きだけでなく、自分の価値観や経験を活かし、物語としてキャリアを構築していく考え方は、変化の激しい現代において非常に実践的です。
まとめ
マーク・サヴィカスのキャリア構築理論は、キャリアを「適性や条件とのマッチング」ではなく、「自己の物語を通じて自らつくり上げるもの」と捉える点が特徴です。キャリア適応性を高め、自分の経験や価値観を整理して物語化することで、より納得感のあるキャリア選択が可能になります。人生のさまざまな局面で、自分の物語を意識し、変化に適応する力を育てることが、現代におけるキャリア構築の第一歩といえるでしょう。
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- 酒井 信幸
- キャリアコンサルタント/社会構想大学院大学 事務局長 兼 先端教育研究所研究員