官民連携で自治体のAI活用を促進する
自治体でも活用が進む生成AI。だが自治体により取り組み状況に差があるのが現状だ。PwCコンサルティング合同会社が事務局を務めるAIガバナンス自治体コンソーシアムの活動を交えながら、国内外の行政機関におけるAIガバナンス事情に詳しい中央大学須藤修教授と、自治体でのAI活用の要諦について議論する。

活用と安全管理の2本立てのガイドライン
――AIガバナンス自治体コンソーシアムにおける直近の活動を教えてください。
橋本 大きく2つの活動を行っています。1つ目は月に一度、自治体関係者やクラウドサービスプロバイダが集まり、情報共有や交換を実施しています。2つ目は2024年度末にかけて自治体におけるAIガバナンスのガイドラインを策定する活動です。政府主導で須藤先生も策定に関わったAI事業者ガイドラインを基に、自治体向けにアップデートしています。
――自治体と接するなかで、どのような気づきやフィードバックがありましたか。
橋本 自治体によって活用の度合いや活用意欲に大きな差があります。住民サービスを提供するという立場上、リスクに注意が向きがちで、職員のリテラシーの課題もあります。AIに親しみを持つ方とそうでない方で取り組みに違いが生まれますが、行政課題をDXで解決することは急務であり、生成AIの活用がカギになると考えています。
――AIガバナンスの検討を進めることの意図や、ガイドラインの意義や考慮点についてお聞かせください。
朝日 ガバナンスというと、リスク管理やブレーキ機構を想起しがちですが、本来はAI技術・活用の面で統治と統制を行い、その価値をいかに引き出すかを考えるための概念です。それを実現するためには安心感のあるAI活用という価値観と対策水準の目線合わせが重要となります。
橋本 ガイドラインは、自治体における先進的な活用事例と安全管理措置の2本立ての構成を検討しています。活用事例を発信することで活用の後押しをしつつ、リスクを感じて躊躇している自治体に向けては、リスク管理についても記載したいと考えています。
朝日 「個々の福祉」と「公共の福祉」の両立が求められる自治体業務でAIガバナンスを考えるにあたり「Responsible AI」がキーワードとして挙げられると思います。

自治体における「Responsible AI」とは
――「Responsible AI」について教えてください。
須藤 「Responsible AI」の基本的な考え方は、プライバシーとデータガバナンス、透明性と説明責任、安全性、公平性と、大きくはこの4点を満たすことで、安全で信頼できるAIシステムを開発し、評価を行い、展開していくことです。国や政府はこれまで積極的に取り組んできた背景がありますが、2024年11月にスタンフォード大学が発表した36か国の取り組み状況の評価によると日本は9位で、インフラ面では高評価ながら開発や活用、経済への影響などでは低評価となっていることがわかっています。
――その状況下で自治体が安心してAIサービスを展開するためには何が必要でしょうか。
須藤 安全性の担保です。利用する根拠を与え、問題が起きたときに責任の所在を明らかにすることです。神戸市は生成AIを使うための条例を制定しており、条例に基づいて安心して使うことができます。政府も法規制が必要と検討を進めていますが時間がかかることは明らかで、その間にも自治体はサービスを展開していく必要がありますし、技術自体も進化し続けることを考えると、短期間で改正しやすい自治体の条例は効果的です。私は多くの自治体行政に関わってきましたが、自治体だけでそれを考えるのではなく、官民連携でマルチステークホルダーによるクリエイティブな構想が必要だと実感しています。
朝日 監査法人としては「規制がどうなるか」は気になる点です。規制に関してはハードロー、ソフトローの議論があるなかで、後者の面でガイドラインがコンセンサスを可視化していきながら、法規制でしっかり線を引くというハイブリッドローになるのではないかと思っています。自治体とコミュニケーションを取るなかでの気づきとして、自治体それぞれ課題が異なるので、使い方を一律に制限する規制は逆効果だと感じます。一方で技術的または倫理的な面での基準づくりや評価を自治体個々に委ねられても困るという声も大きく、規制に対してはマルチステークホルダーによる丁寧な議論が重要だと感じています。
須藤 ハードローに関しては国や政府の関わりがとても重要ですが、多くの自治体の首長は財政も含めて自主性を強化したいと思っているはずです。コンソーシアムではAIなどの新しい技術とともに新しい地方の発展の仕方について検討されているところだと思うので、積極的に提案するべきですね。

マルチステークホルダーによる
多様性のあるガイドラインへ
――今後AIガバナンス自治体コンソーシアムを起点として、AIガバナンスにどのように取り組んでいきますか。
橋本 今は自治体のAIの活用に少しブレーキがかかっている状況だと思います。そこは未知のものへの怖さなど気持ちの問題もあると思うので、ガイドラインでは他の自治体がこういう風に使っているというベストプラクティスとともに、活用時の留意点も発信することで、前向きな気持ちを醸成していきたいと思います。
朝日 ハードロー、ソフトローの観点で言うと、この活動は後者であり、コンセンサスの具体化になります。地域に寄り添う自治体でAIが当たり前に活用されれば日本のデジタル化にも大きなインパクトになるはずです。これが自治体でのAIガバナンスである、というコンセンサスを具体化していければと思います。また、ハードローに関してもコンソーシアムを通じて「ここは国のレベルで考えてほしい」ということを集め、提言などにつなげていければと考えています。
須藤 コンソーシアムはとてもいい取り組みで、自治体だけでなくPwCやサービスプロバイダなど、さまざまなステークホルダーが入り、構想から具体的な取り組みまで考えています。多様な視点が入ることでそれまで見えなかった視点が見えるようになり、多様性のあるガイドラインがつくられると期待しています。

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