複数ブランドが連携する画期的なリユースカッププロジェクト カリフォルニアで開始

(※本記事は気候変動やよりよい未来に役立つ情報を掲載する非営利メディア『Grist』に2024年7月10日付で掲載された記事を、許可を得て翻訳・掲載しています)

カリフォルニア州ペタルーマの飲食店が協力し、プラスチック廃棄物を削減するための新しい実証実験を開始する。

コーヒーが入った2つの紫色のカップ。片方は手で持たれている。両方に同じ文が書かれている。
Closed Loop Partners提供

2024年8月、カリフォルニア州ペタルーマの30以上のチェーンレストランや地元のコーヒーショップ、飲食店が、使い捨てプラスチックによる汚染を減らすための初の試みとして、共通化されたリユース(再利用)可能なカップでのドリンク提供を開始する。

ペタルーマ・リユースカッププロジェクトは、食品・飲料業界団体が後援する「次世代コンソーシアム」が主催する3か月間のパイロットプログラムで、顧客は使い捨てカップを希望するか、自分のマグカップを持参しない限り、明るい紫色のリユース可能なプラスチックカップでホットドリンクやコールドドリンクが提供される。飲み終わったカップは、プロジェクトの参加店舗や市内に戦略的に配置された60ヶ所の返却用設備のいずれかで返却できる。

カップの収集、洗浄、再配布はリサイクル物流事業者であるMuuse社が担当する。

次世代コンソーシアムを統括するインパクト投資会社Closed Loop Partnersの専務取締役 ケイト・デイリー氏は、このプロジェクトは重要なマイルストーンになると述べた。これまでのリユースカップに関する取り組みは、特定のスポーツスタジアムだけ、特定のコンサートホールだけといった限定された場所で実施されることが多く、在庫の管理が簡単だった。しかし米国では、今回ほど多くの飲食ブランドでリユースカップを標準化・共通化した市全体のプロジェクトは前例がない。

デイリー氏は、このプロジェクトがペタルーマ市内で「前例のないリユース可能なパッケージの普及」を目指していると語った。スターバックスとマクドナルドが設立し、ペプシコやコカ・コーラなどの企業も支援するこの次世代コンソーシアムの資金提供のおかげで、プログラム開始日の8月5日に向けて、数十万個のリユースカップが市内に配備される予定だという。

参加する店舗にはスターバックス、ピーツコーヒー、ダンキンドーナツ、KFC、ザ・ハビットバーガーグリルなど大手チェーンが名を連ね、ペタルーマ・パイ・カンパニーやティールームカフェなどの地元のレストランやカフェも参画している。Closed Loop Partners社によると、ペタルーマはサンフランシスコの北に位置する人口約6万人の街で、密集した歩きやすいダウンタウンがあり、住民がリユースプログラムに対し好意的であることから選ばれたという。昨年、スターバックスがペタルーマと近隣のもうひとつの都市で小規模なリユースカッププログラムを12店舗でテストしたことで、多くの人々がリユースに慣れた可能性がある。

今回の新しいプロジェクトはペタルーマ限定で、3か月間しか続かないが、大半の原料が化石燃料である使い捨てプラスチック包装の廃止を目指す、他の都市での取り組みにも役立つ可能性がある。米国は毎年約4000万トンのプラスチック廃棄物を排出しており、そのうちリサイクルされるのは5%に過ぎない。残りは埋め立て地や焼却炉に送られるか、ポイ捨てされるがままになっている。

様々なプラスチック廃棄物のうち、使い捨てカップを含む一部のプラスチックはリサイクルされる可能性がさらに低い。米国環境保護庁の最新データによれば、2018年時点で米国は年間100万トン以上のプレートや飲料カップなどのプラスチック製食器を排出しており、ほぼ全てリサイクルされていない

リユースに関する取り組みは、新しいプラスチック包装の需要を減らすことでこの問題に貢献することが期待されている。いくつかの取り組みでは、顧客が自分の容器を持参することを許可している。ある別の取り組みでは、顧客が店舗所有の容器を借りて返却するパターンもある。エレン・マッカーサー財団の調査によると、最も効果的な返却可能な容器プログラムは、材料使用量を最大75%、温室効果ガス排出量を最大70%削減できるという。また、米国企業が使い捨てプラスチック包装の20%をリユース可能な代替品に置き換えることができれば、材料費として約100億ドルを節約できると推定している。

ペタルーマ・リユースカッププロジェクトを企画するにあたり、デイリー氏らは次世代コンソーシアムが以前にサンフランシスコのベイエリアで行った実証試験を含む、従来のリユースプロジェクトよりもスムーズな利用体験を提供することを目指した。重要な焦点は、「Precompetitive Collaboration(※競争前段階における協力・提携)」と呼ばれるもので、すべての要素(カップ、物流、メッセージング)を共有する共通のリユースシステムに競合企業が参加することだった。これは企業の競争本能に反するかもしれないが、企業が独自に管理する代わりに、より大きなリユースシステムに参加することでコストを削減できる。

