CO2排出量を見える化するカーボンフットプリント、国内外の取り組みなどを解説
(※本記事は「産総研マガジン」に2024年8月21日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)
カーボンフットプリント(CFP:Carbon Footprint of Products)とは、製品やサービスの原材料調達から使用、廃棄、リサイクルに至るまでの過程を通して排出される温室効果ガス(Greenhouse gas:GHG)排出量を、温室効果をもとにCO2排出量に換算した数値を指します。これにより、どの製品・サービスのCO2排出量が多く、どれが少ないかについての「見える化」が可能となります。CO2排出量の多寡が見えることで、消費者は、より低炭素な製品・サービスを選ぶことができるため、脱炭素社会の実現に寄与します。
CO2排出が引き起こす気候変動が重大な環境問題となっており、その削減は急務です。しかし、CO2は目に見えないため、社会にどれだけのCO2量が排出されているのかを数字で把握することが必要でした。そこで登場したのがカーボンフットプリントです。これは製品やサービスの原材料調達から使用、廃棄、リサイクルまでの流れをライフサイクルになぞらえ、全体でのCO2排出量を計算し、具体的な数字として表示するものです。カーボンニュートラルの実現に向けて、ライフサイクルアセスメントは不可欠なツールとなっています。カーボンフットプリントを取り巻く現状や、産総研の取り組みなどについて、安全科学研究部門持続可能システム評価研究グループの畑山博樹主任研究員が解説します。
カーボンフットプリントとは
カーボンフットプリントとはなにか
カーボンフットプリント(以下CFP)とは、製品やサービスの原材料調達から使用、廃棄、リサイクルに至るまでのライフサイクル全体で排出された温室効果ガス(Greenhouse gas :以下GHG)を、温室効果をもとにCO2量に換算して表したものです。
例えば、自動車の製造過程でどのくらいCO2を排出しているか計算するとしましょう。そのためには、自動車の組み立てや部品加工に必要となるエネルギーに加えて、それぞれの部品の製造で排出されたCO2を計算して合計する必要があります。部品の材料となる金属などは海外から輸入しているため、排出量の計算で考える範囲は日本国内だけにとどまりません。さらに、自動車に乗ることを含めて環境への影響を考えたいのであれば、動力源の種類(ガソリン、電気など)や走行距離を条件として設定することになります。このようにCFPは、原材料調達から使用、廃棄、リサイクルに至るライフサイクルを考えて評価する必要があります。これをライフサイクルアセスメント(LCA:Life Cycle Assessment)といいます。
カーボンフットプリントの見える化について
製品・サービスごとのCFPを計算し、その結果を具体的な数値として表示する「見える化」は、カーボンニュートラル実現に向けた大切な取り組みです。CFPの表示は、環境に配慮した購買行動を消費者に促す一助となります。また、製品・サービスの提供企業も、サプライチェーンの中でCO2排出が多い部分をCFPの計算を通して特定し、そこに対策を集中することで、より効果的にCO2排出を削減することが可能になります。「見える化」は、気候変動の解決に向けた企業の対応策を打ち出すために重要なのです。
カーボンフットプリントの取り組みの現状
国際的な取り組みについて
環境問題は気候変動以外にも、大気汚染や資源枯渇、過剰な水消費など様々な課題を抱えています。欧州連合(EU)では、「環境フットプリント(EF:Environmental Footprint)」として16項目の環境影響を可視化する取り組みが進められています。とはいえ、やはり最も注目度が高いのは気候変動であり、製品の製造、販売にCFPの報告が必要となる欧州バッテリー規制のようなルールも登場しています。
また、2023年6月には、国際サステナビリティ基準審議会の気候関連開示基準がスコープ3*の開示を要求する形で最終化されたことも話題となりました。これにより、上場企業はスコープ3を含めたサプライチェーン全体の情報開示義務を負うことになります。
※スコープ3:スコープ1、2、3は、企業活動に伴うGHGの排出源を3つのカテゴリーに分けたもので、3つを合計した数値がサプライチェーン全体の排出量となります。スコープ3はサプライチェーン上の自社以外でのGHG排出を対象としており、原材料の調達や、製品の使用、廃棄時に出るGHGが含まれます。
日本国内の取り組みについて
日本では、2009年に経済産業省や環境省など4省庁の主導で「カーボンフットプリント制度試行事業」が始まりました。2023年には、経済産業省と環境省が共同で企業に対してCFPの算定方法や表示・開示方法、排出削減の検討方法について具体的な指針を提供するガイドラインや実践ガイドを公表しています。
また、先に述べた国際サステナビリティ基準審議会の動きをもとに、日本版のサステナビリティ情報開示の基準策定が進められています。そこでは、東証プライム市場の上場企業に対してスコープ1、2のGHG排出量の開示が推奨される見込みであり、スコープ3についても議論が進められています。CFPの算定には、サプライチェーン上に存在する多様な業界、多数の企業の協力が不可欠です。
そこで、Green×Digitalコンソーシアムに代表されるような業界横断型の枠組みを構築することで、社会からの「見える化」の要請に応えようとしています。
カーボンフットプリントの算定方法と課題
カーボンフットプリントの算定方法について
CFPをどのように算定し、どのように報告するかは、ISO14044やGHGプロトコルなどの国際基準で示されています。大まかには以下のような流れになります。
(記事の続きはこちらから。産総研マガジン「カーボンフットプリントとは?」)