金川刺繍が織りなす、地域との紡ぎ。異業種との紡ぎ。- 金川刺繍株式会社 -
(※本記事は経済産業省近畿経済産業局が運営する「公式Note」に2025年3月12日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

90年の歴史をもつ刺繍メーカー
金川刺繍株式会社は、古くから製造業が盛んでものづくりのまちと知られている神戸市長田区にあり、90年の歴史を誇る刺繍専門の町工場です。
元々は大手服飾メーカーの下請けとして刺繍加工業を営んでおり、多いときには約40名の従業員が在籍していました。
しかし、バブルの崩壊や阪神淡路大震災を機に従来のビジネスモデルでは経営が厳しくなり事業形態を大きく転換。現在は主に個人向けのオーダーメイドの刺繍サービスを社長の金川誠司さんと奥様の早苗さんの2人で手掛けています。
下請けから個人向けに事業を大きく切り替えたため、当初は顧客がほとんどいない状況でしたが、ホームページを積極的に活用した集客に加え、他社では断られるような手間のかかる案件を受注することで顧客の信頼を獲得。リピート率や受注件数の増加に繋がり、今では全国から月に100件以上の依頼が来るようになりました。
90年の歴史の中で培った独自の技術と丁寧な顧客対応を大切にし、個性豊かな製品を生み出し続けています。


オープンファクトリーから始まった、地域との繋がり
金川刺繍は2023年より、「開工神戸」という地域一体型のオープンファクトリーに参加していますが、その1年前に、自社の創業90周年記念イベントとして独自にオープンファクトリーを実施していました。
このイベントは、自社の素晴らしい技術を多くの人に知ってもらいたいという早苗さんの発案がきっかけで開催され、1ヶ月に渡って土曜日・日曜日に工房を一般に開放し、作品展示やライブパフォーマンスを行いました。周知活動は自社の前にチラシを貼っただけ。
本当に人が来てくれるのだろうかと思っていたお二人でしたが、結果は延べ100人以上が来場。このイベントを機に地域の人々や自社のお客さんとのつながりを深めることができ、金川さん夫妻はオープンファクトリーの効果を実感されました。


翌年、同じようなイベントが他にないかと探していたお二人は、神戸市のSNSで「開工神戸」が開催されることを知りすぐさま一般公募に応募。自社の周年イベントでオープンファクトリーに手応えを感じていたお二人にとっては絶好のタイミングであったため、迷わず参加を決めました。
「開工神戸」では、機械で作製したワッペンを缶バッチに貼り付けるワークショップを実施しました。このオープンファクトリーでは、ワークショップを実施する企業はほとんどなかったのですが、刺繍の魅力をより深く知ってもらうためには、実際に体験していただくことが効果的だと考えた金川さん夫妻。
単に商品を並べたり作業風景を見せたりするだけではなく、参加者に自ら体験してもらうことで、刺繍の楽しさや奥深さを実感してもらえると思い、ワークショップを取り入れたと語ります。
その結果企画は大盛況で250人以上が来場。当日は2名のボランティアもいたのですが、あまりの忙しさに昼食を食べる暇も無かったそうです。


オープンファクトリーがもたらした、思わぬ出会いと創造
金川さん夫妻はオープンファクトリーを通じて、業種の枠を超えた様々な人々や企業との新たな関係を築くことができました。
例えば、同じ地域の鞄屋さんと共同で刺繍入りの鞄を製作したり、NFC※タグを扱う企業と知り合い、自作のNFCタグ入り刺繍ワッペンこねっくと®を開発するなど、オープンファクトリーに参加しなければ実現しなかった業種の方々とのコラボレーションが生まれました。
また、異業種との交流でその最たる例が「潮の風(うみのかぜ)」の活動です。「潮の風」は神戸市須磨区、長田区でガラス製品、溶接加工、アパレルとそれぞれ異なったものづくりをしている3代目社長達で構成されていています。

最近はラジオやテレビからの取材もくるほど有名になった「潮の風」ですが、誕生のきっかけは開工神戸の打ち上げの場だったとのことです。
その場でたまたま近くに座っていたそれまで全く交流がなかった4人の社長さんが全員3代目ということで意気投合。当初は定期的に集まってお茶を飲みながらお互いの悩みや思いを共有する会でしたが、SNS活用から活動が始まり、工場の見学会やワークショップなどを実施。

最近では、その活動はものづくり現場だけにとどまらず、地域の映画館とコラボレーションを行い、映画館のロビーでワークショップや販売会を実施するなど、異業種との連携も行っています。

そうした取組が評価され、兵庫の取組を2025年の大阪・関西万博をきっかけに県内外に伝える「ひょうごフィールドパビリオン」にも認定されており、また万博本番でも「TEAM EXPOパビリオン」ステージ発表&展示への参加も決定しています。
※近距離無線通信(Near Field Communication)。端末やデバイスをかざすだけでデータ通信ができる技術。身近な使用例では、キャッシュレス決済や交通系ICカードに使われています。
地域の未来を紡ぐ金川刺繍の挑戦
「開工神戸」は行政が主体となっていますが、金川さん夫妻は町内の各企業それぞれが主体となって同じことが出来たらより良いのではと考えています。
「今後、そのような企業が増えていくことにより地域全体がオープンファクトリーをより認知し、地蔵盆のように地域に根付いたイベントになれば」と語る金川さん。
「その結果、長田の地域をより実感できることとなり、若者の人口流出を食い止めたり海外からの観光客誘致につながったりするのではないかと思います」とも話されていました。
そのためには、もっともっと仲間を増やしていくことが必要です。
「潮の風」はコアとなるメンバーはわずか4人なので大規模に活動することが出来ません。
しかし、今後より多くの人達を巻き込んでいけば今よりさらに面白いことができると金川さん夫妻は確信しています。
潮の追い風を味方につけ長田を盛り上げる同社の活動はこれからも続いていくことでしょう。

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- 近畿経済産業局 公式note