元エンジニア社長が挑む AI×金融教育で情報格差解消へ
ブロードマインド株式会社は独立系コンサルティング会社として、特定の金融機関に属さず保険や証券、住宅ローンを横断的に扱う金融サービスを20年以上提供してきた。今、元エンジニアの伊藤清社長が目指すのは、顧客とプロの知識格差をなくす「情報の民主化」だ。その実現に向け、AIエージェントを活用した相談体制の構築や、専門職とテクノロジーが共生する新しい組織構築に注力している。商品販売主体のモデルを超え、金融教育とITを掛け合わせた同社の次世代事業構想の全貌に迫る。
現場主義が育む組織の信頼
「共に歩む」文化が判断の土台
――パーパス実現に向け、最も大切にされている企業文化や、社員の皆様が日々の判断の拠り所とする価値観について伺えますか。
ブロードマインドの文化の根底には、私が尊敬するソニー創業者・盛田昭雄氏の精神にも通じる「現場に近い空気感」があります。私自身、元エンジニアでありながら営業現場を歩んできました。経営者となった今も現場の第一線に立ち、全社員にスケジュールを公開して案件相談や同行依頼に随時応じています。この「一緒にやっている感覚」こそが、経営陣と現場の心理的距離を縮め、風通しの良い組織を支えています。
金融業界は専門用語が多く、お客様との間に情報の格差が生まれやすい世界です。だからこそ、社員には「専門用語を使わずに本質を語ること」を徹底させています。例えば医療保険の提案でも、単に費用をカバーする話に留めず、「準備を怠れば負担は大切な家族に及ぶ」という本質的なリスクに向き合う姿勢を共有します。こうした誠実な対話の積み重ねが中長期的な信頼関係の土台となり、ひいては離職率の低さや、社員同士が教え合う文化にも繋がっていると考えています。
金融教育を成長戦略の核に
BtoB領域での新たな収益モデル
――企業向けプログラム『ブロっこり』など、教育事業を戦略の中心に据えられています。その意図と今後の事業展開を教えてください。
従業員向け金融教育プログラム『ブロっこり』は、CSR活動に留まらない明確な成長戦略です。現在、当社の収益の多くは提携先からの送客に依拠していますが、自社主導の教育プログラムを通じて直接お客様の課題を吸い上げる仕組みができれば、収益の質は劇的に向上します。実際に大手食品業や大手ハウスメーカーなど、人的資本経営を重視する組織への導入が加速しています。
教育を通じて「ライフプランニング」の重要性が浸透すれば、自然と具体的な解決策を求める声が上がります。こうした課題解決プロセスを内製化することで、広告費に頼らない健全な集客モデルが構築できるのです。今後は福利厚生の大手企業とも連携し、より広範な従業員層へアプローチを広げる計画です。単なる「物売り」ではなく、教育を入り口にお客様の人生に深く伴走するサービスを広げていきたいと考えています。
教育コストを資産に変える
新たなパートナーシップの在り方
――FP養成スクール『MoneyWith』は、人材不足が課題となる業界でどのような戦略的役割を担っているのでしょうか。
『MoneyWith』の真の価値は、新たなコンサルタント像の創出にあります。私は経験者の奪い合いという「レッドオーシャン」には興味がありません。むしろ異業種から強い志を持って集まる人材を自律的に育成し、当社の文化を理解した「仲間」を増やすことに注力しています。卒業生には異業種出身者や副業を志す方が多く、既に実務での成果も出始めています。
このモデルの画期的な点は、従来企業が負担していた教育コストを、受講生自身の成長投資として捉え直している点です。高いモチベーションを持つ卒業生がオンラインコンサルタントとして活躍することで、採用コストと育成期間を大幅に圧縮できます。彼らには特定の商品の「販売者」ではなく、お客様に寄り添う「教育者」としてのマインドを徹底しています。今後は年間30〜50名規模の卒業生を輩出し、全国どこからでも専門的な相談ができるネットワークを盤石にしていきます。
AIと人間のハイブリッド
テクノロジーで進化する相談体験
――開発中の「AIコンシェルジュ」は、対面重視のコンサルティングをどのように変えていくのでしょうか。
コンサルティングの多くの工程はテクノロジーで最適化可能です。秋の導入に向けブラッシュアップ中のAIボットは、LINEを通じ24時間365日お客様の悩みに応えます。対面相談への心理的ハードルや「売られる不安」を持つ層にとって、客観的なデータを示すAIは非常に親和性が高い入り口となります。AIが現状分析を行い、高度な情緒的判断が必要な部分を人間が担当する「ハイブリッド型」を目指しています。
ブロードマインド株式会社提供
この仕組みにより、業務効率は飛躍的に高まります。さらに、このシステムを自社だけで使うのではなく、地銀や他の代理店へプラットフォームとして提供するBtoBビジネスも構想中です。金融機関において「出向者への依存」が制限されるなど外部環境が変化する中、当社のシステムは強力な武器になります。AIに任せられる部分はAIに任せ、人間は「寄り添う力」を最大限に発揮する。それにより、質の高いアドバイスをより安価に、そして広範囲に届けることが可能になります。
非対称性の解消した先へ
アドバイスが価値を持つ理想社会
――最後に、伊藤社長が最終的に実現したいと願う、金融サービスと社会の未来像についてメッセージをお願いします。
私の理想は、お客様が「アドバイスに対して正当な対価を払う」文化が日本に根付くことです。欧米ではライフプラン作成にフィーを払うことが一般的ですが、日本にはまだその習慣が乏しく、結果として「売り手の論理」が優先される土壌となってきました。しかし、教育とテクノロジーによって情報の民主化が進めば、お客様は「誰が真のアドバイスをくれているか」を厳しく選別するようになります。
私たちは、どこにも偏らない真に中立な「金融のブレーン」を目指しています。例えば相続時においては、一般的なご家庭でも分割しづらい不動産などの扱いで深刻な紛争に発展するケースも増えています。こうした課題を未然に防ぐ知識を広め、人生の不安を解消することが私たちの存在意義です。AIが進化しても、最後の決断に寄り添う「人間力」は代替されません。全社員がお客様の幸せに集中できる組織であり続け、金融の力をすべての人に届ける社会を創り上げたいと考えています。