国立競技場 「MUFGスタジアム」に

2025年10月15日、国立競技場の運営を担う株式会社ジャパンナショナルスタジアム・エンターテイメント(JNSE)は、株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が第一号の「ナショナルスタジアムパートナー」になったと発表した。このパートナーシップに基づき、2026年1月から国立競技場の呼称は「MUFGスタジアム」となる。ただし、正式名称は国立競技場のままであり、各競技団体等が定めたクリーンスタジアム規定及びそれに準拠するルールに基づいた運用が必要とされる場合は、「国立競技場」と呼称される。これは単なる命名権(ネーミングライツ)の売買にとどまらず、日本のシンボルである国立競技場を核に、社会課題の解決や新たな事業価値を創出する、新しい事業構想の幕開けとなる。

今回の契約の核心は、「ナショナルスタジアムパートナー」という、これまでの命名権ビジネスとは一線を画す「共創」の仕組みにある。国立競技場の公共性を維持しながら、パートナー企業の知見やアセットを掛け合わせ、スポーツ振興はもちろん、次世代育成、環境保全、文化交流、地域連携、そして新たな事業共創といった、多角的な社会価値を生み出すことを目的としている。なお、今後さらに複数社のナショナルスタジアムパートナーが加わる予定で、2026年度中の契約締結を目指している。

「MUFGスタジアム」という新たな呼称のもと、国立競技場は単なる競技の場から、文化・経済・地域・社会とつながる「未来型スタジアム」への進化を目指す。この進化を象徴するプロジェクト群は「KOKURITSU NEXT(コクリツ・ネクスト)」と名付けられた。具体的な共創施策として、MUFGの総合金融グループとしての広範なネットワークを活かし、国立競技場の価値向上と社会課題の解決という2つの観点から取り組みが展開される。

また、価値向上のための取り組みとしては、ICT等の先端設備の導入や技術開発支援とそれらの実証実験、スタジアムの人流・商流を活かした新事業の創出、スタートアップ育成に向けたアクセラレーション活動、産官学様々なコミュニティへの接続、そして国立競技場の発展事例を全国のスポーツ施設へ展開し、地域社会の活性化を意識したスポーツ産業の底上げなどが挙げられる。

社会課題の解決のための取り組みとしては、国民や地域の声を反映したスタジアム活用アイデアの実現、スポーツを通じた次世代支援や地方創生、文化継承のグローバル発信拠点としての役割を担うほか、スポーツに関わるすべての人々へのライフ&キャリア設計や金融リテラシー向上機会の提供も行う。

MUFGの亀澤宏規取締役代表執行役社長グループCEOは、「当社グループのビジネス基盤、社会貢献活動の実績を活かして、様々な業界・団体・ステークホルダーの皆さまとともに、新たなナショナルスタジアムのビジョンと構想の実現や、社会課題の解決とイノベーションの創出をめざし活動していきます。グループ15万人の社員が志と覚悟、そして責任をもって、多くの皆さまに親しまれ、共感いただけるスタジアム実現に向けて取り組んでまいります」とコメント。金融という枠を超え、社会インフラの新たな価値創造にコミットする姿勢を鮮明にした。

JNSEは、株式会社NTTドコモ、前田建設工業株式会社、SMFLみらいパートナーズ株式会社、公益社団法人日本プロサッカーリーグの4社による出資のもと設立され、2025年4月より国立競技場の運営事業を担っている。独立行政法人日本スポーツ振興センターから運営を引き継ぎ、民間企業ならではの視点やノウハウを取り入れることで、スタジアムの運営効率化と収益拡大を目指す。

今回のパートナーシップは、大規模公共施設の運営が単なる収益施設ではなく、社会課題解決の拠点へと進化する新たなモデルケースとなる。2026年度からの本格運営開始に向けて、スポーツ・音楽をはじめとする多様な興行誘致、ICT設備の高度化、ホスピタリティエリアの拡張、スタジアム内の飲食刷新、地域との連携強化など、準備が進められる。今後の事業展開に、多方面から大きな期待が寄せられている。