世界で広がる塩害 食料生産可能な土地を塩水農業が増やす

気候変動により耕作地の塩分濃度が高まる中、研究者や農家は塩性作物へと目を向ける。

(※本記事は米NYに拠点を置く非営利組織が運営するウェブマガジン、Reasons To Be Cheerfulから許可をいただき、連載中のシリーズ「ウォーターライン」のひとつを翻訳・転載しています。同シリーズは、水、気候、食の交差点を探る連続した物語のシリーズで、ウォルトン・ファミリー財団からの助成金により提供されています。元記事はこちら。)

気候変動で世界中に広がる塩害に「適応」

オランダのテルスヘリング島で、アルヤン・ベルクハウセン氏と仲間のボランティアたちが農地を探しはじめたとき、彼らはできるだけ「肥沃でない場所」を探した。最終的に彼らが選んだ土地は、オランダ北海岸沿いのワッデン海から堤防を越えた汽水域で、灌漑用水路の水もしばしば塩分を含むことがある。多くの栽培者にとって塩分は忌避すべきものである。土壌や水中の塩分は植物の健康を損ない、作物の収量を減少させる可能性があるからだ。しかし彼らにとっては、その場所は理想的だった。

デ・ジルテ・スマーク(意味:塩辛い味)財団」は、塩分を含む条件で育つ食用植物、たとえばアスパラガスに似た小さな槍のような形をしたサンファイア(Samphire、別名:シーアスパラガス、厚岸草)や、柔らかい葉を持つシーアスター(Sea Aster、別名:ハマシオン、浦菊)などを専門とする農業集団だ。テルスヘリング島は夏の観光地として人気で、この土地で育つこれらの塩生植物は、珍味として島のレストランで提供されている。同財団のプロジェクトは、オランダに多い塩性土壌での農業の可能性を探る多くの取り組みのひとつであり、このような小規模な農地での食用作物栽培もあれば、ジャガイモやビートなどの従来の作物の耐塩性品種の特定など様々だ。

デ・ジルテ・スマーク財団が栽培する野菜の大半は地元のレストランに供給される copyright: デ・ジルテ・スマーク財団

デ・ジルテ・スマーク財団が栽培する野菜の大半は地元のレストランに供給される copyright: デ・ジルテ・スマーク財団

現在、オランダのみならず世界各地の農家が、気候変動による塩害・海水化を要因とする食料生産上の問題に直面しており、世界全体では耕作地の約20%が海水塩に由来する塩害の影響を受けていると推定されている。オランダは国土の4分の1が海面下にあるため、すでに影響を受けている地域もあり、今後数十年で塩害がより顕著になることが予想されている。しかし最近の研究成果では、塩性の強い環境下での農業が可能であることが証明されつつある。

「私たち人間は、常に環境を自分たちに適応させようとしますが、ここでは私たちが環境に適応しようとしているのです」と、デ・ジルテ・スマーク財団の理事、ベルクハウセン氏は言う。

塩害の現状、食料の持続可能性に迫る危機

料理においては、塩は食べ物を美味しくすることができる。しかし農業においては、一般的には悪い影響のイメージが強い。塩が土壌や水に濃縮されると植物にダメージを与え、収量を減少させ、農地を使い物にならなくすることさえある。

オスターブラッド(別名:オイスターリーフ)は、デ・ジルテ・スマーク財団が栽培する塩生植物のひとつ copyright: デ・ジルテ・スマーク財団

オスターブラッド(別名:オイスターリーフ)は、デ・ジルテ・スマーク財団が栽培する塩生植物のひとつ copyright: デ・ジルテ・スマーク財団

「多くの現金作物にとって塩分は良くないため、(近年の塩害の拡大は)より大きな問題になる可能性があります」と、アムステルダム自由大学環境学研究所の助教授であるケイト・ネガッツ氏は言う。彼女はヨーロッパと北アフリカでの塩分農業を研究するSaline Agriculture for Adaptation(SALAD)プロジェクトを率いている。「農作物の収量が悪化すると、食糧安全保障の問題につながることもあります」

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