プログラムへの参加を容易にするため、ペタルーマ・リユースカッププロジェクトは無料で、顧客追跡も行わない。これまでに行われた多くのリユースカップに関する取り組みでは、カップの在庫が減らないよう顧客がリユース容器を借りる際に少額の返金可能なデポジットを請求するか、容器を返却しなかった場合に費用を請求するため、顧客のクレジットカード情報を取得するかのいずれかを行っている。これらのオプションは、プログラム専用のアプリのダウンロードを必要とすることが多い。

しかし、ペタルーマでは、顧客は通常通り飲み物を注文するだけで、追加料金や個人情報の交換は不要である。各カップにはQRコードがあり、顧客にカップの返却方法や返却場所についての指示が記載されたウェブサイトにアクセスできるようになっている。返却場所は、参加店舗、市内のストリートやコンビニ、スーパーマーケットの返却設備、またはMuuseによる自宅ピックアップなどが含まれる。

混雑したコーヒーショップの顧客。前景には木製のテーブルに座る人々がいる。背景では、バリスタから注文する顧客が見える。部屋は明るく照らされている。
Avid Coffeeのオーナー兼社長のロブ・デイリー氏は、自社のロゴが入っていなくてもリユースカップを提供できることを楽しみにしている。「別にカップに『Avid』と書かれている必要も、大きなAの文字がある必要もない」と彼は言った。彼はコーヒー豆のブランドと品質で差別化したいと考えているからだ。Copyright : Avid Coffee

Avid Coffeeのオーナー兼社長であるロブ・デイリー氏(※ケイト・デイリー氏とは無関係)は、ペタルーマ中心部に店舗を構える独立系のコーヒーショップを運営している。彼は、返却場所の広範なネットワークに「参加しない理由がない」と考えた。信頼できる返却ポイントがあることで、「消費者の手間が省け、彼らにとっても楽になる」と語った。「私の店を出たときにドロップポイントを見つけることができるなら、それが私の店のものでも、市内の他の場所のものであっても、それがすべて解決する。」

カップに料金を課さないことや顧客を追跡しないことは、より多くの人々の参加を促すかもしれないが、もちろんそれは同時に一種の賭けでもある。多くの顧客がカップを保管したり返却を忘れたりした場合、ペタルーマ・リユースカッププロジェクトは誰も責任を追及できず、これらのカップを交換する費用を負担しなければならない。しかし、ケイト・デイリー氏は、カップに「飲む、返す、繰り返す(sip, return, repeat)」というメッセージを表示して、顧客に捨てないように注意喚起するなど、この問題を軽減するためのいくつかに対策を講じていると述べた。カップの明るい紫色は、顧客が自宅に持ち帰ってしまわないようにするため、わざと「ちょっとダサい感じ」にデザインされているとデイリー氏は言う。

さらに重要なのは、カップが個々にはそれほど価値がないことだ。カップは安価な硬質プラスチックであるポリプロピレンで作られており、一部が紛失することになっても金銭的には大きな損失にはならない。

他の多くのリユースプログラムもポリプロピレン製の容器を選んでいるが、これには毒性のある化学物質が浸出する可能性があり、リサイクルの課題があるという懸念もある。環境保護団体の中には、使い捨てプラスチックを金属やガラスのリユース容器に置き換えるべきだと主張する団体もある。金属やガラスはより安定しており、リサイクルが容易であるためだ。多くのプラスチックは1回か2回しかリサイクルできず、その後はカーペットなどの低品質な製品に「ダウンサイクル」される。

ケイト・デイリー氏は、ペタルーマのプロジェクトがポリプロピレンを選んだ理由として、他の材料に比べて軽量であるため、輸送中の温室効果ガス排出量が少ないことを挙げた。ステンレス製のカップは、洗浄サイクルを繰り返すうちに水垢がつくことがあり、顧客が不潔だと感じる場合があるという。

次世代コンソーシアムの資金提供は10月末まで続く。その後、このプログラムを続けるかどうか、またそのための資金をどう確保するかはペタルーマ市の関係者が判断することになる。

Closed Loop Partnersの戦略・パートナーシップ担当シニアディレクター、ジョージア・シャーウィン氏は、プログラム終了後も一部の返却ボックスは残り、顧客がカップを返却し続けることができると語った。「今回のプロジェクトの最初の3か月の結果は、ペタルーマ市やその次の段階、同様のプログラムの継続や将来のリユースプログラムがどのようになるかを最終的に示すものになるでしょう」と彼女はメールで述べた。

シャーウィン氏によると、カップは収集された後も「リサイクルされる前にできるだけたくさんリユースする」ことを目指しており、最終的には地元の学校や食堂、企業に寄付する可能性があるという。

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ジョセフ・ウィンターズ
ジョセフ・ウィンターズ(Joseph Winters)