建築がゲームプレイに与える影響
※本記事は『THE CONVERSATION』に2025年4月15日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています。

(Photo by Klapi, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons)
プレイヤーがビデオゲームの仮想世界に足を踏み入れると、そこには複雑に設計された建築空間が広がっている。これらの空間は単なる背景ではなく、建物や道路、都市全体の設計がプレイヤーの感情や行動を誘導し、物語の展開にも影響を及ぼしている。
筆者は、デジタルメディアに特化した建築家として、ビデオゲームにおける建築がどのように意味を伝えているかに関心を持っている。ゲームの仮想空間は、現実世界の建築原理に根ざして設計されていることが多い。
ゲーム内のルールは物理世界とは切り離されている。たとえば、コンクリートの壁を空気のように通り抜けることも技術的には可能だ。しかし、プレイヤーが「どう遊ぶか」を理解する上では、むしろ現実的な直感が重要になる。たとえば、ゲーム内でドアを見れば、開けられる、あるいはその先に何かがあると自然に想像する。ゲームを理解するためには、現実に近い基準が必要であり、そのため多くのゲームの環境は、少なからず現実の建築に似せて作られている。
ゲームにおける建築のスタイルは多種多様である。『アサシン クリード』シリーズに見られる歴史的な都市や、『龍が如く』に描かれる現代の日本の街並みは、その好例だ。これとは対照的に、『Black Myth: Wukong』の古代中国的な風景や、『サイバーパンク2077』のSF都市のような、幻想的な建築も存在する。
一方で、視覚的に革新的な建築空間は、プレイヤーにとって親しみにくくなる傾向がある。これらは、サイズ、形状、素材が現実の建築とはかけ離れており、物理法則すら無視されたデザインであることが多い。その典型例が、インディーゲーム『Manifold Garden』や『NaissanceE』などに見られる。
現実の建築と同様に、ゲーム内の建築にも機能性が求められる。物理的な建設費用は発生しないが、ポリゴン数やテクスチャの制限といった「制作予算」が存在する。建築基準法のような法的制約はないものの、移動距離やルートの設計にはゲームのルールに基づく整合性が必要とされる。
たとえば、『アサシン クリード II』では、主人公が15世紀のフィレンツェの建物を登ったり走ったりする。街の再現度は非常に高く、ゲームをプレイした人なら実際のフィレンツェでもある程度方向感覚をつかめるほどである。ただし、ゲームとしての技術的要件や操作性を考慮し、いくつかの調整が施されている。
街全体と建物はスケールダウンされており、移動やジャンプの距離が短縮されている。現実の都市としては小規模でも、徒歩で30分かかる移動時間は、ゲーム内では非常に長く感じられるためである。
環境によるストーリーテリング
ゲーム内の建築は、プレイの導線を示すだけでなく、物語を語る上でも極めて重要な役割を担っている。これは「環境ストーリーテリング」と呼ばれる。従来のようにセリフやカットシーンで物語を進めるのではなく、空間そのものがプロットやテーマを伝える手法である。
ゲームの空間設計は、背景設定やテーマ、プレイヤーが感じるべき感情をほのめかす。たとえば、『Deus Ex: Mankind Divided』では、悪徳企業が世界を支配するという設定を強調するため、企業のビルは巨大で威圧的な構造として設計され、未来のプラハの空に不気味な存在感を放っている。
あるゲームでは、環境だけで物語を伝えている例もある。アーティストのウィリアム・チュアー氏が開発したパズルゲーム『Manifold Garden』では、空間があらゆる方向に反復し、落下した物体やプレイヤーが上から再登場する世界観が描かれている。チュアー氏は、M.C. エッシャーの代表作『相対性』にインスピレーションを得ており、階段が上下左右に延び、重力の概念を覆すような世界観を参考にした。また、フランク・ロイド・ライト氏や安藤忠雄氏といった現実の建築家からも影響を受け、窓の配置などを工夫して、プレイヤーが空間の中で迷わないよう設計されている。
こうした要素が最も効果的に機能するのは、それらが自然にゲーム空間に溶け込み、かつ過度に目立たない場合である。たとえば、『Mirror’s Edge』では、白を基調とした無機質な都市空間の中に、赤いパイプや扉といった原色の構造物を配置することで、プレイヤーに進行方向や操作対象を直感的に伝えている。これにより、プレイヤーは違和感なくスムーズに行動を誘導される。
一方で、行動のヒントがあまりにも露骨に示されていると、プレイヤーの間では批判の対象となる。『バイオハザード RE:4』や『ファイナルファンタジーVII リバース』では、進行に必要なオブジェクトに黄色のペンキを塗る手法が用いられたが、多くのプレイヤーからは「不自然」として嘲笑された。
つまり、ゲームにおける建築デザインは、魅力的な環境を構築しつつ、プレイアビリティを損なわないという繊細なバランスが求められるのである。ゲームが進化を続ける中で、建築は今後もデジタル空間の設計において、プレイヤーの没入感と創造性を刺激する中核的な要素であり続けるだろう。
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- ガブリエレ・アローニ(Gabriele Aroni)
- マンチェスター・メトロポリタン大学 デジタルアーツ学部 上級講師
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