事業構想大 河合教授寄稿 地域イノベーター養成プログラムSHU・HA・RIへの期待

東日本大震災を経験し、少子高齢化に伴う人口減少や長期間にわたる経済の低成長・低迷という課題を抱えるみちのく地域。そこで、地域を活性化するイノベーターを育成するプログラムが10月に始まる。その狙いと理念、計画について、事業構想大学院大学教授の河合孝尚氏による寄稿を掲載する。

なぜ、みちのく地域で地域イノベーターが必要なのか?

近年、コロナ禍の継続や世界的な内紛問題、難民危機など、世界はこれまでの延長線上では判断できない予測不能な時代-VUCAの時代に突入している。他方、日本企業は、国内の少子高齢化に伴う人口減少や長期間にわたる経済の低成長・低迷、地方部の明らかな衰退などが進展しており、新たな事業モデルの構築が急務となっている。また、多くの企業は、SDGsを経営戦略の中心に据えており、ESG投資の流れも影響し地域課題の発見とその解決方法の提示は、新たな収益の種として重要視している部分もある。

このような状況の中で、東日本大震災を経験したみちのく地域は、人口動態的に見ても、これから日本の各地で発生することが予想される社会課題について、先進的に顕在化しつつある地域となっている。また震災から11年経ち、様々な支援により表面的には復興しているように見えるが、まだ解決されていない課題が集積されており、それを解決できる人材が不足している。今こそみちのく地域での地域イノベーターの養成が必要である。

 

地価・物価の安さと物流がみちのく地域の強み

みちのく地域の強みは持続可能な物流システムにある。震災後、特に高速道路網が整備され、首都圏との連結が飛躍的に高まり、優れたシステムが構築されつつある。また首都圏等に比べて地価や物価が安く、使用されていないテナントや場所の活用が容易であり、新しいことにチャレンジしやすい環境がみちのく地域にはある(下、参考資料参照)。よって、みちのく地域で店を始めたい、起業したい、みちのく地域に住んでみたいという若者にとっては好条件が揃っている。

河合先生_図12208b

出典:東北地方整備局

地域イノベーター養成プログラム~SHU・HA・RI~の開発

事業構想大学院大学 仙台では、地域イノベーターを養成する、「地域イノベーター養成プログラム~SHU・HA・RI~(※)」という教育プログラムを開発した(下図参照)。「SHU・HA・RI」は、茶道や歌舞伎、剣道などの芸能や武道におけるプロセスを表す言葉「守破離(しゅはり)」のこと。守破離は仕事で成功するために必要なマインドの1つであり、ビジネスにおける自己実現の成長ステップでもある。

本プログラムでは、事業構想大学院大学仙台を拠点として、みちのく地域における課題を発見し、そこから新事業開発を企画し、推進できる若手(20~40歳程度)の地域イノベーター人材を養成することを目的としている。そして本プログラムで実施するリカレント教育プログラムの受講者の将来的な自立自走に向け、高等教育機関等における横展開、連携企業や自治体、社会人等における活用等を行う予定である。

※ 令和3年度DX等成長分野を中心とした就職・転職支援のためのリカレント教育推進事業採択課題

河合先生_図22208

地域イノベーター養成プログラム~SHU・HA・RI~で期待されること

地域の新事業開発においては以下①~④の能力が求められるが、本プログラムではビジネスにおける自己実現の成長ステップである「SHU・HA・RI」に基づいて内容を構成し、事業開発に必要な基礎的能力を身に付けることができる。

①地域が保有する資源を正確に分析する力

②様々な切り口から地域を観察し、その課題を発見する能力・発想力

③発見した課題をビジネスに昇華させる事業構想力

④地域の中に入り、的確なリーダーシップをとり、プロジェクトを推進していくコミュニケーション力

受講者は、この基礎的能力を身に付けた上で、地域における起業(アントレプレナー・イントレプレナーを問わず)や就職・転職を進める。みちのく地域の自治体等から各地域の課題を提示してもらい、それを起点とした地域で行う新事業を考えるというプログラムであり、地域ビジネスの創業・起業、地域企業への就職・転職、移住等を促す一施策として民間企業や高等教育機関等へ展開していくことを計画している。

地域イノベーター養成プログラム~SHU・HA・RI~の紹介ページはこちら

河合先生2208small2

河合 孝尚(かわい たかひさ) 

事業構想大学院大学教授

静岡大学大学院理工学研究科博士課程修了。情報学博士。2022年4月1日より事業構想大学院大学教授として着任。経済産業省安全保障貿易自主管理促進アドバイザーや他大学の講師等を兼任。これまでに大学におけるリスクマネジメント等に関する実務を多数行ってきた。また教育研究活動として、Well-being教育や、研究公正教育等の教育システムに関する研究を行っている。主な研究分野は、教育情報学、研究インテグリティ、リスクマネジメントなど。


  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※


月刊事業構想では、8月31日(水)まで、アンケートにご回答いただいた方に期間限定の「事業構想オンライン」無料閲覧権(3カ月間)を差し上げる夏季キャンペーンを実施中です。

アンケートでは読者の皆さまの日頃の関心事項や業務課題などを伺い、今後の企画に生かして参りますので、この機会にぜひご回答をお願いいたします。

アンケートへのご回答はこちら